対策法でヘイトデモは止まるのか? 関係者に聞いた

    「差別はダメ」と言うけれど

    1匹残らず叩き出してやるからな!

    ゴキブリ朝鮮人は出てけ!

    特定の出自に向けた罵詈雑言で埋め尽くされる「ヘイトデモ」。その多くは、行政の管理する公園や道路の「使用許可」をとった上で開かれる。

    24日に成立見込みの「ヘイトスピーチ対策法」は、これらを規制する切り札になるのか。BuzzFeed Newsはヘイトデモが繰り返される川崎市の担当課や専門家に取材した。

    6月にもデモの予定が

    川崎市では6月5日にも川崎発!日本浄化デモ第三弾!というデモが企画されている。集合場所とゴールとして仮予約されているのは、やはり、市の管理する公園だ。

    なぜ、市は断ることができないのか。公園を管理する川崎市みどりの企画管理課に聞いた。

    ーー不許可にすることはできないんでしょうか

    ヘイトスピーチなるものをやるというだけで、不許可にするというのは難しいです

    ーーどのようなデモかご存知ですか

    「これまでのデモ行進でいろいろなことがあったと聞いてはいます」

    ーー在日コリアンの殺害や排斥を唱えていても、断れないんですか

    「(今回のデモを企画した)男性の申請はこれまで12回ありましたが、許可をしないと憲法上の表現の自由、集会の自由に抵触する可能性があります。そのため、これまでもずっと許可してきています」

    ーーヘイトスピーチ対策法が成立しても、断れないのですか

    「この法律が通ったからといって、それをもって不許可にすることはできません。ヘイトスピーチを規制するものではなく、理念法なので」

    ーーどういう場合なら断ることになるんでしょうか

    「許可をしない要件は、公園の管理に支障が出る場合になります。男性の申請はあくまでデモのスタートとゴール地点としての利用で、これまでも公園の物を壊すなど、管理に影響を与えるような行為は見受けられていません」

    川崎市の見解を聞いた限りでは、対策法が目指す「不当な差別的言動の解消」は難しいようだ。一方、神奈川県警は取材に「個別の案件には答えられない」と回答した。

    神奈川新聞を読んでヘイトデモに初めて抗議者として参加。休日を過ごす人で賑わう川崎駅に降りて感じた、ここでヘイトデモやるの?という衝撃。他者への侮蔑でしかない一団が平然と街に繰り出す衝撃。ヘイトが既成事実となり許容される社会を望まない

    1月に川崎であったヘイトデモとそのカウンターデモの様子

    弁護士「規制法ができても変わらない」

    この法律で、状況は改善されるのか。

    「デモはいままで通り、合法的にできてしまいます」。BuzzFeed Newsの取材にそう答えるのは、ヘイトスピーチ問題に詳しい神原元弁護士だ。

    「この法は理念法で、『不当な差別言動のない社会を実現しよう』と書いてあるだけ。ヘイトスピーチが違法であると読みとることはできません。つまり、デモは止められないんです。合法的にできるデモを許可をしないとなれば、裁判を起こされたとき、行政は簡単に負けてしまいます」

    対象は日本国外出身者……だけ?

    このほかにも、課題はつのる。与党案で保護の対象が「合法的に日本に暮らしている人」や「日本国外出身者」となっていた部分に、野党側が反発した経緯もある。非正規滞在者やアイヌ、琉球、被差別部落の人たちへの差別が、保護される対象から外れてしまうからだ。

    最終的には「法律が定義していなければ許されるという理解は誤り」との「付帯決議」を加えることで落ち着いたが、決議には法的な拘束力がない。

    それでも「半歩前進」

    一方で神原弁護士は「だからと言って、まったく無意味ではありません」とも語る。

    この法律では、地方公共団体にも「地域の実情に応じた施策を実施する」ように求めている。つまり、地方自治体が条例を制定して、施設利用に条件を科したり、罰則を設ける根拠になる。

    「ヘイトスピーチに対して国の姿勢を示したという意味は大きい。半歩前進です」

    理念をどう果たすか

    規制か。それとも「表現の自由」か。簡単に答えは出ない。

    「『ぶっ殺すぞ』のように、生命身体への害悪の告知がされる、ひどいヘイトスピーチには、条例で罰則を設けるべきだと思っています。一方で、そういう条例が、表現の自由に違反しないのか、という指摘も出てくるでしょう。この議論は今後も続くはずです」

    取材の最後、神原弁護士はこう力を込めた。

    「もちろん、法案だけでは何も変わりません。国や地方公共団体、そして私たちは、書かれていることをどう果たしていくのか。それが本当に問われているのではないでしょうか」

    UPDATE

    「ヘイトスピーチ対策法」は5月24日午後、衆院本会議で与党と民進党などの賛成多数により、可決、成立した。