カップルと公認されるということ。歌に込めた喜びと「夫婦との差」

    「マイナスなことは一つもない」。今ではそう思う。

    東京都渋谷区が、全国で初めて同性カップルを結婚に相当する「パートナーシップ」と公認する証明書を交付してから2年が経った。

    渋谷区を皮切りに、同性カップルを公認する「パートナーシップ制度」は、他の自治体にも導入されている。

    ただ、利用したカップルは多いわけではない。そもそも制度自体を知らない当事者もいる。そんな現状を見て、制度を知ってもらいたい、と当事者らが楽曲を制作した。

    そもそもパートナーシップ制度とは。

    パートナーシップ制度は現在、渋谷区のほか世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、沖縄県那覇市、北海道札幌市の計6の自治体にある。

    日本は同性婚を法律で認めていないため、男女の夫婦なら得られる相続や税、社会保障など法律に基づいた権利や優遇措置はない。

    だが、制度によって、住んでいる自治体では戸籍上の家族でないことを理由に断られていた住居の賃貸契約や病院で面会時の問題改善が期待される。

    さらに、パートナー死亡時に生命保険の受取人になれたり、携帯電話の家族割引が適用されたりする。

    制度を利用したカップルは、全国で134組(10月末現在)。

    「電通ダイバーシティ・ラボ」が2015年、全国の20〜59歳の約7万人を対象に調査したところ、13人に1人がLGBTを含むセクシュアル・マイノリティ(性的少数者)だった。

    この結果から、134組という数字が決して多いとは言えないのがわかる。

    一生を添い遂げようとカップルが互いに誓ったとしても、制度を利用しようと考えるかは別の話。制度には当事者の間でもさまざまな意見がある。

    LGBTエンタメ団体「やる気あり美」代表で、ゲイだとカミングアウトしている太田尚樹さん(29歳)は、BuzzFeed Newsに語る。

    「渋谷区で制度が生まれたとき、少なくとも僕らの周りの当事者は、制度ができるとは想像もしていなかったんです。なので『ポカーン』という人ばかりでした」

    「みんな、マイノリティとか、時にはかわいそうな存在と言われながらも、足腰鍛えて強く生きてきたんです。働けているし、友達もいるし、恋人もできた。そんな環境を自力で構築してきました」

    「それなのに、急に『あなたの椅子ができました』って言われても、『いや、立ってるから!』みたいな、『自分は関係ない』という感覚があったと思います」

    ある同性カップルは以前、BuzzFeed Newsに「法的に結婚が認められないのならば、パートナーシップ制度はパフォーマンスでしかない。それならば、意味がない」と語っていた。

    考えに変化、「マイナスなことは一つもない」。

    わざわざ申請するほどのメリットは、多くないと感じていた。しかし、時が経つにつれ、太田さんの考えに変化が生まれた。

    「何はともあれ、この制度ができたことはいいことだ、と思うようになったんです。社会からカップルだと認められるってハッピーだし、素晴らしいですよね」

    やる気あり美のメンバーで話し合うほど、そんな気持ちは強くなった。「マイナスなことは一つもない」と。

    当事者でも、この制度の存在を知らない人がいる。だから、多くの人に知ってほしい。自分にとっても幸せの一歩になる制度なのかもしれない、と思ってもらいたい。

    そこで「やる気あり美」は楽曲を制作した。

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    やる気あり美 / Via youtube.com

    曲名は「ピー・エス・エス」。”パートナーシップ制度”を略した。

    楽曲はポップな曲調で、ラップも交えて制度を説明。

    制度を利用後、証明書の写真を撮り、ホームパーティーを開くなどする幸せそうなカップルの様子を歌い上げている。

    「たとえ足腰の強い人たちであっても、『楽しいことがいっぱいあるから、申請してもよくない?』というアプローチなら、申請する人が増えるかなと思ったんです。なので、申請して、許可が下りたらこんなに楽しいよね?と伝わる歌詞と映像にしました」

    作曲を担当した、同じくゲイのみしぇうさん(27歳)は「当事者以外の人が認知しないとハッピーな空気感が生まれないと思うので、みんなに聞いてもらいたい」と語る。

    最終的な願いは、日本で同性婚が認められること

    制度ができたことは喜ばしいが、それで満足しているわけではない。

    「ピー・エス・エス」の歌詞にはこうある。

    「同性同士もパートナー認定 “ふーふ”に認定との差は雲泥」

    男女の夫婦なら得られるはずの権利や優遇措置を求めて、いずれは法律で同性婚を認めてほしい。みしぇうさんは期待する。

    「制度は、同性婚への一歩だなとずっと思っています。制度がもっと広まれば日本でも同性婚が身近になり、気運が高まると思っています」

    リサーチ・アンド・ディベロプメントは2月、「同性同士の結婚も法律で認められるべき」かを首都圏の18〜79歳に問う生活者意識調査を発表。

    結果は男性41%、女性57%が「認めるべきだ」とした。

    注目すべきは、年齢が下がるほど許容する割合が高いこと。18〜39歳を年代別にみるといずれも半数を超え、女性では約7割に上った。

    子どもがいる女性からの温かい言葉

    「急速に日本社会が変わってきている」と太田さん。LGBTに寛容な人が増えてきたと肌で感じるという。

    みしぇうさんは、子どもがいる女性の友人から次のように話された経験を持つ。

    「この子がゲイだったとしても、レズビアンだったとしてもいいの。大好きだから」

    「ピー・エス・エス」にも温かいコメントが多く寄せられ、「熱量を感じる」。

    やる気あり美は、LGBTに「愛着」を持ってもらえるよう、今後もさまざまなコンテンツを配信していきたいという。

    子どもから「私、レズビアンなの」と話されたり、子どもの言動から「LGBTかな」と思ったりした時、「でも」と思ってもらいたい。太田さんは願う。

    「『でも、オープンにして幸せに生きている、やる気あり美みたいな人もいるから大丈夫だろう』と、パッと思い浮かんでもらえるような存在になりたいです」

    「僕らは活動を始めて、人生がより楽しくなりました。だからこそ、コンテンツを通して楽しさを提案したいです」

    BuzzFeed JapanNews