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生まれたときは、男の子だったシンデレラ。整形は彼女に“魔法”をかけたのか

整形前と整形後。彼女たちの中で本当に変わったこととは?

誰もが知っているおとぎ話がある。

継母や義姉にいじめられていた少女が、魔法で美しいお姫様の姿に生まれ変わり、舞踏会で出会った王子様と恋をする。

少女の名前は、シンデレラ。

その名を冠した「整形シンデレラオーディション」という企画を、湘南美容外科クリニックが2015年に始めた。

毎年200人以上の女性が応募し、面談や合宿、トレーニングなど約1年間にわたる審査を経て、無料で整形を受けることができるファイナリストと、その頂点に立つグランプリが選ばれる。

どうして、彼女たちは整形手術を必要としたのか。整形は、彼女たちに“魔法”をかけたのか。

第2回グランプリに輝いた馬場汐音さん(23)と、準グランプリの田中その子さん(20)に聞いた。

生まれた時は、男の子だった

汐音さんが、男として生まれた自分のからだに違和感を感じるようになったのは、小学校高学年のころ。

バレンタインデーに仲のいい女の子がくれた本命チョコを見ても、「でも、私は『女友だち』になりたいのに」と思った。

中学に上がる頃には、風呂場で自分のからだを見るのも嫌になった。

男性がいる場所でトイレに行きたくないから、学校では1日中我慢した。

えら骨が張り、切れ長で涼しげだった目元も「男臭い」から見たくない。

性器がついていることがあまりに気持ち悪くて、ひもで縛って壊死させようとしたこともある。

中学の最初の2年間は陸上に打ち込んで、走ってぜんぶ忘れようとした。でも3年生で辞めてからは、自室の二段ベッドの上で何もせずにただうずくまっていた記憶がある。

誰にも悩みを打ち明けられなかった。

「自分が何も言い出しさえしなければ、このまま平和に過ごすことができるだろうって思って黙っていました。特に、両親を泣かせたくないっていう気持ちがすごく強かったです」

自分は異端、まがい物だと思って消え去りたいと思った。でも、カミングアウトできなかったのと同じ理由で、自殺も思いとどまった。

性同一性障害。その言葉を教えてくれたのは、高校の保健室で知り合った不登校の友だちだった。

ついに「自分は男に生まれたけど、心は女だ」と母親に伝えたとき、「あなたのせいじゃない。私が女の子に産んであげられなくてごめんね」と言われて余計につらかった。

でも一緒に情報を集め、地域の支援グループを探してくれたおかげで、少しずつ道が拓けた。

20歳のときに、タイで性別適合手術を受けた。戸籍も変更した。

それでも、顔にのこされた「男らしさ」を消し去りたくて、整形シンデレラへの応募を決めた。

「SNS時代」の見た目コンプレックス

見た目への深刻な悩みを抱えて整形シンデレラに応募した女性は、汐音さんだけではない。

あまりのコンプレックスからメイクに1日4時間以上かけ、納得いく姿に仕上がらない限り外に出れなかった女性。

小学校で外見をからかわれた経験から、10年近く引きもり生活を送ってきた女性。

2016年に湘南美容外科クリニックで新しく整形手術を受けた患者は、全国で年間5万人以上にのぼる。2006年からの10年間で約14倍もの数に膨らんでいる。

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整形シンデレラオーディションでは、多くの参加者が見た目に関するコンプレックスを打ち明けている

湘南美容外科クリニックで、整形シンデレラの企画を担当する富田聡さんは、その背景には「SNS」の普及があるのではという。

「誰もがSNSを使うようになった現代というのは、芸能人でも何でもない普通の人が、インターネットで自分の写真を披露して、しかもそれが全く知らない他人様に『いいね!』で評価される。すごい時代なんですよ」

「ボディポジティブなメッセージが発信される一方で、実際は外見が綺麗な人ほど得をするような現状が日本社会にはある。何気ない一言の集大成で、誰かが追い詰められている」

