強姦致傷容疑で逮捕された俳優の高畑裕太容疑者(22)。26日に母親で女優の高畑淳子さん(61)が会見を開き、涙を流して「どんなに言葉を重ねてもおわびの言葉が見つかりません」と謝罪した。
会見では記者から、高畑容疑者の性癖や性欲などについての質問が飛び出した。そのことに、「母親にそんなことを聞くべきではない」「行き過ぎている」「非常識だ」などと、批判が集まっている。
これは「報道の自由」なのか。そして、質問の意図は。
記者からの性に関する質問
高畑淳子さんは泣きながら、記者からの質問に答えた。テレビ各社はその様子を一斉に生中継し、新聞各紙も一問一答や速報で報じ、注目が集まった。
そこで飛び出したのは、以下のような質問だった。
・フジテレビ「直撃LIVE グッディ!」 大村正樹キャスター
ーー裕太容疑者の性癖について、気づくことはなかったのか
「それは男の子供を他に持っていないので、男の子はこういうもの、とくらいにしか……」
ーー例えば性欲が強いとか、性的嗜好がおかしいとかは
「性的嗜好がおかしいと思ったことはなかったですね」
・読売テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」 中山正敏リポーター
ーー性的な衝動を抑えられない、行動にブレーキがかけられないというようなところはあったか
「私が見る顔は家庭の中だけの顔で、その中で今、思い出されることはないようですが」
ーーブレーキがかからないという状況を母から見てどう感じるか
「家族が22歳の男性にずっとついていることは……。ただ、うちで私はできる限りのケアをしたつもりでおりましたが、今、申し上げることではないと思います」
「息子の性欲」について母に聞くべきなのか
こうした質問について、ネット上では批判が噴出。「息子の性癖」や「息子の性欲」がツイッターのトレンドに入り、スポーツ各紙は「高畑淳子に「息子の性癖」質問、ネットで批判噴出(日刊スポーツ)」などと報じた。
「何のための質問か」
そもそも、報道機関はなぜ、事件報道をするのか。日本新聞協会は「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」で次のように掲げている。
事件報道には、犯罪の背景を掘り下げ、社会の不安を解消したり危険情報を社会ですみやかに共有して再発防止策を探ったりすることと併せ、捜査当局や裁判手続きをチェックするという使命がある。
母親に息子の性欲について、質問することが、このような事件報道の目的にかなうことなのだろうか。
BuzzFeed Newsは、メディア倫理を専門とする青山学院大学法学部の大石泰彦教授に話を聞いた。
「質問したことに対して批判されたときは、記者側もなぜ聞いたのか明らかにする責任がある。それができないのであれば、『取材の自由』と『報道の自由』の過剰行使とも言える」
「犯罪報道は、将来同じような犯罪が起きないように、注意できるようにするのが目的のはずです。記者が何のために事実を明らかにして、何が防げるのか。どう世の中のためになるのかを説明できないのに、相手に答えを求めることはできない」
その上で大石教授は、取材者がそのようなことを「分かっていなかったのではないか」とも語る。
「取材によって何を明らかにし、世の中に裨益するのかを理解せずに『俺たちには自由がある』『親なら責任がある』と、わけのわからないことを聞いてしまっている。『読者が知りたがっている』という理由だけではなく、何の問題を明らかにしたいのかを説明できないと、説得力はありません」
質問の意図を問い合わせると...
BuzzFeed Newsは、フジテレビと読売テレビに質問の意図を問い合わせた。
フジテレビ広報部は質問にファックスで回答。「取材の詳細に関するお問い合わせについては、お答えしておりません」と記されてあった。
一方、読売テレビに連絡を取ったところ、「情報ライブ ミヤネ屋」のアシスタントディレクターを名乗る男性は電話で以下のように答えた。
質問事項を考えた番組ディレクターが、席を外しており答えられません。(中山リポーターは)その場で質問を考えた可能性もありますが、ここにいません。ディレクターが戻ってきても、回答するかはこちらの判断であり、その義務はありません。
高畑淳子さんはすべての質問に答え続けた
最終的に、会見は64分間に及んだ。「すべての質問にお答えしたいと思います」と終了予定時間の40分を超えても、報道陣の質問に真摯に答え続けた。
なぜ、高畑さんはそこまでして会見に応じたのか。「親の責任」を問われ、こんな風に答えている。
「私はいろんな方のお力を拝借して、このように仕事の場を与えていただいた。一人の母親で、人間でありますけれども…(自分は)商品です。そこのところを自分でどう整理すべきか……」
「成人した男性であれ、母親の気持ちとしては、ともに贖罪すべきだという気持ちが一番に走っていますが、私だけの気持ちで動いていいのかということも、頭の隅に置かなければいけない。成人しているからといって、『自分とは関係がない』とは絶対に言えないと思います」