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「沖縄の基地反対派は日当もらっている」ニュース女子、その根拠となる取材と証拠とは

1月2日に放送の「ニュース女子」。高江の米軍ヘリパッド建設反対派が日当を受け取っていると報じた。名指しされた団体「のりこえねっと」は抗議声明を出している。

TOKYO-MXTVの番組「ニュース女子」が1月2日、沖縄・高江の米軍ヘリパッド建設に反対する人たちを「テロリスト」と表現し、「日当をもらっている」「組織に雇用されている」と報じた。

反対運動に参加している人たちや名指しされた団体「のりこえねっと」は反発。報道は「歪曲」で、そもそも取材も受けていないなどと、抗議声明を出した。

「ニュース女子」は株式会社DHCシアターがスポンサーの「ニューストーク番組」。バラエティ色もある報道番組だ。東京・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏がMCを務めている。

1月2日の番組では「沖縄・高江のヘリパット問題はどうなった?過激な反対派の実情を井上和彦が現地取材!」と題して、沖縄・高江の米軍ヘリパッドへの反対運動を、軍事ジャーナリストの井上氏が沖縄から報じた。

番組の触れ込みは「マスコミが報道しない真実」。

井上氏は「抗議している連中」に「近づいたら危ない」などと、現地の状況を報告。「地元の人が畑にもいけない」「機動隊の人たちが暴力を振るわれているのに、救急車を止めた」「テロリストみたい」などと地元住民とともにリポートした。

ただ、これらのリポートは抗議活動が実施されている現場からではない。

車の中から撮影した高江の映像がごく短く挿入されているが、井上氏がそこで取材をしている形跡は映っていない。「トラブルに巻き込まれる可能性がある」「ここから先は危険」と話し、建設現場から離れた場所からリポートしている。

井上氏がリポートしている番組映像の背景に映る「二見杉田トンネル」から、井上氏がどこから「現地取材」をしているかがわかる。

井上氏は「このトンネルをくぐっていくと高江ヘリパッド建設現場」とリポートしているが、実際には「現地」から約40キロ離れているようだ。

井上氏のリポートは、名護や辺野古などで撮影されている。このトンネルは名護、辺野古の近く。「現地取材」はその近辺で止まっていたかのようにも見える。

その後スタジオトークでは、ディレクターが一人で現場に入ったが、カメラを取り出した時に「反対派に拘束されそうになった」と、現地での取材をしなかった理由を説明。「取材に行って揉めることで、トラックを止めてしまうかもしれない」などと、ゲストとともに語っている。

BuzzFeed Newsはこれまで2度にわたり、抗議活動の現場取材に入っている。他の報道機関やフリーランスのジャーナリストも問題なく取材できている。

番組の中で最も注目を集めたのが、「反対運動の裏にあるカラクリ」として、「反対派は日当をもらっている!?」と伝えている場面だ。

日当の証拠として登場するのが、1枚の「ビラ」と「2つの茶封筒」。

井上氏は沖縄のラジオDJとともに、ビラについて、反対運動への参加を呼びかけるもので、「東京で配られた」「5万円をあげると書いてある」と紹介した。

また、茶封筒については「普天間基地の周辺で見つかった」と説明。人名と「2万円」という金額が書かれていることを示し、「これが事実なら、反対派の人たちは何らかの組織に雇われているのか」とナレーションが入る。

基地周辺で見つかった、人名と金額が書かれた茶封筒が、どのように反対派とつながっているか。明確な説明がないため、なぜ、反対派が組織に雇われている証拠となるのかは、不明だ。

井上氏も参加した、その後のスタジオトークでは、このビラが、反ヘイトスピーチ団体「のりこえねっと」によって配られたものであると指摘されている。

「日当支給」は本当なのか?

ここで名前があがった「のりこえねっと」はヘイトスピーチに反対する目的で2013年に作られた団体。上野千鶴子氏(東京大学名誉教授)や宇都宮健児氏(前日弁連会長)らが共同代表を務めている。

「のりこえねっと」は2016年9月、「高江に『私たちの市民特派員を送ろう』」として、カンパを呼びかけている。この市民特派員には、現地の様子を発信することを条件に、往復飛行機代の5万円が支給される。

これが「のりこえねっと」が公開している市民特派員募集に関する資料だ。

【高江に「私たちの市民特派員」を送ろう!】随時、本土から特派員を送るためのカンパを募集しております! 郵便振込み・口座番号:0120-6-600701 加入社名:のりこえねっと 通信欄に「高江市民特派員カンパ」とお書きください。

