大外れした大統領選の予想。考えられる理由とは

    調査会社は原因解明しようと必死になっている。

    11月8日の朝を迎えた時点で、勝負は決しているように思えた。全米レベルの世論調査では、ヒラリー・クリントン氏の圧勝が予想されていた。各州レベルで行われた世論調査も、民主党寄りの州による選挙人団の「青い壁」が、クリントン氏を難なく勝利へと推し進めるだろうと示していた。

    今、われわれはもっと多くのことを知っている。最終集計でクリントン氏は全米で苦戦を強いられた。フロリダ州やノースカロライナ州のような激戦区を落としただけでなく、長年民主党が確実に勝てるとされてきたウィスコンシン州やペンシルベニア州でも地滑り的敗北を喫した。

    世論調査会社のなかには、国民の一般投票に関しては、自分たちが発表してきた調査結果は、クリントン氏が1ポイント差でリードしているというものだったから、大きくはずれていなかった、と自己弁護をするところもある。

    調査会社モーニング・コンサルトのコミュニケーション担当ディレクター、ジェフ・カートライトはこう語る。「われわれの最終の調査結果では、クリントン氏が3ポイントのリードとなっていた。3ポイントは誤差の範囲だ。クリントン氏については何週間も、この数字が続いていた」

    だが、大統領選挙の勝敗を実際に決めることになる激戦州では、クリントン氏が優勢であると見せる方向に組織的バイアスがかけられていたようだ。

    では、今回の世論調査の何が問題だったのだろうか。何が起きたのかを読み取ろうとする世論調査の専門家たちによる、いくつかの理論を紹介しよう。

    1. ひとつの調査だけが間違ったわけではない。誰もが間違えた。

    選挙戦の前、昔ながらの電話を使った調査を行う会社と、新たに台頭してきたオンラインの調査会社とが、互いに自分たちの方式のほうが優れていると激論を展開した。

    電話調査会社は、ランダム・デジット・ダイヤリングという、コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号をつくり、電話をかけて調査する、従来型の方法で、サンプルを選び出していた。だが、この「理想的」とされてきた方法はコストが増大する一方だった。電話調査への回答率が低下しているからだ。

    これに対してオンライン調査は、オンラインで調査に協力を申し出たボランティアから、優良なサンプルを慎重に選び出すことができると主張した。

    だが、どちら側も今は声を潜めている。シカゴにあるイリノイ大学の世論調査研究所(Survey Research Laboratory)でディレクターを務めるティモシー・ジョンソンはBuzzFeedの取材に対して、「誰もが間違った。何をどう説明しようと、間違いはすべての方法論で起こることだ」と述べた。

    2. 終盤まで態度を保留していた共和党支持者が、最後の瞬間になって古巣へ戻る決意をした。

    トランプ氏の型破りな選挙キャンペーンを嫌った共和党の主流派が、最終決戦まで日和見を決め込んでいた、という見方がある。

    プリンストン・エレクション・コンソーシアム」のサム・ワングは、BuzzFeedに「投票数の読み違いが起きた大きな原因の1つは、有権者の投票行動が後半に集中したことにあったかもしれない」と話した。複数の世論調査の結果を集約したものを基にしたワングの予測は、クリントン氏の勝利を特に楽観視した内容で、投票前夜にはクリントン氏が99%の確率で圧勝するとしていた。

    選挙予想機関「ファイブサーティエイト」のネイト・シルバーが(クリントン氏の当選確率を72%とした)自身の最終予測において指摘したとおり、直近の選挙前の世論調査では、有権者の12%が、誰に投票するかまだ決めていない、あるいは第3党の候補に投票すると回答していた。これは最近の大統領選では多い数字だ。

    だが、駆け込み投票があったという説は希望的観測かもしれない。「調査をする側はこのように考えたがるだろう。これだと、基本的に世論調査には間違いがなかった、という意味になるからだ」と語るのは、ワシントンD.C.にあるピュー研究所の研究担当バイスプレジデント、クラウディア・ディーンだ。

    ディーンは、出口調査での人々の回答を考えると、駆け込み投票説には懐疑的だ。ニューヨーク・タイムズによると、「選挙戦最後の数日間」で投票を決めた人のうち、トランプ氏に投票したのは46%、クリントン氏が44%だという。10月中に決めた人の51%がトランプ氏に、37%がクリントン氏に投票したことに比べれば、差はわずかしかない。

    また、何かと物議を醸したトランプ氏の選挙活動におけるさまざまな重要局面で、共和党のリーダーたちは彼から離れていったが、共和党を支持する一般の有権者は一貫して党を応援し続けた、とディーン語る。「一般の有権者は、トランプ氏を党と同様に支持していた」

