• worklifejp badge

長時間労働にセクハラ、テレビ局で働く20代女子のリアル

消えたいと思ったことは、何度もあった。

過労が原因で自殺をした国内最大の広告代理店・電通の高橋まつりさん(当時24)。長時間労働だけでなく、パワハラにも悩んでいた。Twitterにはセクハラを示唆する内容も書かれていた。

同じような現実に悩まされている人たちは、少なからずいる。特にメディア企業では、それが顕著だ。

BuzzFeed Newsは、マスコミで働く20代女性に、その実情を聞いた。

「まるで私のことかと、思いました」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、都内に暮らす20代の女性。テレビ局で働いている。高橋さんのニュースを見て「自分も同じような働き方をしていた」と感じたという。

「終電に間に合うことは、ほとんどありませんでしたね」

女性はそう、自らの経験を話し始めた。

毎日1時や2時まで働くことや、土日出勤は当たり前。会社を出て軽く食事をしたら、もう空が白んでいたこともあったという。

椅子で寝たり、家に帰ってシャワーを浴びて、30分だけ寝たり……。睡眠不足が続き、昼間、営業先の広告代理店のトイレで寝てしまっていた、なんてことがしょっちゅうだった。

ただでさえ仕事に慣れず辛いなか、追い討ちをかけたのが飲み会の多さだ。

社内の飲み会というより、ほとんどが「代理店さん」や「お得意さん」の接待。年末は土日も含めて、月のほとんどが飲み会で埋まってしまったこともあるという。

「若い女子だったからということもあるのか、二次会から呼び出されることも多かったですね。別の飲み会が早めに終わって家に帰れたとしても、電話がなって、代理店の先輩から、『いまから六本木な』とか」

繁忙期は、飲み会が終わったあと、会社に戻って仕事をすることもあった。そうしないと、仕事が終わらないからだ。

残業時間は「わからない」

労働時間はどれくらいだったのか。

女性は「わかりません」と静かに答えた。

会社ではパソコンを通じて、労働時間を提出する。しかし、時間外労働の限度は40時間程に設定されており、それ以上の申請をしたことは、入社後一度もなかったという。

「限度以上を申請すると、上司が呼ばれちゃうと聞いているので、申請しようと思ったこともありません。そもそも人が足りないので、みんな同じくらい働いていますし……」

実際の労働時間を重ねて聞くと、「月に120〜130時間くらい」と話す。しかし、出入りを端末で記録しているわけでも、ノートに特段記録を取っているわけでもない。

「報道の人たちはもっとひどい現状がありますから。私たちの部署が80時間とかつけて、社内で残業時間の多い部署として“ランクイン”してしまうのは、良くない気もしています」

厚生労働省が企業約1万社(回答1743 件)、労働者約2万人(回答1万9583人)を対象に昨年、実施したアンケート結果が「過労死白書」に載せられている。

それによると、1年で残業が一番多い月の残業時間が「過労死ライン」とされている80時間以上だった企業の割合は、テレビ局、新聞、出版業を含む「情報通信業」が44.4% (平均22.7%)と一番高い。

電通の過労自殺問題を、メディアは一斉に批判的な目線で取り上げた。しかし、そのメディアで働く人たち自身も、やはり過労に悩まされているのだ。

私も全国紙で記者をしていた経験がある。月の休みが数日だけだったり、残業が100時間を超えたりするなんて、正直当たり前だった。事件が起きれば、1〜2ヶ月休みなし、寝られない日が続くなんてこともある。

女性は言う。

「マスコミってやっぱり、世間から見たら働き方が普通じゃない気がしています。午前1時や2時まで働いて、夜遅くまで飲み会をするのが頑張っていることみたいに、思いがちなんじゃないんでしょうか」

男社会で受ける「セクハラ」

セクハラもひどかった。特に、飲み会で。

「広告もテレビも男社会なので、自分で言うのもなんですけど、若い女子だからということで呼ばれる私は、『マスコット・キャラ』なんだなと感じることもありました」

体を触られることもある。太ももやお尻、ひどいときは、股間まで手を伸ばしてきた人もいた。いくら、嫌がってもだ。

「それでも、飲み会に行って気に入られれば、仕事が取れないときに、助けてもらえる。だから、行かないといけないんですよね」

会社では、「彼氏もいないのか」「そんなんじゃ、良い営業マンになれない」と上司から言われる。飲み会でのセクハラを、相談する気は起きなかったという。

セクハラの泣き寝入りは6割超

厚労省が実施した、セクハラの実態調査がある。

昨年9〜10月、全国6500社で働く25~44歳の女性約1万人から回答を得たアンケートでは、セクハラ被害を受けたという正社員の割合は34.7%にのぼった。

セクハラの内容は「容姿や年齢、身体的特徴を話題にされた」が53.9%と最多で、さらに「不必要に体を触られた」(40.1%)と続く。

その対応としては、「我慢した、特に何もしなかった」が最多の63.4%。半分以上が、取材に応じた女性のように「泣き寝入り」しているのだ。

また、先出の過労死白書によると、昨年度、「精神障害」を患い労災認定された146人の女性(男性326人)のうち、セクハラが要因なのは24人(男性0人)で全要因中2番目の多さだった。

取材に応じた女性のように、長時間労働やセクハラに悩むことは、決して「特別」ではない。同じような問題に悩んでいる人たちがいることは、調査の結果から明らかだ。

過労死白書によると、「平均的な1週間の残業時間」は、男性が8.6時間、女性が5.2時間。20時間以上だった女性は5.1%(男性は11.6%)と、男性の働き方も依然として厳しい状況にある。

「多少の理不尽は我慢しろ」

営業部門に配属されたころ。女性は上司に「いい給料をもらっているんだから、多少の理不尽は我慢しろ」と告げられた。

だから、必死に働いた。我慢もした。それでも、その年の後半には、体のあちらこちらに不調が出て、病院に通うことが多くなった。体調を崩して家で寝ていたら、母親が久しぶりに訪ねてきた。その顔を見ただけで、涙が止まらなくなった。

「それくらいなら辞めちゃえば良い、という人もいる。でも、ここで辞めたら他の仕事なんかできないんだろうな、という気持ちになってしまうんです。視野が狭くなって、他の選択肢なんて見つけられなくもなる」

「消えたい、と思ったことも何度もありました。それが、死にたいに変わってしまう気持ちは、全然、わかります」

それでも、かろうじて仕事を続けられたのは、相談に乗ってくれる人たちがいたからだ。高橋さんの過労自殺が報じられてから、たくさんの友人や先輩、家族が連絡をくれた。

仕事に追い詰められていった高橋さんの姿が自分と重なり、心配してくれる人たちの言葉で、自分も同じ状況に立たされていたことに気づいた。

「働くことは、辛さを伴うことと思い込んでいました」

高橋さんの自殺に関する報道で、長時間労働に批判的な世論が高まっても、職場の状況は変わっていない。

「1年以内には辞めたいですね」

死にたくなってまで働かないといけない仕事ではない。いまなら、そう思える。