NAVERまとめとCGMが抱える問題 「プロバイダ責任制限法」は誰の味方か

    問われているのはインターネットと法律のあり方そのもの

    最初に明かしておくと、筆者は2011年から2015年まで、NAVERまとめを運営するLINE株式会社に在籍していた。主な業務はNAVERまとめではなかったが、個人としてNAVERまとめは作っていた。その数、265本。初期のヘビーユーザーの1人だった。

    キュレーションメディアに問われる責任

    さて、DeNAが運営するWELQやIEMO、MERYなどのいわゆる“キュレーション”事業において、不確かな医療情報、他媒体の盗用とみられる記事が見つかり、全10サイトが閉鎖に追い込まれる事態となったのは既報のとおりだ。

    他媒体の記事の内容を剽窃し、しかも、それがわからないように巧妙に“リライト”するための内部マニュアルや、Google検索で上位に表示されるためのSEOの手法が明らかになり、DeNAが組織的に杜撰な記事を量産していたことがわかった。

    インターネットユーザーが自由に記事を投稿する「キュレーションプラットフォーム」を謳ってはいたが、実質的には社内の編集部が記事の発注と管理を行っており、企業が直接運営するメディアだった。最終的には「配慮を欠いた運営」だったと南場智子会長、守安功社長が謝罪会見を開いた。12月7日のことだ。

    それから間もなく、続々と他のキュレーションメディアでも記事の削除が進んだ。リクルートが運営する「ギャザリー」、Supershipが運営する「nanapi」、サイバーエージェントが運営する「Spotlight」や「by.S」などが、医療・健康分野の記事を非公開としている。

    キュレーションの元祖「NAVERまとめ」とは

    キュレーションメディアへの風当たりが強くなるなか、最後の本丸はLINEが運営するNAVERまとめである。2009年にオープンした同サービスは、現在問題となっているキュレーションメディアの先駆けといってもよい。

    複数のインターネットサービスやストックフォトサービスと提携し、画像や動画を簡単に検索して掲載できる仕組みで、誰でも手軽に「まとめ」を作り、公開できるようにした。

    当初はなかなかコンテンツが集まらなかったが、2011年にまとめ作成者に対し、まとめの閲覧数などに応じてインセンティブを分配する制度をスタートしてから、成長が加速した。

    月に100万円以上を稼ぎ出すまとめ作成者も現れた。インセンティブ制度が始まってから2014年6月までの期間で、上位10人の平均受取額は568万円にものぼる。最も多くインセンティブを獲得した作成者は1500万円以上の報酬を得ていた。

    一方で問題もあった。まとめ作成者が作ったまとめの中には、明らかに他者の著作権を侵害しているものが散見された。LINE側はコンテンツの監視を十分に行い、不適切なものは削除していると表明しているが、それでも、残っているものは残っている。

    事実、メディア関係者や個人ブロガーなどからはNAVERまとめにコンテンツを盗用されたという声が多く挙がっており、なおかつ、その後の対応に誠実さが見られないという非難も寄せられている。

    クマムシ博士はLINE株式会社に抗議します - クマムシ博士のむしブロ

    NAVERまとめがサービスを見直すべき3つの理由

    このような外部の反応は、DeNAのキュレーション問題が発覚したこの数ヶ月の間に発生したわけではない。ここ数年ずっと言われていたことだ。それがこのタイミングで顕在化しただけである。

    キュレーションは、常に問題を抱えていた。

    それを認識していたからか、LINEは12月5日、渦中のDeNAに先駆けて公の場でキュレーション問題について意見を表明し、NAVERまとめの新方針を発表した。

    新方針に対するネットの反応は「おまえが言うな」

    LINEは過去のNAVERまとめのコンテンツについては、基準を定めてモニタリングしてきたとし、他社のように一斉削除をする計画はないという。しかしそれでも残るいくつかの課題を解決するため、新しい方針を示した。それがこの2つである。

    1.まとめの作成者にオーサーランクを適用

    --LINE IDでの認証--作成者の経歴、背景などを審査--ランクに応じて上位表示、高インセンティブレート

    2.一次情報発信者の権利保護

    --サイト単位で一次コンテンツのオーサー登録--承認後、利用範囲を設定可能--まとめで紹介された場合、コンテンツホルダーにもインセンティブ還元


    いずれも2017年中の運用を目指すという。そんな発表内容を元に記事を書いたところ、ネットの反応は興味深いものだった。

    はてなブックマークには、「おまえが言うな」「おまえが言うのかよ!!」「本日のおまいう」などのコメントがたくさん寄せられた。NAVERまとめに対する不信感は根強い。

