週刊文春に脈打つ「過激にして愛嬌あり」の精神 宮武外骨、生誕150年

    「人間って醜いし、愚かだし、馬鹿だなと思うけど…」

    異端のジャーナリスト、宮武外骨(1867〜1955年)が今年で生誕150年を迎えた。『滑稽新聞』『スコブル』など生涯に44種もの新聞・雑誌を刊行し、発禁や入獄を繰り返した外骨。「過激にして愛嬌あり」という彼の言葉を座右の銘にしている週刊文春の新谷学編集長が、BuzzFeed Newsに魅力を語った。

    【インタビュー後編はこちら

    オピニオンより笑い

    ――外骨との出会いは。

    大学生ぐらいですかね。自叙伝の『予は危険人物なり』とか、赤瀬川原平さんの『外骨という人がいた!』、外骨の甥の吉野孝雄さんの本なんかを読んだのがきっかけだと思います。

    もともと、偉そうなものやカッコつけたものに対して、「何言ってんだよ」みたいな思いがあって。自分自身のなかにそういうものを、おちょくったり、茶化したりして面白がる性質があるんですよ。

    根っこがそういう人間なので、必然的に外骨が引っかかってきたんですね。

    政治家に対して大上段から「けしからん!」とオピニオンを打ち立てるのではなく、みんなで笑っちゃう。そんな政治風刺バラエティー番組をつくりたくて、就職活動では日本テレビを受けました。

    青田買いのセミナーで政治風刺番組の企画書を書いたら採用されて、1ヶ月ぐらい日テレに通って。結局は最終選考で落ちて、文藝春秋に入ることになったのですが。

    「紙屑買の大馬鹿者」

    ――外骨のどこに魅力を感じますか。

    改めて見返して面白かったのは、『赤』という雑誌で「革命とは何ぞや」とあって、太鼓の絵が描かれている記事。「『カハ』の『イノチ』なり、テンテンテレツクテン」なんてキャプションが入っていて。

    革命だとか赤狩りだとか言われていた時代に、「革命は革の命なり」って太鼓の話にしちゃう。いや、面白いなこの人はって思いますよね。

    あとやっぱり、ビジュアルが綺麗。すごくアートなんですよ。

    東大には外骨らが設立した「明治新聞雑誌文庫」があって、法学部でゲスト講師をした際に、昔の雑誌を生で見せてもらいました。

    過激なもの、ドロドロしたものを綺麗に見せている。とっつきやすく、美しく。色使いやデザインのセンスが抜群です。

    雑誌のネーミングもいいんですよね。『スコブル』とか、響きがいいじゃないですか。

    『滑稽新聞』の新年付録も最高ですよ。古新聞が付録についていて、「紙屑買の大馬鹿者」って大きく書いてあるんですけど。

    新年特大号だからと誌面を分厚くして、ぜいたくに付録をつけるような風潮に対して、「何やってるんだよ、バーカ」っていう感じのツッコミが痛快。

    長いものに巻かれろとか、みんながやってるからやろう、みたいな世の中的な建前や常識を笑い飛ばすっていうのが好きなんです。

    「過激にして愛嬌あり」という言葉に、本当にすべてが言い尽くされているなと思いますね。

    人間の業を肯定するのが文春

    ――「過激にして愛嬌あり」の外骨イズムは、週刊文春にも通じるところがありますか。

    これこそが週刊文春の原点だ、という思いは若いころからありました。

    過激なだけじゃ怖がられるし、愛嬌だけでは舐められる。そこのさじ加減ですよね。

    ――「過激」なだけの情報はネット上にあふれていますが、「愛嬌」でくるむとなると難しい部分もあるのでは。

    難しいですね。やっぱりネットだと一部だけを切り取ったうえで、非常に幅広く拡散されてしまう。我々の意図と違った形で記事が伝わってしまうということもあります。

    不倫なんかは、その最たるものです。「不倫はけしからん」みたいな書き方は、実は週刊文春は当初からほとんどしてないんですよ。

    立川談志さんは「落語とは人間の業の肯定である」と言いました。

    おしどり夫婦と言われていたのに、なんで夫が旅のロケの真っ最中に路線バスに乗って男に会いに行っちゃうのか。わかっちゃいるけど、やめられないのが人間の面白さですよね。

    人間の業とか性みたいなものを伝えるのが、週刊文春だと思っています。

    とはいえ、ウチが不倫のスクープ速報をネットに出すと、それがYahoo!ニュースのトップに上がる。コメント欄に不倫を批判する書き込みがダーッと並ぶわけですよ。

    そういうつもりでもないんだけど、そう受け止められちゃうんだなあと。「愛嬌」を伝えるのって本当に難しいですよね。

    ゲス川谷さんが編集長席に

    ――文春誌面で「愛嬌」を意識している部分は。

    先日、ゲスの極み乙女。の川谷絵音さんにグラビアに出ていただきました。文藝春秋でミュージックビデオを撮影して、編集長の椅子にも座ってもらって(笑)

