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そのイメージ、2011年で止まっていませんか? アップデートしたい福島のこと

2011年から積み上げたデータが広がらず、被害を受けるのは誰か?情報のアップデートが必要な理由。

原発事故がおきた直後を思い出してみる。福島県産の農産物に関する報道がとても多かったはずだ。

「基準値を超えた」というニュースが盛んに取り上げられ、事実、買い控える動きもあった。さて、そのあとはどうなっただろう。

福島県で作られた食べものは危ない?

そんなことはない。

主食のお米でみてみよう。「ふくしまの恵み安全対策協議会」のサイトでわかる。

これは福島県が2012年からはじめた米の全量・全袋検査の結果を示すグラフ(2016年生産分)だ。

福島県で生産された1年あたりおよそ1000万袋以上の米をすべて調べた結果が、一目でわかる。

2016年、放射性セシウムの基準値(1キロあたり100ベクレル)を超えたものは0。それも2014年から0が続いている。

すべて測るというものすごい労力で成り立つ取り組みなのだが、県外では知れていない。

数字をみると、日本の基準値は海外と比べても厳しい。例えばEUの基準なら1キロあたり1250ベクレルとなる。

じゃあ他の農産物は?

他の農産物の検査結果も「ふくしま新発売」というサイトに飛んで調べることができる。

2016年、基準値を超えたものはどれだけあるか?

検査件数の多い野菜や果物、肉類も「該当情報がありません」と表示されるはずだ。

現場の農家のものすごい努力によって、安全は確保されたと言っていい。

でも、問題も別のところに残っている。例えば米はこの6年間で、安く取引されることが当たり前になった

ある農家は、以前、BuzzFeed Newsの取材に「これは買い叩きだ。足元を見られている気がする」と悲しそうな表情で語っていた。

福島の海は死んだ?

これも大きな間違い。

魚介類のモニタリング検査、漁も試験操業という形で続いている。

福島県のサイトで検査結果を確認することができる。

2015年7月から、およそ1年半、基準値を超える魚はでていない。つまり、2016年の基準値超えはゼロだ

発生直後に生きていた魚が寿命を迎え、その後に生まれた個体が多くなってきたことが大きな理由とみていいだろう。

海が汚染され、すべての魚は食べられないということはない。でも、国や行政の検査なんて信用できない、という人もいると思う。

おすすめは民間調査チームの「うみラボ」の検査だ。

いわき市を拠点としたチームで、福島第1原発沖で魚や水質の調査を続けてきた。私も2回ほど調査に同行したことがある。

調査する魚は参加者が釣り上げる。

ホームページの解説もだいたいのところがわかるものと、詳しい結果が両方でているので便利だ。

「うみラボ」で活動する小松理虔さんが書いているように、ここでの検査結果もほとんどが不検出。検出できたとしても、多くは1桁ベクレル程度だ。

じつは、福島の海は死んだどころか再生しているという声もよく聞く。

漁獲量が減ったことで、この6年間で海産資源が回復しているからだ。

この後、操業が本格化するようなことがあれば質の高さでも注目を集めることになるかもしれない。

もちろん、数値上安全だからといって「安心できない」という方もいるでしょう。私も「安全だから食べろ」と言いたいわけじゃありません。

心配な方は、どうぞ他県産の魚を召し上がってください。ただ、常磐のヒラメほどうまいヒラメはそうそうないです。(小松さんの記事より)

被ばくは問題なのか?食事は、外での生活は……

直後から、とても心配されていた子供たちの内部被ばくについては、データを積み上げてきた東京大・早野龍五さんのインタビューがここにある。

乳児用の測定器「ベビースキャン」というのも作って、県内の乳幼児を6000人以上測りましたが、ひとりもセシウムを検出していないんですよね。僕はデータを語って「大丈夫」だと言っているのであって、思想を語っているわけじゃないんです

日経新聞の記事のなかで、医師の坪倉正治さんがコメントしているように「福島の食材を口にしている子も、内部被曝のリスクが低いと分かった」という知見も重要だ。

コープふくしまが取り組んでいる、家庭の食事を検査する取り組み。結果は「2014年度から3年連続不検出」(朝日新聞)。

外部被ばくについても、福島が他の国や、他県と比べて高いのか。高校生が検証した学術論文がある。

結果は「福島の外部被ばく線量は他と比べても高くない」

この6年で積み上がったデータは危ない論から遠いものばかり。それなのに……。

ここでニセ科学の問題を少し……

「原発事故で飛散した人工的な放射性物質と、もとから自然にある放射性物質は違う。人工のほうが危険だ」といったまったく実証されていないような説が、まだまだ飛び交っている。

ニセ科学問題に詳しい菊池誠さん(大阪大教授、物理学)は雑誌「RikaTan」に寄稿し、この説は間違いである、とはっきり断じている。

低線量被曝の健康影響について「よく、わからない」という声もある。

菊池さんは「わからない」という言葉が何を意味するか、に注意すべきだという。

これは正しくいえば、「影響が小さすぎて、科学的な調査にあらわれてこないからわからない」という意味である。

「まったくわかっていないから、どこまでも危険だと思って構えないといけない」ということではない。

ニセ科学といえば、放射性物質の除染にてきめんに効果がある「菌」がある、といった主張がある。

もちろん、そんなものは存在しない。本当に効果があるなら、除染や廃炉でこんなに苦労していない。

固定化するイメージ

今まで見てきたように、6年前におおくの人が感じたであろう、最悪のシナリオは回避されたといっていい。

では、イメージが固定化されるのはなぜ?

以前、福島のテレビ局にいたベテラン記者と話したことがある。

彼はこんなことを言っていた。

「全国紙も東京のテレビ局も、基準値を超えたこと=危なそうな話は大きなニュースで全国的に取り上げるけど、基準値を下回っている=安全が確認された、はニュースにならないんだよね。取り上げたとしても扱いは小さいでしょ」

「なにがニュースなのか。県内メディアと東京の温度差はあるよ」

危ないはニュースになるが、安全はニュースにならない。この問題は環境問題で、食品の健康影響で、犯罪と治安で繰り返されてきたことと同じだ。

メディアでの語り方が変わらず、なにか「危ないなぁ」という印象が残る。

情報がアップデートされず、イメージが固定化することで、実害をうけるのは第一に生産者だ。

消費者だって、良質な食材を手に取る機会が少なくなる。

イメージだらけの危ない論をいつまでも繰り返してはいけない理由は、これに尽きる。