世界で聴かれる日本のゲーム音楽 海外ミュージシャンを魅了する理由とは

    制約が生み出した独自の文化

    日本のゲームに並々ならぬ愛情を注ぐニュージーランド人のニック・ドワイヤー(38)が、1980〜90年代のゲーム音楽のコンピレーション・アルバム「ディギン・イン・ザ・カーツ」を監修した。英国のダンスミュージックのレーベル「ハイパーダブ」から、世界各国で11月17日に発売された。海を超えて愛される日本のゲーム音楽の魅力を聞いた。

    ドラクエ、FFのために日本語勉強

    ニックがゲームに目覚めたのは、10歳のころ。新潟・苗場のホテルで働いていた10歳年上の兄から、スーパーファミコンを送ってもらったのがきっかけだった。

    「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー(FF)」をプレイするために日本語を猛勉強。

    15歳でラジオのDJを始めると日本の音楽への関心も強まり、ピチカート・ファイヴやユナイテッド・フューチャー・オーガニゼイション、Kyoto Jazz Massiveなどを聴きあさった。

    フライング・ロータスも影響公言

    やがて、テレビ番組のディレクターとして世界の音楽文化を取材するように。2014年には、日本のゲーム音楽をめぐるドキュメンタリー映像「ディギン・イン・ザ・カーツ」をネットで発表した。

    Red Bull / Via http://ttps://redbull.com

    ニックらが制作したドキュメンタリー映像「ディギン・イン・ザ・カーツ」

    作中では、海外の売れっ子ミュージシャンたちが、口々にゲーム音楽からの影響を語っている。

    気鋭の音楽プロデューサー、フライング・ロータスが「FFはとてつもない。あの音楽ときたらもう…」と感嘆し、JAY-Zやエミネムの楽曲も手がけるジャスト・ブレイズが、「ベア・ナックル」の作曲家・古代祐三の楽曲を「本物のダンスミュージック」とほめたたえる。

    ゲームが教えたループの快楽

    ニックは言う。

    「彼らにとっては、子どものころに初めて触れた電子音楽が日本のゲーム音楽だった。ハウスやテクノ、ヒップホップはループ(繰り返し)でできている。ループで構成されたゲーム音楽を聴くことで、後々につくる音楽の準備ができていたんだろうね」

    「古代さんは天才的。当時、西麻布のクラブ『Yellow』に通って、ハウスやテクノで踊っていた。その感覚をゲーム音楽に取り込むことに成功したんだ」

    「『ベア・ナックル』は日本ではものすごく有名というわけではないけど、世界中の子どもたちがあのゲームを通じてハウスを知ったんだよ」

    今回の同名アルバム「ディギン・イン・ザ・カーツ」にも、古代が作曲した「アクトレイザー」の曲が収められている。

    2年がかりで20万曲聴き込む

    「ディギン・イン・ザ・カーツ」とは「ゲームソフトをディグる(掘り起こす)」という意味だ。アルバムの選曲過程は、まさしくゲームをくまなく掘り返す作業だった。

    ファミコン、スーパーファミコン、PCエンジンから、MSX、MSXturboR、PC-8801といったパソコンゲームに至るまで、2年がかりで実に20万曲を聴き込んだという。

    収録曲には「ソロモンの鍵」「グラディウス」「魍魎戦記MADARA」など比較的メジャーな作品の一方で、「The 麻雀・闘牌伝」「タロットミステリー」などマニアックなタイトルも少なくない。

    「グレイテスト・ヒッツは嫌」

    誰もが知っている有名ゲームのテーマ曲だけを集めれば、もっと簡単にアルバムをつくれただろう。選曲にここまでの労力をかけたのは、「単なるグレイテスト・ヒッツにはしたくない」という強い思いからだった。

    「ただのゲーム音楽ではなく、優れた電子音楽でもあるということを伝えたかった。ビデオゲームという文脈から切り離しても、音楽として素晴らしいと思えるものを選んだ」

    「もちろん、すべてのゲーム音楽がいい曲だというわけじゃない。パチンコや麻雀のゲームの音楽を3日間ぶっ続けで聴いた時は、頭が変になりそうだったよ(笑)

    「でも、なかには『The 麻雀・闘牌伝』みたいないい曲もあるから。ああ、やっぱり全部聴かなきゃって。ものすごく大変な作業だったけどね」

    わずかなもので多くを伝える

    「ソロモンの鍵」や「The 麻雀・闘牌伝」の音楽には、ミニマル・ミュージックの影響を感じるという。

    「『ソロモンの鍵』はチップミュージックの美しさにおいて群を抜いている。『The 麻雀・闘牌伝』はスティーブ・ライヒを再創造したと言えるかもしれない」

    限られた容量と少ない音数で、いかに効果的にゲームの世界観を伝えるか。制約のなかでの試行錯誤が、日本のゲーム音楽に独自性をもたらした。

    「わずかなもので多くを伝える表現力は日本文化の特徴。俳句や生け花、禅もそう。初期のゲーム音楽には、匠のものづくりの精神を感じるよ」

    11月17日19:30から、東京・恵比寿のリキッドルームで「ディギン・イン・ザ・カーツ」のライブイベントが開かれる。ケン・イシイやコード9、古代祐三、川島基弘らが出演予定。当日4500円。

    BuzzFeed JapanNews