「朝鮮人虐殺」記載の報告書 朝日新聞の削除報道に内閣府「言った言わないで抗議はしない」

    朝鮮人虐殺の記述に批判が集まり、報告書が削除されたと報じた朝日新聞。内閣府は否定し、産経新聞は「抗議も検討」と報じましたが……。

    朝日新聞が4月19日の朝刊で報じた「『朝鮮人虐殺』に苦情、削除/災害教訓の報告書 内閣府HP」という記事に注目が集まっている。

    内閣府防災のサイトに掲載されていた関東大震災についての報告書が、苦情や批判の声により削除されたとの内容の記事だ。

    これについて、内閣府は「技術的な問題」と意図的な削除を否定し、産経新聞は4月20日、内閣府が朝日新聞に「抗議することも検討している」とまで報じた。

    いったい、どういう経緯だったのか。

    そもそも、朝日新聞が4月19日に社会面で大きく報じた記事では、報告書の削除騒動について、こう伝えている。

    江戸時代以降の災害の教訓を将来に伝えるため、政府の中央防災会議の専門調査会がまとめた報告書を、内閣府がホームページから削除していることがわかった。一部に関東大震災時の「朝鮮人虐殺」についての記述が含まれており、担当者は「内容的に批判の声が多く、掲載から7年も経つので載せない決定をした」と説明している。

    掲載を取りやめる経緯については、こうだ。

    「なぜこんな内容が載っているんだ」との苦情が多く、4月以降のホームページの改修に合わせ、安政の大地震や雲仙普賢岳噴火などを含め、すべての報告書の掲載を取りやめることにしたという。

    担当者の具体的な証言を掲載していることもあり、記事はネット上で大きな話題を呼んだ。Twitterでは一時、「朝鮮人虐殺」がトレンド入りをした。

    しかしこの日の昼には、時事通信が過去の災害資料、閲覧できず=今月中にHP再掲載-内閣府との記事で「HPリニューアル作業のためで、意図的な削除ではない」という内閣府の見解を報道。

    翌20日朝になると、朝日新聞は「『朝鮮人虐殺』記述HP 閲覧可能に/今月中にも 内閣府『削除ではない』」と、産経新聞は「HPの『朝鮮人虐殺』削除報道/内閣府、朝日記事を否定」と、内閣府の見解を記事に掲載した。

    実際、サイトはどうなっているのか。これが2017年4月20日現在の様子。たしかに、報告書は載っていない。

    一方、アーカイブされている2016年7月27日のサイトの様子がこれだ。様々な報告書が羅列されているのがわかる。

    内閣府に聞いてみた

    何が起きているのか。

    BuzzFeed Newsは、今回の経緯について、内閣府に問い合わせた。別々に取材に応じたのは、報告書の担当者、システムを担当している部署、広報対応の担当者の3人だ。

    報告書の担当者はまず、朝日新聞の報道について「苦情はひとつも受けていない」と明確に否定した。

    「1年前からこの担当なのでそれより前は知らないですが、私がいる間には苦情はありませんでした」

    そのうえで、サイトから削除されていることに気がついたのは、4月18日だったことも明かした。

    「朝日新聞の記者からの問い合わせがあり、発覚しました。一部だけ落としているわけではなく、ごっそり過去の報告書が見えない状態になってしまっていた」

    「こちらは、復旧してくださいとシステムの担当部署にお願いをする立場です。今週中になんとか復旧できる見込みなので、急いでやってもらっている」

    「リンク切れが起きていた」

    一方、内閣府のシステムの担当者はBuzzFeed Newsの取材に、サイト不具合の経緯をこう説明する。

    「サイトリニューアルの影響でリンク切れが起きていたんです。このページだけではなく、その他でも数件。すべて職員が見つけていました。報告書に関してはリンク切れがほかよりも多かった」

    実際、内閣府防災サイトのトップページにはこのような表示がされている。

    この担当者によると、2016年度、外部業者に発注してサイトの改築を実施。

    2017年4月までに終わっていたが、各所でリンク先に飛べない「リンク切れ」が起きていた。そのため、このページではいったんリンク自体を削除したという。

    「報告書のページに関しては朝日新聞から問い合わせもあったことですし、復旧作業を4月18日から始めています。鋭意作業中です」

    そのほかのページについても現在、外部・内部の両輪でチェックを行っている状況だそうだ。

    では、産経新聞の抗議報道は……

    最後に取材に応じた広報対応の担当者は、産経新聞が「抗議も検討」と報じたことについて、「現時点で申し入れをするとは考えていません」と否定した。なぜなのか。

    「朝日新聞の今日の朝刊に後続の記事があり、内閣府の技術的な問題であって、再び閲覧できるようになると書いてもらっているので、その意味では正しく報道されたのかなと思っています」

    ただ、朝日新聞は4月20日の朝刊でも「内閣府の複数の担当者に電話で取材し、苦情を受けて見られなくしようとしたと説明を受けた」との主張を崩していない。

    この点は問題視していないのか。その点を問うと、この担当者はこうつぶやいた。

    「そこの部分は見解に齟齬がありますが、言った言わないということをしてもこれ以上仕方ないので……」

    消えていた報告書の中身とは

    問題になっている文書は、「第3期報告書」の「1923 関東大震災 第2編」だ。

    現段階でサイトから見ることができないため、BuzzFeed Newsは内閣府からメールで原本を入手した。

    報告書のなかでも朝鮮人虐殺について詳細に記されているのは、「殺傷事件の発生」という項目。以下のような記載がある。

    関東大震災時には、官憲、被災者や周辺住民による殺傷行為が多数発生した。武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった。殺傷の対象となったのは、朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった。

    そのうえで、「官庁記録による殺傷事件被害死者数」という表で朝鮮人、中国人、日本人の計578人が殺害された、などとしている。

    PDFはここから見ることができる。

    UPDATE

    一部文言を加えました。4月20日22時30分現在、報告書は再掲載されています。