「ニュース女子」の報道に対し、「のりこえねっと」側は強く反発した。1月5日、「『のりこえねっと』および共同代表・辛淑玉を誹謗中傷する虚偽報道に対する抗議声明」とする抗議声明をFacebook上に出した。

「虚偽報道」「まったく取材を受けていない」

「ニュース女子」は、沖縄・高江のヘリパッド建設問題について、反対運動の參加者の多くに対して金銭による報酬が支払われているという虚偽報道を行い、さらに、「のりこえねっと」共同代表の辛淑玉に対して人種差別にもとづく憎悪扇動表現をも行いました。

私たちは、この事実を深刻に受け止め、TOKYO-MXTVに対して、強い憤りをもって抗議します。そして、同番組によって傷つけられた人権と名誉の回復と補償を求めるため、必要なあらゆる手段を講じます。

声明では番組が「市民特派員」への手当てを歪曲して伝えたと、「日当」報道を強く否定。「関係者は同テレビ局から事前にまったく取材を受けておらず、意見の聴取はおろか単純な事実確認すらされていません」とした。

また、共同代表の辛氏に向けられた「なぜ韓国の人が沖縄に加わるのか」などという番組ゲストの発言にも、こう抗議した。

「のりこえねっと」共同代表の一人である在日三世の辛淑玉に対し、「韓国人がなぜ反対運動に参加するのか」などと、人種差別にもとづくヘイト発言を行いました。

これも取材をすれば簡単に分かることですが、ヘリパッド建設を批判する人々の中には日本以外の国籍を持つ人も多数います。米軍基地をめぐる日米両政府の沖縄への強権的・差別的対応は、国籍にかかわらず、この国で生きるすべての人々、とりわけ在日を含むマイノリティにとって重大な問題だからです。にもかかわらず、辛淑玉が在日であるからという理由でその活動を否定的に報道することはヘイトスピーチそのものであることを、同テレビ局は深く認識すべきです。


2万円の茶封筒は?

一方、「2万円」が配られたという封筒の出自は、番組中では明らかにされていない。最後まで、反対派との関係は分からないままだ。

日当という表現は使われていないが、反対運動の一部のメンバーが沖縄の都市部から遠く離れた高江に通うために、「行動費」として月1万円とガソリンの現物支給を受けていることは、地元紙・沖縄タイムス琉球新報が報じている。

また両紙は、辺野古沖での「海上抗議」の参加者の食費を負担する反対団体があることも報じている。ただ、一般の参加者たちに「行動費」や日当は支払われておらず、弁当も自腹だという。

米軍基地に反対は少数派?

番組ではそのほかにも、スタジオトークで「ボスは日本人なのかわからない」「(沖縄の)大多数の人が米軍基地に反対って声は聞かないんです」などと井上氏とゲストたちがやりとりをしている。

これらのコメントが何を参照しているかについての言及はない。世論調査を見る限り、「大多数の人は米軍基地に反対ではない」とは言えない。

沖縄県が県民3千人(有効解答率42.2%)に2015年11月に実施した世論調査「地域安全保障に関する県民意識調査」では、「普天間飛行場の辺野古移設に対する考え」には44.6%が「反対」を、13.6%が「どちらかといえば反対」と回答した。

TOKYO-MXTVの見解は

「のりこえねっと」の抗議声明には、「取材を受けていない」と書かれているが、真相はどうなのか。また、TOKYO-MXTVはどこまで事実を確認しているのか。

BuzzFeed Newsは1月6日午前に、同社に取材を申し込んだ。7日午前11時現在、以下のような返答を受け取っている状態だ。

「この度、貴殿より頂いております1月2日放送の『ニュース女子』についてのご質問ですが、状況確認及びご回答の可否も含めて、結論が出ておりません事をお伝えいたします。お問い合わせありがとうございました」

回答があり次第、記事にする予定だ。

UPDATE

1月16日放送の「ニュース女子」で、TOKYO-MXTVが初めて見解を示しました。詳細は以下の記事にまとめています。

MX「沖縄基地反対派に日当」報道、批判に対して番組が出した見解は「議論の一環として放送」

UPDATE

BuzzFeed Newsは、番組の制作を担うDHC側にも見解を聞きました。詳細は以下の記事にまとめています。

「沖縄ヘイト」と批判集まる番組「ニュース女子」 制作のDHC側に見解を聞いた