人工知能に雇用を奪われ格差が広がる未来「ベーシックインカムも議論を」

    EU法務委が可決した報告書。貧困問題の切り札として、ベーシックインカム(BI)は世界中で議論が進む。

    人間の労働がロボットなどに取って代わられるかもしれない。すると失業や所得格差も広がってしまうかもしれない——。そんな未来に備えて、国民に最低限の所得を保障する「ベーシックインカム」の議論も進めるように促す報告書が、欧州議会の法務委員会で可決された。

    報告書「ロボット工学に関する民法規定」が1月12日、欧州議会の法務委員会(JURI)において、賛成17、反対2、棄権2で可決された

    可決された報告書は序文で、いまは「ロボット、ボットエンジン、アンドロイド、様々なかたちの人工知能(AI)によって、新たな産業革命が起きようとしている」時代だと説明。

    製造から医療、教育まで様々な分野でメリットがあり、人間が危険な仕事に就かなくてもよくなる、などと指摘した。だが、問題点も挙げた。

    「ロボット工学やAIが進化すれば、現在人間がしている肉体労働も知的労働も大部分がロボットに奪われるかもしれない。したがって、将来の雇用や再訓練、社会保障制度の継続性が懸念され、議論が進んでいる。富と力の配分において、格差が拡大するという望ましくない可能性が浮上している」

    そのため、ベーシックインカムの導入可能性も含めた議論を呼びかけた。

    「ロボット工学やAIの進化や展開が及ぼすかもしれない影響を念頭に、社会の変化を予測する重要性を強調する」

    「欧州委員会に、EU加盟国の社会保障制度の継続性をめぐって、様々な可能性のシナリオとその結果を分析するように求める」

    「新たな雇用モデルや、全面的なベーシックインカムの導入可能性も含め、十分な収入を確保することを基礎とした持続可能な税制と社会制度について、包括的な議論を始めるべきだと考える」

    This Morning: @EP_Legal vote on Civil Law Rules on #Robotics VIDEO: https://t.co/SKI5MKk606

    予想外の採択

    実は、ベーシックインカムの条項には議論が集中し、削除を含む修正案が相次いで出された。だが「大方の予想を覆し」(仏紙リベラシオン)、ベーシックインカムへの言及が残った。

    報告書の原案を作っていた欧州議会のマディー・ドゥルボー議員はツイートで、ベーシックインカムに関する条項が採用された意義を喜んだ。

    「技術革命のために失業が増えたとしても、人々がまともな生活を送れるようにするために、こうした検討が重要だ」などと話している。

    Civil Law Rules on #Robotics : Interview of @mady_delvaux Watch VIDEO: https://t.co/DUX4vKhfna

    2月の欧州議会本会議で採決があり、過半数が賛成すれば可決される。ただ、報告書自体に法的拘束力があるわけではない。EUの行政執行機関にあたる欧州委員会に立法を呼びかけるものだが、欧州委員会は拒否することもできる。

    進むベーシックインカム研究

    ベーシックインカムは近年、ヨーロッパを中心に議論が高まっている。

    フィンランドは今月から、失業中の国民に月約6万8千円(560ユーロ)を支給する2年間の試験プロジェクトを始めた。国レベルでは世界初だ。

    英スコットランドの2自治体でも今年、仕事のあるなしに関わらず、すべての市民に一定額を支給する試験プロジェクトが始まる予定

    カナダのプリンスエドワード島の議会でも2016年12月、ベーシックインカムの試験プロジェクトを求める提案が全員一致で可決されている

    反対も

    だが、導入を拒否した国もある。スイスは2016年6月の国民投票で77%が反対した。就労意欲が落ちることや、移民が押し寄せることが懸念された。

    日本では、橋下徹・大阪市長(当時)が率いる大阪維新の会が2012年、衆院選の公約で「ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入」するとして、議論を呼んだ。ただ、財源などが問題視され、注目は高まっていない。

    (サムネイル写真は Spencer Platt / Vcg / Getty Images)


    【人工知能の関連記事】