    NAVERまとめのコンテンツは誰が作っているのか

    ここで、いわゆるキュレーション「プラットフォーム」とキュレーション「メディア」について整理してみたい。一般的に「プラットフォーム」とは外部の参加者を広く募り、みんなが乗り入れる「箱」のようなもの。

    一方で「メディア」は編集部などの組織が統率を取り、なんらかの方針に従ってコンテンツ生産し、掲載するものとしよう。

    DeNAは自社のキュレーションサイトの一群を「DeNAパレット」と呼び、ユーザーが投稿するキュレーションプラットフォームであるとしていた。LINEもNAVERまとめのサービス開始当初から、「情報をデザインする。キュレーションプラットフォーム」というキャッチフレーズで展開していた。

    大事なのは実態がどうか、である。DeNAはBuzzFeed Newsの取材で内部マニュアルが発覚し、実質的に社内の一部署が編集部的な役割を担い、コンテンツの方針策定と発注作業などを行っていたことが明らかになっている。

    もちろん外部の参加者が作るコンテンツもあったが、実質的には「メディア」だった。

    NAVERまとめはどうか。実はNAVERまとめにも「まとめ編集部」という社内の組織が存在する。

    まとめ編集部の役割はシンプルで、広告主とタイアップしたまとめコンテンツを作ることに特化している。まとめコンテンツを作るプロが運用するこのアカウントは、これまでに894本のタイアップ記事を作成し、12月27日現在、月間840万PVを稼ぎ出す。

    つまりNAVERまとめは広告まとめのみを「まとめ編集部」が作成し、それ以外の大部分のコンテンツは一般のユーザーが作っている。その目的は前述したインセンティブである。作ったまとめが見られるほど、多くの金額が得られる仕組みだ。

    NAVERまとめは名実ともに「プラットフォーム」と言っていいのだろうか。

    興味深いことにLINEは、DeNAのキュレーションメディアが燃え上がる11月30日に、NAVERまとめにおいて「インセンティブ3倍キャンペーン」を実施すると発表。まとめ作成者のインセンティブを一時的に引き上げた。

    キュレーションに対する風当たりが強いなかでのこの取り組みには、「NAVERまとめが『プラットフォーム』であることをことさら強調する狙いがあるのではないか」との声も見られた。

    プロバイダ責任制限法の功罪

    なぜプラットフォームか、メディアかを論じる必要が出てくるのか。その答えが「プロバイダ責任制限法」という法律にある。

    インターネットでプライバシーや著作権の侵害があったときに、プロバイダが負う損害賠償責任の範囲や、情報発信者の情報の開示を請求する権利を定めた法律。2001年11月22日衆議院本会議で可決・成立した。正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(IT用語辞典 e-Wordsより)

    この法律はインターネットサービスを提供するプロバイダの責任を制限している。簡単に言えば、インターネットサービス提供事業者は、そのサービス上で一般ユーザーが行った著作権違反や名誉毀損などのトラブルには責任を負わなくてもよい、ということである(例外はある)。

    知的財産権などを専門とする板倉陽一郎弁護士はこの法律が生まれた背景についてこう語る。

    「もともとプロバイダも気の毒な存在だった。ユーザーの投稿を消したら『表現の自由の侵害』と言われ、名誉毀損等権利侵害に該当するとみられる投稿を放置しておくと、権利侵害を助長していると叩かれ、場合によっては損害賠償請求をうける。そこの調整のための法律。プロバイダの免責について定めている。他方、発信者情報開示請求については明確な根拠がなかったので、根拠規定を定めた」

    この法律がなければ、インターネットユーザーが自由に情報発信するタイプのサービスは事業者側のリスクが高すぎて運営できない。

    掲示板サービス、ブログサービス、140文字の短文を投稿するサービス、まとめコンテンツを投稿するサービス。すべてプロバイダ責任制限法の上に成り立っている。

    例えばTwitterでは1秒間に、数えられないくらいたくさんの権利侵害が起きている。アニメの画像をアイコンに用いたTwitterユーザーが、テレビ画面をスマホで撮影した写真を投稿した場合、すべての責任をTwitterが負っていてはサービスの運営が続けられない。

    同様に例えば、はてなが運営する「はてなブログ」で、とあるブロガーが外部サイトの写真などを引用の範囲外で使用していたと仮定する。この場合も、はてながすべての責任を負うことはないだろう。Tumblrも、Pinterestも、なんでもそうだ。

    プロバイダ責任制限法はあらゆるユーザー投稿型サービス(Consumer Generated Media、略称:CGM)を運営する際になくてはならない法律となっている。NAVERまとめもこの法律の範疇に入るサービスであるという見解をLINE側は持っていると考えられる。

