最近ニュースでよく聞く「ブロックチェーン」。社会を大きく変える可能性があると言われます。技術の核心は? 生活はどう変わる?
ブロックチェーンは「次世代のインターネット」とも呼ばれる。なぜか?
国際大学GLOCOMで「ブロックチェーン経済研究ラボ」を率いる高木聡一郎准教授に聞くと、「インターネットの上に作ろうとしているインフラみたいなもの」と言う。
土台
道路や橋が生活に欠かせないインフラなように、ブロックチェーンも土台になる。
インターネットはいわば「情報を通すパイプ」。ブロックチェーンは、このネット上で「いろんな人たちが価値を交換するネットワーク」だ。
誰から誰にどんな価値が交換されたかを記録できる。インチキできない暗号技術が組み合わされているのがキモだ。
だから、お金の役割ができる。仮想通貨「ビットコイン」はブロックチェーンの代表格だ。
ブロック=まんじゅう
ブロックとは、取引を集約したかたまり、と思っておけばいい。「あずきとまんじゅうを想像してください」と高木さん。
あずき=情報。お金やその送り先とかのデータだ。
あずきが一定程度集まると、まんじゅうにする。ビットコインの場合、10分に1個作る設定になっている。
まんじゅうを作るのにはルールがある。作る人は「ちゃんとあずきの入ったまんじゅうですよ」とつながる全員に見せる(=取引の認証)。
このまんじゅうをつくる作業は「マイニング(採掘)」と呼ばれる。
実は、まんじゅう作りの専門職人がいる。これがまんじゅう工場。
まんじゅう職人の世界は厳しい。実はつくるコツがあるので、凄腕しか勝ち残れない。
だからこんな性能のいいコンピューターを持つ巨大工場に集約された。いま、まんじゅう職人は非常に少ないという説もあるが、よくわかっていない。
現在、まんじゅうを1個作ると、75万円ぐらいもらえるという。
長所は?
「ブロックチェーンには、嘘をついたり、改ざんしたりしにくくする『仕掛け』があります」と高木さん。
この仕掛けとは、台帳(=ブロック)が連結(=チェーン)されていること。だから自分のブロックを勝手に変更すると「おまえ、変えたやろ!」とつながっている仲間にバレてしまう。
イカサマしにくく信頼性が高い。
しかも、まんじゅうの中身(あずき)は誰でも見られる公開情報だ。なので透明性が高い。
透明性と信頼性の両立がブロックチェーンの長所だ。
課題も
でも、完全にバラ色な技術ではない。欠点もある。
まんじゅうを作るのに時間がかかる。ビットコインは1個につき10分だ。
それを1個につき1秒なんて素早くしようとすると、今のコンピューターの能力だと、取引の認証が間に合わない。「ちゃんとあずきの入ったまんじゅうですよ」と回覧している最中に時間切れになってしまう。
だから「取引しまくりたい!」って思っても、待っていなきゃいけない。
1回まんじゅうを作ってしまうと、作り直せないという課題もある。
用途は?
ブロックチェーンの使い道は何だろう。
「価値の尺度になり、交換や貯蔵の手段になる」という貨幣の役割を果たす。これがビットコインだ。
いままで貨幣というと、円は日本、ポンドはイギリスなど各国の中央銀行が発行していた。
だが、ビットコインに中央銀行はない。まんじゅう職人が作り続けている。受け入れる店も世界中で増えている。
例えば、海外旅行。現地通貨に両替するにはコストがかかるから「ビットコインを使おう」ってできる。
ビットコインが広がると、日本という国の信用が急落した場合、円を大量にビットコインに変える動きなんかが出るかもしれない。
日本も来年春をめどに、ビットコインなど仮想通貨を買うときに消費税がかからないようにする。
この辺から、ちょっと専門的なお話になっていきます!
今年5月には、オーストラリアの男性がナカモトだと名乗り出たが、疑問視もされている。
事件も
日本では「ビットコインはうさんくさい」という印象も広まった。取引量で一時は世界最大の取引所となった「マウントゴックス」からビットコインが大量に消失したとされる事件の影響だ。
取引所運営会社MTGOX(東京)社長のマルク・カルプレス被告は業務上横領罪などに問われている。
だがこの事件は、ビットコイン自体ではなく、取引所の問題とみられている。
様々なブロックチェーン
もちろん、ビットコインだけがブロックチェーンではない。
ロシア生まれカナダ育ちのヴィタリック・ブテリンさん(22)が考案した「イーサリアム」。ITベンダーや銀行が多く採用する「ハイパーレジャー」というのもある。(「ハイパーな遊び」ではない。レジャーは英語ledgerで、台帳の意味。つまり、ブロックのことだ)
こんなビジネスも
実は、まんじゅう(=ブロック)に入れるあずき(=情報)は貨幣以外でもいい。安全に価値を交換できるというシステム特性を生かして、いろいろなサービスを展開できる。
英のスタートアップ「Everledger」はブロックチェーンを使って、ダイヤモンドの特徴をデータ化して認証、持ち主を登録する。ダイヤが盗まれて、持ち込まれても、店は盗品だと分かる。
昨年4月に立ち上げ、すでに98万個超のダイヤが登録された。
電力の地産地消も
ニューヨークのブルックリン地区。太陽光発電の地産地消に15世帯が参加する。
トランザクティブ・グリッドのシステムで、屋根の太陽光パネルで発電した余剰電力を融通し合う。
巨大発電所から遠隔の消費地に運ぶ方式と比べて、送電の無駄がない。広域停電時にも困らない。「みんなで自家発電」する感じだ。
ここまではよくある話。なにが革新的なのか?
