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性別適合手術に有給、同性婚でも単身赴任手当。大企業がLGBT施策に乗り出すシンプルな理由

ダイバーシティとインクルージョンをどう実現するか。先進的な取り組みを進める企業がある中で、まだまだ追いついていないところも。

経済同友会が2017年2月に公表した「ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査結果」(有効回答131社)がある。

これによると、LGBTなど性的マイノリティに関して「相談窓口の設置」「研修の実施」などの施策を実施している企業の割合は39.7%。従業員5千人以上の企業に限れば75.0%になる。

そんな中で先進的な取り組みを進めているのが、外資金融大手のAIGグループだ。

2015年末から積極的にLGBTに関する取り組みを続け、2016年には、任意団体「work with Pride」が認定するLGBTに関する取り組みの評価指標「PRIDE指標」で最高のゴールドに表彰された。

たとえば、AIGグループの場合

「多様な人材を受け入れることだけではなく、多様な視点に基づいて社員それぞれが理解を深めることを目指しています」

AIGグループで「ダイバーシティ&インクルージョン」を担当するシニアマネージャーの馬場聡子さんは、BuzzFeed Newsの取材にそう語る。

2016年5月には、グループ会社で販売する保険商品で、同性パートナーを保険金の受取人として指定できるようになった。当時、生命保険会社の改定発表が続いていたが、AIGグループでは生命保険、傷害保険両方で改定を発表。国内で初めてだという。

また、社内でも結婚休暇や単身赴任手当の申請の際に、同性婚や同性パートナーシップも対象にしている。マネジメント担当者向けの研修にもLGBTの項目を取り入れた。

それだけではない。当事者の従業員と支援者が自主的にチームをつくり、社内向けのセミナーを開催したり、2016年からは東京レインボープライドにもブースを出したりするなどの取り組みも始めている。

そもそも、馬場さんが担当している「ダイバーシティ&インクルージョン」は、男女だけではなく、LGBTの人たちや、外国人、障がい者など様々な人材を受け入れ、包括的に活用していくことを意味する言葉だ。

「そうした人材を受け入れ、それぞれについてお互いが理解し、自分たちの仕事に反映させていくことができれば、真にダイバーシティのある企業であると言えるんじゃないでしょうか」

「身近にいる」と知ってもらうために

AIGでは2015年10月、まずは「LGBTとは何か」を知ろうと、LGBT関係の企業研修を担うNPO法人「虹色ダイバーシティ」に依頼し、役員向けのセミナーを開催。その1ヶ月後には「九州レインボープライド2015」の協賛を決めたという。

さらに、翌2016年からは、同性パートナーがいる人たちが保険商品を利用できるように対応を変更。管理職が受講するハラスメント研修の中にLGBTに関するパートを導入した。

それだけではない。LGBT当事者と支援者の社員が自主的に「LGBT & Allies Rainbow ERG(従業員グループ)」というチームを立ち上げた。「身近な存在としてのLGBT」を考えてもらうことを目指して活動しているという。

チームでは、計1万人ほどいる社員たちに「LGBT」を知ってもらおうと、社員の当事者らによるセミナーを開催。いまは会社に提出する提言づくりを目指して活動している。メンバーはすでに150人を超えた。

そのゴールはどこに設定されているのか。馬場さんは「それぞれが持つ違いを、障壁としない職場にしたい」と力を込め、こうも語った。

「そもそも、ダイバーシティ&インクルージョン担当は企業に必要ないと思っているんですよ。会社からこの役職がなくなることが、ゴールだと思っています」

追いついていない施策

AIGグループのようにLGBT向けの取り組みを実施している企業は増えている。

BuzzFeed Japanでも2017年1月、同性パートナーがいる社員が結婚休暇や育児休業を取れるようになった。

また、3月には飲料大手のキリンがトランスジェンダーを対象に、性別適合手術に関わる有休取得を60日間まで認め、話題を呼んだ。

それでも、積極的に取り組んでいる企業はまだ一部にすぎないのが現実だ。

連合が2016年に実施した民間企業社員らを対象にしたアンケートでは、全回答者(1000名)のうち、LGBT関連のハラスメントを受けたり見聞きしたりした人は22.9%いた。その数字は、LGBTが身近にいる人に限れば57.4%に上がる。

また、宝塚大学看護学部の日高庸晴教授がLGBTを対象に実施した意識調査(2016年、有効回答1万5141人)によると、職場・学校の環境で「差別的な発言」を経験した人は、実に71.7%だ。

連合のアンケートの回答者のうち、LGBTなど性的マイノリティの当事者は8%。決して少なくはない数字だ。日高教授は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「東京を中心とする都市部や、外資系を含めた大企業での取り組みは進んでいるかもしれないが、地方や中小企業ではやっと動き始めた段階。まだ浸透しているとは言えません。多くの人が現状を知らないはず。学ぶ場、仕組みをつくっていくことが大切です」


BuzzFeed Japanは4月26日から5月9日まで、LGBTウィークとして、セクシュアル・マイノリティに関する記事を発信します。

セクシュアル・マイノリティがそばにいるのは、あたりまえ。2015年の調査(電通調べ)では、およそ7.6%の人がセクシュアル・マイノリティだとされています。

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