• factcheckjp badge
  • okinawabfj badge

「沖縄デモ集団の正体は中国」というnetgeek記事は本当か ソースの「公安調査庁レポート」を読んでみた

netgeek記事の中で今年の公安調査庁のレポートとしてリンクされているのは2年前のものでした。BuzzFeed Newsは今年のレポートも入手して、読み込んでみました。

インターネットメディア「netgeek」が2016年12月24日、「『沖縄デモ集団の正体は中国』公安が衝撃のレポートを発表しNHKも報じる」との記事を配信した。

netgeekの記事は、公安調査庁がこのレポートで「在日米軍基地に反対するデモ集団について、『裏で糸を引いているのは中国だった』とまとめた」と説明している。

記事では、NHKの報道も取り上げ、次のように記している。

公安の報告はすでにNHKも報道しており広まっている。
簡単に説明しておくと、沖縄が日本から独立すると得をする中国は秘密裏にデモ集団を支援していたというもの。その支援の度合いは中国の大学やシンクタンクも絡んでおり、まさに国家ぐるみ。最終的には日本を分断させることで政治を有利に運ぼうとするのが中国側の狙いだったとみられる。

記事は拡散され、物議を醸している。BuzzFeed Newsはソースになっている「内外情勢の回顧と展望」を読んでみた。

netgeekは以下のように、レポートの内容をまとめている。沖縄デモ隊と中国の関係が指摘されているのは、以下の部分だという。

「(中国が)琉球独立勢力に接近」「『琉球独立』を標榜する我が国の団体関係者らを招待」と書かれているが、「沖縄デモ集団の正体は中国」に当たる記述はない。

netgeekが画像を転載している部分を含め、全75ページの資料中、中国と沖縄の関係性に関しては、2箇所で指摘しているだけだ。

資料が「沖縄米軍基地問題,集団的自衛権などをめぐり,政権批判世論を利用し分断を企図」とまとめている部分はこうだ。

在沖米軍基地撤去に向けた運動に取り組む反対派住民団体などの主張を「日本国民の政府批判の声」として世論戦での材料に利用するとともに,「琉球独立勢力」に接近するなど,日米同盟分断や尖閣諸島「領有権問題」での揺さぶりを企図した動きも見られた

直後に掲載されたコラムの「琉球帰属未定論」の提起・拡大を狙う中国にはこう書いてある。

○ 平成25年(2013年)5月,中国共産党機関紙「人民日報」は,中国社会科学院の研究者が執筆した,「琉球の帰属は未定」などと主張する論文を掲載した。中国は,公式には「沖縄は日本に帰属」との見解であり,「中国政府の立場に変化はない」(外交部報道官)と表明しているものの,その後も同紙が「沖縄返還協定は不法」と主張する研究者の論文を掲載する(8月)など,世論喚起を狙った動きが見られた。
○さらに,平成26年(2014年)以降は,「人民日報」海外版などが“専門家の論評”との体裁で同論を掲載しているほか,5月には,中国シンクタンクなどが琉球に関する学術会議を開催し,「琉球独立」を標榜する我が国の団体関係者らを招待した。また,「琉球新報」が「琉球処分は国際法上,不正」と題する日本人法学者の主張に関する記事を掲載した際には,人民日報系紙「環球時報」が反応し,関連記事を掲載する(8月)など,中国側の関心は高く,今後の沖縄関連の中国の動きには警戒を要する。

いずれも、中国が反対派団体の声を「世論戦での材料に利用」している点や、「独立勢力に接近」しているという見解が記されている。

一方、沖縄の基地反対運動と共産党や過激派の関わりについては、資料の「国内情勢」という項目でこう記している。

共産党や過激派が海底ボーリング調査に対する妨害などの抗議行動を実施
米軍普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり,沖縄防衛局が代替施設建設予定地の海底ボーリング調査に着手した(8月)ことなどから,共産党や過激派は,「反対の声を圧殺する蛮行」と批判し,辺野古周辺で反対派が取り組んだ抗議集会や座込みなどの反対運動に全国から党員や活動家らを動員した。特に,革マル派などの過激派は,同調査の「実力阻止」を訴えて,沖縄県内外から辺野古に赴いた反対派と共に,海上保安庁の警告を無視して,小型船艇で移設予定地やその周辺の立入禁止水域内に繰り返し侵入したり,移設予定地につながる米軍キャンプ・シュワブのゲート前で作業車両に立ち塞がるなどの抗議行動を展開した。

沖縄県内の各選挙への取組を通じて反基地世論を醸成
沖縄県内で行われた一連の地方選挙をめぐり,共産党は,「辺野古への新基地建設が最大の争点」と位置付けて移設反対派候補を支援した。名護市長選挙(1月)及び県知事選挙(11月)では,全国から党員を動員したほか,応援演説を行った同党国会議員らが,有権者に「建設推進を明確にした候補が勝てば日本の民主主義が危うい」,「米軍基地は沖縄経済発展の阻害要因」などと訴えた。特に,前那覇市長を支援した県知事選挙においては,「保守と革新の枠組みを超えて移設断念を求める『オール沖縄』勢力と,建設を進める勢力とのたたかい」などと主張し,反基地世論の醸成に努めた。これら選挙では,いずれも支援した候補が当選したことから,同党は,「政府はこの結果を受け止め,建設を断念すべき」などと訴えた。