このプロジェクトを支えるのは、ブロックチェーン開発ベンチャー「ConsenSys」の技術。スマートメーターでデータを集め、ブロックチェーン(イーサリアム)上で取引を記録、実行する。
誰がいつどこでどれだけ発電し、それを誰がいつでどれだけ消費したか——。ブロックチェーン技術で個人間の記録、取引ができるので「エネルギーのインターネット化」ぐらいのインパクトがある。
「とても効率的かつ低コストに契約が実行でき、エネルギー売買の難問が克服できる」。NPRにデューク大学のキャンベル・ハーベイ教授は話す。
巨大企業が独占してきた電力産業の破壊者となる可能性を秘めたプロジェクトだ。
シェアリングエコノミー
電力会社のような中央機関を挟まないで、安全に安く取引できる——。こんなブロックチェーンは、シェアリングエコノミーとも相性がいい。
ライドシェアリングや民泊、ネットのフリマでも、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)、メルカリのような仲介会社なしに、個人間で安全な取引ができるようになるかもしれない。
公的記録も
東欧のジョージア共和国は今年4月、ブロックチェーンを使った土地登記プロジェクトを発表した。先ほど、まんじゅう工場の写真で登場したビットコイン採掘会社「BitFury」が連携する。
Forbesによると、ブロックチェーンを使った登記システムなら、現在5千〜2万円ほどの登記費用が5〜10円ほどになるという。
BitFuryのバレリー・バビロブCEOはForbesにこう話す。
「データが改ざんされることはない。登記官はリアルタイムで審査できる。将来的にはスマホで登記できるだろう」
このバビロブCEOは、ジョージアと同様に旧ソビエト連邦を構成していたラトビア生まれ。ソ連が崩壊すると、お金は紙切れとなり、両親は全てを失ったという。「この技術なら人々の財産を守れる。だから、とくに新興国の権利登記に向いている」
どういうことか?
途上国では、登記システムの不備が経済発展の妨げとなるケースがある。起業したい人が不動産を担保に出せないために資金が得られず、貧困状態から抜け出せない。
ジョージアの調印式にはペルーの著名な経済学者エルナンド・デ・ソト氏も立ち会った。この問題を追及している。
法人登記も
米デラウェア州は法人登記をブロックチェーンで管理する試行を始める。Wall Street Journalが今年5月に報じた。スタートアップ「Symbiont」が協働する。
デラウェアに登記する会社は、ブロックチェーン技術で株式も発行できるようになる。
記録がブロックチェーンに乗れば、多様な種類がある株式の複雑な取引履歴が追いやすくなる。財務の計算書類や株主名簿の管理も自動化できる。
同州では早ければ来年夏にも必要な法整備が進むという。
電子投票も
人口130万の小国・エストニア。ブロックチェーンが電子立国の安全を支える。Forbesによると、手書き署名が必要なのは、結婚と不動産を買うときだけ。昨年の議会選挙では17万人が電子投票をした。
ブロックチェーン上にデータがあれば、政府でも改ざんできない。
自分の情報に誰がアクセスしたかログも残る。だから、政府がどう自分の情報を収集しているかもチェックできる。例えば、知らない医師が自分の治療記録にアクセスしていたら、データオンブズマンに通報できる。
英国は、生活保護の不正受給を防いだり、確実に国際援助金を届けたりする用途を提案している。
わたしたちの未来
どう生活が変わる可能性があるのだろうか?
国際大学GLOCOMの高木さんはこんな例をあげる。
住宅ローンの残金を払い込む(通貨ブロックチェーン)と、ローンが完済ステータスに変わり(債権処理ブロックチェーン)、抵当権が抹消される(登記ブロックチェーン)。こんな処理が自動的にできるかもしれない。
インターネットが、買い物から働き方まで私たちの生活を大きく変えたように、ブロックチェーンも、世界を大きく塗り替える可能性がある。
高木さんはこう話す。
「インターネットを使っているとき、誰のどんな技術のおかげで使えるかは、あまり意識しないかもしれません。同様に、どんなブロックチェーンを使っているか意識せずに、より便利な生活が送れるようになるかもしれませんね」
ここ10〜20年で、実現するかもしれない。