    NAVERまとめの記事作成画面には、テキストを書き込んだり、画像素材やAmazonのリンクを検索して掲載したり、Twitterの投稿を引用したりする機能が盛り込まれている。ユーザーはこれらの機能を使ってまとめコンテンツを作る。

    この仕組み自体は、一般的なブログサービスと大きな差はない。NAVERまとめも数あるユーザー投稿型サービスの1つであると言える。

    では、インターネットサービス事業者にとって、プロバイダ責任制限法は万能な存在なのだろうか。

    法律自体が限界にきているのではないか

    フリーライターのヨッピー氏はサイバーエージェント「Spotlight」に訴えを起こし、12月9日、その全容をYahoo! 個人に公開した。

    炎上中のDeNAにサイバーエージェント、その根底に流れるモラル無きDNAとは(ヨッピー) - 個人 - Yahoo!ニュース

    Spotlightにコンテンツを盗用されたとする12人の委任を受けたヨッピー氏が、サイバーエージェントに対して、問題記事の削除や権利侵害の窓口の整備、和解金などの「補償」を要求した。

    だが、サイバーエージェント側の回答は以下のようなものだった。

    Spotlightは、サービスが定める「利用規約」に基づき、会員が自身の責任で自由に記事を投稿しているCGM型のメディアです。会員はこの利用規約上、著作権侵害をすることを禁じられており、権利者の方に対して権利侵害によって損害を与えた場合、投稿者自身がその責任を負うことが定められております。

    和解金のお支払などをご請求されたい場合は、プロバイダ責任制限法の手続きに沿って発信者開示請求の書面をご用意いただければ、当社が保有する会員の情報をご提供することが可能です。以上、ご確認のほどよろしくお願いいたします。

    これがプロバイダ責任制限法の力強さである。

    ヨッピー氏の記事によれば、警視庁の知的財産関係犯罪を取り締まる経済第七課の担当者も、「このケースだと、まず直接の実行者である個別のライター個人を特定して刑事告訴して捕まえた上で、サイバーエージェント社を共犯という構成にしないと立件は難しい」と話していたという。

    インターネットユーザー個人の責任は追及できても、運営母体は責任を負わない。そういった法律になっている。

    古くはニフティサーブや2ちゃんねる、各種ブログサービス、動画共有サービス、TwitterにFacebook、そして今回のキュレーションプラットフォーム。ヒットサービスの影にはプロバイダ責任制限法がある。

    ネットの発展に寄与してきた法律であることは疑いないが、それによってさまざまな不都合が起きているのも事実だ。特にNAVERまとめに対しては、ここ数週間で著作物の権利者から怒りの声があがっている。

    写真家の有賀正博氏は自分の撮影した写真がNAVERまとめに転載されていたため、LINEに対して抗議文を送った。「NAVERまとめに無断転載を抗議したら、衝撃的な回答が来た」というブログでその内容を綴っている。

    著作権を侵害された個人が自分の権利を主張するためには、煩雑な手続きにのっとって訴えを起こさなければならない。時間も費用もかかる。「そこまでするのは……」と泣き寝入りする人も少なくない。

    板倉弁護士は「権利者が何をしたいかによるが、ほとんどのサービスプロバイダが発信者情報開示請求及び削除請求については同じ書式(プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の書式)の提出を求めている」と語る。

    「報道を見るかぎり、NAVERまとめがものすごくひどい対応をしているかというと対応は一般的。SpotlightもNAVERまとめも他と比べて極端に悪いわけではない」(板倉弁護士)

    弁護士から見れば、法律的には問題ないのが現実である。とはいえ、権利者は納得がいかない。

    LINEに対して批判的なツイートや訴訟を起こそうという動きが絶えないのは、上場企業が運営するサービス上で明白な著作権法違反がみられ、しかも、その対応が、権利を侵害された人にとって誠実だとは受け止められていないからだ。

    法律的にではなく、倫理的に問題があるとLINE側も認識しているからこそ、新方針を発表したのだろう。

    では新方針で、グレーゾーンが広い著作権法をどこまで忠実に守ることができるのだろうか。NAVERまとめに参加するすべてのユーザーに徹底させ、また、膨大な投稿を一つひとつチェックすることは可能なのだろうか。

    2017年中に課題を解決すると宣言したLINEの道のりは、楽ではない。そして、同じ課題は他のキュレーションサイトにも突きつけられている。

    問われているのは、個々のサービスだけではない。インターネットと法律のあり方そのものであるとも言える。