    3. 不満を抱く白人のムーブメントによって、「投票に行くと思われる人」モデルが混乱し、「投票に行かない可能性がある人」に誤って分類された。

    選挙の世論調査はほかの調査より難しい。2つのことを同時に評価しなければならないためだ。2つのこととは、「誰を支持するか」と「実際に投票に行くかどうか」だ。

    その点で、トランプ氏がこれまで政治への関与を避けてきた人々の新しいムーブメントが起こしたという主張は正しかったのかもしれない。世論調査会社は、過去の投票行動から誰が投票に行くかを予測する。もしトランプ氏の主張が本当に正しければ、システム上、トランプ氏の支持者が少なく見積もられても仕方がない。

    また、「投票に行くと思われる人」のモデルで、黒人とヒスパニック、若者から成る「オバマ連合」がクリントン氏に投票する確率を、多く見積もりすぎたかもしれない。

    ただし、「投票に行くと思われる人」モデルについては、世論調査会社によってアプローチが異なる。過去の選挙結果を重視する調査会社もあれば、支持する候補者への情熱を評価するなど、別の手法に重きを置く調査会社もある。今回の選挙では、すべての調査会社が同じように結果を読み違えた。

    ジョンソンは「モデルには驚くほどの多様性がある。これほど多様なモデルすべてが結果を読み違えたことは、少々信じ難い事実だ」と話す。

    4.「トランプ氏を支持している」ことを恥ずかしく感じていた「気弱なトランプ派」が、投票ブースでひそかに意思表示を行った。

    これは、共和党の予備選挙の段階で浮上した仮説だ。トランプ氏は当時から、電話調査よりオンライン調査で健闘していたのだ。その理由として考えられるのは、トランプ氏の支持者たちが、自身の選択を人に直接話すことを決まりが悪いと感じていたということだ。2015年12月にオンライン調査会社「モーニング・コンサルト」が行った投票の実験で、この仮説は確信に変わった。

    ところが、トランプ氏が予備選挙に勝利し、クリントン氏との対決が決まったあとは、トランプ氏はオンライン調査でも苦戦するようになった。そして、モーニング・コンサルトが原因を探るため、10月後半、報道機関「ポリティコ」と共同で世論調査を行うと、この仮説が当てはまるのは大学教育を受けた有権者だけだと判明した。

    モーニング・コンサルタントのカートライトは「これによって選挙結果が大きく変わったとは考えにくい」と話している。

    5.トランプ氏を支持する反体制派は、世論調査が不正操作されていると考え、電話調査にもオンライン調査にも回答しなかった。

    世論調査会社にとっては、あまり考えたくない可能性だろう。しかし、トランプ氏の支持者たちは口癖のように、世論調査が不正操作されていると主張していた。おそらく、電話、オンラインにかかわらず、世論調査への回答を拒否していた可能性はありうる。

    もしこれが事実であれば、トランプ氏を勝利に導いた、現状に不満を抱く有権者の意見がすべての世論調査の結果から抜け落ちていた可能性がある。その多くは中西部のラスト・ベルト地帯(鉄鋼や自動車などの産業が廃れた地域)に暮らす白人だ。

    イリノイ大学のジョンソンは、「現政権を支持しない人々はしばしば、世論調査への回答を、政権の支持と同一視している」と話す。ジョンソンはこの5つ目の理由が最も納得できると考えている。「この点については精査の価値がある」

    しかし、精査は難しいだろう。世論調査を信じていない反体制派の有権者が、世論調査が外れた原因を探るための調査に喜んで協力するとは考えにくいためだ。

    結局、本当のところは誰にもわからない。そして、原因の分析には数カ月を要するだろう。

    ミルウォーキーにあるマーケット大学法科大学院の世論調査を指揮するチャールズ・フランクリンはBuzzFeedの取材に対し、「『なぜ』に本気で答えようと思ったら、それ相応の時間がかかる」と語った。

    謎を解くにはまず、各州が管理する有権者ファイルを調べ、投票した人、投票していない人を把握する必要がある。そうすれば、世論調査からトランプ氏の強力な支持者が大量に抜け落ちていなかったか、世論調査に回答したトランプ氏の支持者が「投票に行かない可能性がある人」に誤って分類されていないか、といったことがわかる。もしかしたら全く新しい説明が見付かるかもしれない。

    米国世論調査協会(The American Association for Public Opinion Research)は、今回の番狂わせが起きる前からタスクフォースを設置し、世論調査の精度を調査する計画を立てていた。調査結果が出るのは数カ月後の予定だ。

    ミシガン大学アナーバー校政治研究センターのマイケル・トローゴットはBuzzFeed Newsの取材に「適切な説明を得るのは非常に困難な作業になるだろう」と述べた。


    この記事は英語から翻訳されました。