    こちらとしては全然、敵味方と思ってないし、やっつけたいなんていう気持ちもない。「何かコラボできないか」という話で現場同士が盛り上がったので、全面的に協力しました。

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    ゲスの極み乙女。『あなたには負けない』の週刊文春コラボスペシャルMV

    (不倫報道で衆院議員を辞職した)宮崎謙介さんにも、ずっとインタビューをお願いし続けて。ちょうど山尾志桜里議員のスクープと同じ号に、宮崎さんのインタビューを載せました。

    彼は本当に人間らしいというか、すごく率直なんですよ。

    記者会見でも「人間としての欲が勝ってしまった」っていう台詞が出ましたけど、インタビューでそのことを聞いたら「極度の緊張のせいで、何を言ったか細かく覚えていない」と。そんなところも正直ですよね。

    怖がられたくはない

    ――糾弾調になり過ぎないように、タイトルにも工夫を凝らして。

    面白がってほしいけど、怖がられたくはないですからね。

    タイトルで人間の面白さを伝えたいと思って、「路線バスで不倫へ」としてみたり。ASKAさんの薬物疑惑の時も「シャブ&飛鳥の衝撃」と。

    渡辺謙さんの場合、最初に私がつけたのは「王様と不倫」というタイトルだったんですけど、デスク陣にすごい不評で。「王様と私」の舞台を見たことがない人にはわからない、と言われて「不倫 in ニューヨーク」としました。

    世界の渡辺謙だし、「in ニューヨーク」とつけるだけで、すごくラグジュアリーな感じになるじゃないですか。

    我々自身は、大上段に振りかぶって一刀両断する意識は全然ないんです。ただ、それがきちんと伝わらないことも多い。

    文春の影響力・取材力を世の中の人たちがある程度認めてくれるようになってきたとすれば、それをどこに向けるのか、どういうトーンで記事にするのかっていうことには非常に慎重であるべきだと思っています。

    斉藤由貴さん報道の裏側

    ――事実をつかんでいても、あえて報じないこともあるのでしょうか。

    ある芸人さんの不倫報道をした時も、「私も愛人でした」という情報提供が次々に来るわけですよ。現場からは「第2弾、第3弾をやりましょう」という声もあがっていた。

    でも、テレビ番組に出られなくなるまで追い込むのが、本当に週刊文春の仕事なのか。「俺はちょっと嫌だな」と現場にも正直に言って、止めました。

    斉藤由貴さんもそうですね。週刊文春はまず一報を出して、その後に手つなぎ写真を掲載しました。

    現場ではまだ書ける材料はあったけど、これ以上やって大河ドラマ降板なんてことになったら嫌だし、「ウチはやめよう」と。

    どんどん活躍してほしい女優さんだし、我々の意図を超えたところで彼女に影響が出てしまうことはまったく望んでいなかった。

    こちらとしては人間ドラマとしてのリアルな面白さを伝えたいだけで、「トドメを刺す」なんてことは考えてませんから。

    そうしたら別の週刊誌が、相手男性が頭にパンツをかぶっている写真を出して、活動を自粛することになってしまいました。

    異論・反論も誌面に

    ――その後、脚本家の倉本聰さんに取材して、「不倫は女優の肥やし」という擁護記事を掲載していました。

    週刊文春に対する様々なご意見や反論、ツッコミも含めて掲載していきたいと思っています。

    ベッキーさんの時も、「ベッキーがんばれキャンペーン」をやろうとして、最終的には「ベッキーから本誌への手紙」という記事になりました。

    今回も「がんばれ斉藤由貴」ができないかなと思って、現場と相談して企画したのが倉本さんのインタビュー。記者を「北の国」に送って、お話を伺いました。

    女優の山田五十鈴について、「男をどんどん替えながら、それを肥やしにしてすごい女優になっていった」とおっしゃって。まさにその通りだと思ったので、文春へのお叱りの言葉も含めて載せました。

    人間の多面性を伝えたい

    不倫の話が多くなっちゃったけど、そもそも文春は不倫ばっかりやっているというのも誤解なんです。

    ワイドショーやネットニュースが不倫ネタばっかり取り上げて拡散させるからそういう印象になるわけで、実際の誌面を見てもらえれば、全体のごく一部なんですけどね。

    人間って醜いし、愚かだし、馬鹿だなと思うけど、やっぱりそれが愛らしくも、かわいらしくも、素晴らしくもある。両方合わせて人間の面白さじゃないですか。週刊文春はうわべの綺麗事だけではなく、様々な顔を伝えたいんです。

    〈しんたに・まなぶ〉 1964年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。89年、文藝春秋に入社。『Number』『マルコポーロ』編集部や『週刊文春』の記者・デスク、『文藝春秋』などを経て、2012年から『週刊文春』編集長。著書に『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)。


    インタビュー後編では、3ヶ月の休養の裏側や、左右両極化する新聞ジャーナリズムへの思い、創業者・菊池寛の「面白がり精神」などについて語っています。

    「新聞の社説みたいな綺麗事が嫌い」 文春編集長が明かす外骨への思い

    BuzzFeed JapanNews