そんな中で「せっかく親がくれた身体だから…」と美容整形を否定するのではなく、「せっかく親がくれた命だからこそ、キレイになって楽しく生きたい」と考える若者は少なくないという。

自分の魅力を最大限に

準グランプリに輝いたその子さんは、整形前からモデルとして芸能活動をしており、特段自分の外見に強いコンプレックスがあるわけではなかった。

だが、あるオーディションで男性デザイナーに言われた一言で、足元が揺らいだ。

「経験は未熟ですが頑張ります!と一生懸命アピールした後に、頭のてっぺんからつま先まで見られて、一言、『まあ、でも君はバランスがね…』って」

「その一言で帰されて、もうなんか、努力で何とかなるものじゃないんだって思っちゃったんです」

小さい頃から美容やファッションが好きで、キラキラした世界に行きたいと憧れた。

「かわいくなりたい」の欲求は、素直で、自然な気持ちだった。

だが、実際に整形手術を受けると決まった際に、担当医に自分の「理想の顔」を伝えたら、「今持っている自然な魅力を活かそう」とアドバイスされた。

「目も鼻も丸くて平たい顔だったので、バキバキな立体感のある顔に整形したいって言ったんですけど、お医者さんに今あるナチュラルなイメージを生かして、自分の魅力を引き延ばすのが1番だと止められたんです」

「最初は『まあプロがそう言うなら…』くらいの気持ちだったんですが、今思えば自分が描いてた『理想』は、私には全然似合わなかったなってわかります」

汐音さんも同じように、自分の顔の「男らしさ」を一切消して、ふんわりとした印象の顔にしたいと相談したが、元々あるクールさを生かしてエレガントな美を目指そうと背中を押された。

「私は彫りの深さやはっきりした骨格が悩みだったんですが、それはむしろ私の魅力だと言ってくれて」

「ずっと私にとって『かっこいい=男性的』だったので、そう言われるのが嫌だったんですが、今は『かっこいい』って言われるのがちょっとうれしくなったんです」

実際に、表情を作るのは自分自身

整形で全てが解決できると思って、「救い」を求めてやってくるのは絶対に間違いだと富田さんは強調する。

外見をキレイにすることよりも、内面を磨いたり、悩みを相談できる人に出会ったり、自分が元々持っている魅力に気づいたりすることが大切だからだ。

だからこそ、整形シンデレラの参加者にも「絶対に整形依存になるな」と繰り返し伝えている。

「僕は整形外科医のことを、ふざけて整形“ケガ”医って呼んでるんですよ」

「なぜなら、医者がするのは身体を切ったり縫ったりして、“ケガ”をさせるまで。実際に自分の姿や表情、人間を作っていくのは、患者自身の『治癒力』ですから」

整形前と整形後。はたから見ると、彼女たちの外見が劇的に変わったわけではないようにも感じる。

でも彼女たちの中では、確かに、何かが変わっている。

汐音さんは整形シンデレラのオーディションで、初めて女の子の輪の中に入ることができた。

審査半ばの合宿で初めてカミングアウトする瞬間まで、「元男性だとみんなが知ったらもうこの輪には入れない」と思っていた自分が、いかに間違っていたかに気付いた。

整形する前は自分のことが嫌いで、食べ物でもファッションでも、自分のためにお金を使うのがもったいなかった。でも今は違う。

「整形について家族に相談する過程で、両親は私がちゃんと楽しく、前向きに生きることを願って応援してくれることを知って…。そういう気持ちに応えなきゃって思うようになりました」

「今までは自分だけが苦しんでると思っていたけど、今は私の姿を見て誰かの希望になりたい。自分のためにじゃなくて、誰かのために、前向きになりたいって思います」

第2回整形シンデレラオーディション&ガールズアワード、お疲れ様でした🙆 グランプリという結果はもちろん嬉しいですけど、何よりこの企画に参加できて良かったです✨ 第3回開催されるので、変わりたい!!という人は応募してみてください❗… https://t.co/MSQ8IIRbaP


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