ここでは、「中国」という国名は出てこない。

ほかの項目を見ても、「デモ隊の裏で糸を引いているのは中国」「秘密裏にデモ集団を支援」という言葉は見当たらなかった。

この資料は2014年にまとめられたもの(公開は15年1月)だ。つまり2年前の情勢報告で2016年のものではない。

今年の資料はまだ、一部の報道機関などにしか公表されていない。公安調査庁によると、インターネット上にアップされるのは2017年だという。

netgeekが引用したNHKの報道はどうか。こちらは正真正銘、2016年の「内外情勢の回顧と展望」に関するものだが、やはり基地反対運動への言及はない。

NHKの記事が沖縄に言及している部分はこうだ。

このほか在日アメリカ軍基地が集中する沖縄県をめぐり、中国の大学やシンクタンクが、沖縄の独立を求める団体の関係者と交流を深めているとしたうえで「中国に有利な世論を沖縄でつくることによって日本国内の分断を図る狙いが潜んでいると見られる」と注意を喚起しています。

内容はあくまで、「独立を求める団体」と、「中国の大学やシンクタンク」が交流を深めているというもの。基地反対運動については記載がない。

実際、2016年のレポートに「デモ隊」と中国の関係性に触れた部分はあるのだろうか。BuzzFeed Newsは記者クラブ未加盟のため、独自に同庁に問い合わせ、今年の資料を入手した。

中国と沖縄の関係性については、「世論形成」を目的とした「琉球独立勢力」への接近があると、やはり2箇所で言及している。

こうした中、在日米軍施設が集中する沖縄においては、「琉球からの全基地撤去」を掲げる「琉球独立勢力」に接近したり、「琉球帰属未定論」を提起したりするなど、中国に有利な世論形成を図るような動きも見せた。

「琉球からの全基地撤去を掲げる琉球独立勢力」など、たしかに2年前より踏み込んだ表現がされている。しかし、「独立勢力」と基地反対運動の関係性や、中国による具体的な支援などの指摘はされていない。

一方のコラムはこのような内容だ。

「琉球帰属未定論」を提起し、沖縄での世論形成を図る中国
人民日報系紙「環球時報」(8月12日付け)は、「琉球の帰属は未定、琉球を沖縄と呼んではならない」と題する論文を掲載し、「米国は、琉球の施政権を日本に引き渡しただけで、琉球の帰属は未定である。我々は長期間、琉球を沖縄と呼んできたが、この呼称は、我々が琉球の主権が日本にあることを暗に認めているのに等しく、使用すべきでない」などと主張した。
既に、中国国内では、「琉球帰属未定論」に関心を持つ大学やシンクタンクが中心となって、「琉球独立」を標ぼうする我が国の団体関係者などとの学術交流を進め、関係を深めている。こうした交流の背後には、沖縄で、中国に有利な世論を形成し、日本国内の分断を図る戦略的な狙いが潜んでいるものとみられ、今後の沖縄に対する中国の動向には注意を要する。

基地反対運動と共産党や過激派の関わりについての項目には、2年前とほぼ同じことが書かれている。

辺野古及び高江で米軍施設の移設作業に対する妨害行動を継続
沖縄の在日米軍施設をめぐり、沖縄防衛局は、引き続き、米軍普天間基地の辺野古移設に向けた工事を行った(国と県の和解に伴い3月から中断)ほか、7月には、米軍北部訓練場でのヘリコプター着陸帯移設工事を約2年ぶりに再開した。これに対し、共産党や過激派は、反対派市民団体や県内外の支援者らとともに、辺野古及び北部訓練場の周辺で抗議行動に取り組んだ。特に革マル派などの過激派や一部の反対派は、公道に座り込むなどして移設工事関連車両の通行を繰り返し妨害し、逮捕者を出すなどした。

米軍属による女性殺害事件に抗議して海兵隊撤退を主張
軍属による女性殺害事件(4月)を契機に、共産党や過激派は、反対派市民団体などとともに、同基地など県内各地の米軍施設周辺で抗議行動に取り組み、海兵隊の撤退などを訴えた。また、6月に那覇市内で開催された「元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾!被害者を追悼し、海兵隊の撤退を求める県民大会」に全国から党員や活動家らを動員した。

「辺野古移設阻止」を主張する知事を支援したほか、県内の各種選挙で移設反対を掲げる候補を支援
沖縄県議会で与党会派となっている共産党は、「辺野古に新基地は造らせない」を公約に掲げる翁長雄志県知事について、移設をめぐり国との間で3件の裁判が進行していたことを捉えて、全国からの支援を改めて呼び掛けた。また、宜野湾市長選(1月)及び参院選(7月)では、県内外の党員を動員し、移設反対を掲げる候補を支援した。このうち、参院選沖縄県選挙区で支援する候補が当選したことを捉えて、志位和夫委員長は、党創立94周年記念講演会(8月)の中で、「新基地建設反対の沖縄県民の圧倒的民意の表れ」などと主張した。

中国や「琉球独立派」との関連はやはり、明記されていない。netgeekが主張するように、それぞれの反対運動を「主体が中国」とする情報もなかった。