DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか 現役社員、ライターが組織的関与を証言

    検索結果上位を独占する背景にはWELQ編集部の指示やマニュアルがあった。

    命や健康に関わる情報を扱っていながら、専門知識のない人たちが記事を執筆しているメディアがある。東証一部上場企業・DeNAが運営する医療情報サイト「WELQ(ウェルク)」だ。

    その記事はどのように書かれているのか。複数のライターや現役社員がBuzzFeed Newsの取材に証言した。

    誰でも記事を書ける「キュレーションメディア」を謳うことで、DeNAは記事の内容に責任を負わないとしている。各記事の末尾にはこう記されている。

    当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

    しかし、BuzzFeed Newsの取材に応じた社員やライターは、実態はWELQ編集部、つまりDeNAの事実上の指導のもとに大量の記事が書かれている、と証言した。

    10月時点では、8000文字前後の記事が、毎日およそ100本も掲載されていた。それらの記事は、医療関係者のチェックを経ず、検索上位に大量に並ぶ結果となっている。

    「キュレーションメディア」で誰でも投稿できると説明しつつ、ウェブ検索結果の上位にくる記事の書き方をマニュアル化している。複数のライターが、それを元に記事を書いたと証言した。

    記事の大量生産を可能にする方法とは

    現役社員やライターがBuzzFeed Newsに証言したのは、次のような内容だ。

    まず、WELQの運営元であるDeNAは、データ分析により検索エンジンで上位を狙える記事のテーマ・構成を決める。

    次に、クラウドソーシングサービスで見つけた外部ライターに、WELQ編集部が配布するマニュアル通りに執筆するよう求める。外部ライターの採用は、主に「クラウドワークス」「ランサーズ」「シュフティ」といったクラウドソーシングのサービスを利用している。

    記事の編集、公開作業はDeNAが担う。大量の外部ライターを抱えることで、記事の量産化を可能にしている。

    これが一連の流れだ。

    ライターとのチャットを入手

    DeNAは各クラウドソーシングサービス運営会社に案件を委託。募集画面では社名を伏せ、外部ライターが案件に応募したタイミングで社名を明かしている。

    審査時には、一定期間に執筆可能な記事本数などを問うアンケートと、執筆能力を測るテストを実施。合格者とは、グループチャットツール「チャットワーク」を通じて直接やりとりする。

    以下に掲載するのは、BuzzFeed Newsが入手したWELQ編集部とライターとのチャットワークでのやりとりだ。身元の特定を避けるため、一部修正している。

    ライターに求められている能力は

    外部ライターに、医療に関する知識を求めているのか。

    WELQでの外部ライター経験があるAさんは、「アンケートにそういった項目があったかもしれませんが、記憶に残らない程度。医療の知識や経験は聞かれなかったと思います」とBuzzFeed Newsに話す。

    また、WELQなどDeNAのキュレーションメディアプラットフォーム事業(DeNAパレット)に携わる現役社員Bさんも「最低限の文章を書いたことがあるか、こういう(キュレーション)業務が大丈夫かとか。そんなに(審査をして)人を選んではいない」と証言している。

    BuzzFeed Newsが入手したWELQの外部ライターリストには、このようなプロセスで集まったとみられる1500件以上の会員IDが記されている。

    編集部がテーマを準備、チェックして公開

    DeNAと外部ライターは、記事管理ツール「パレットワークス」を通じて原稿をやりとりする。

    外部ライターは記事を書くにあたり、DeNAがあらかじめ用意した「テーマ」の中から好きなものを選ぶ。DeNA社員のBさんによれば、このテーマは、Googleをクロールして他のウェブページから取得したワードから導き出したものだ。

    記事の書き方は、外部ライター向けのマニュアルに記されている。表紙には、医療情報が専門性が高いこと、法的に扱いが難しいことが明記されている。

    医療系記事は専門性が高く、法律的観点からも表現方法などが細かく規定されているため、ライターの皆様にはなるべく簡単に執筆いただけるようにマニュアルを作成いたしました。

    DeNAはこのマニュアルで、記事の執筆時に「参考」にすべきサイトを案内している。本文をそのままコピペするのは禁止し、「文章が重複しないようにご自身の言葉でリライトをお願いします」と、引用ではなく、わざわざリライトを指示している。

    記事をどのサイトから引用しているか追跡を難しくするためだと見られる。本来は適切に引用すべきところを、引用でないかのように見せかける悪質な行為と言える。

    そのほか、「参考サイトの文章を、事実や必要な情報を残して独自表現で書き換えるコツ」や「参考サイトに類似しない本文作成のコツ」などの項目もある。外部ライターに対して、こんなアドバイスをしている。

    中見出しごとに複数サイトを参考して複数意見を寄せ集めれば"どこを参考にしたかすぐ分かる"状態ではなくなり、独自性の高い記事になります

    外部ライターはこうしてまとめた記事を、パレットワークスを通じてDeNAに納品する。DeNAが内容をチェックし、記事を公開する。

    誰でも記事を公開できる「キュレーションメディア」でありながら、外部ライターに記事を発注し、ライター自身にはその記事を公開する権限がない。

    DeNAは、書き方を指南し、記事のキーワードを指定し、書き方をマニュアル化し、ライターにお金を払い、最終的な編集・公開を担っている。

    こうして公開された記事に対して、DeNAは「キュレーションメディアで誰でも投稿できるから、記事に責任がない」と表明してきた。

    大量の記事がこの手法で作られた?

    「WELQに掲載されている(広告や連載を除く)記事の8〜9割は、外部ライターに書かせたものです」とDeNA社員のBさんは明かす。

    実際にどれだけの本数が外部ライターによるものかは、確認できなかった。一般会員と外部ライターの記事本数の割合について、DeNA広報部は「非公表」としてBuzzFeed Newsに対し、具体的な回答を控えている。

    DeNAからの発注でなく、誰でも登録できる一般会員として記事を書いても、報酬はない。それなのに、WELQには検索エンジンに上位にくる長文の記事が大量にある。報酬がないのに、医療知識のない一般会員が長文記事を書くとは考えづらい。

    つまり、長文記事で検索上位に来るものは、編集部が外部ライターに依頼して書かせたものである可能性が高い。

    「WELQのSEO施策」DeNAは社内表彰

    「白血病」「ヘルニア」「吐き気」といったワードの検索結果で、WELQの記事は医療機関などのサイトを抑えてトップに表示される。

    なぜ、上位に来るのか。その理由はSEO(検索エンジン最適化)施策にある。

    SEOに詳しい辻正浩氏にWELQのマニュアルを分析してもらった。辻氏は「SEOが考えられています。現在の傾向をしっかりと取り込んだ内容です」と解説する。

    しかし、マニュアルにすべてのノウハウが記されているわけではないという。

    「SEO観点で難易度が高い部分は、触れられていません。おそらく、このようなマニュアルだけで記事が作られているのではなく、内製で改善しているか、さらに難易度が高い仕事をする外注が別にいるのでしょう」

    「簡単な作業は切り分けて低コストで効率よく行うことで、大量生産の体制を作っていることがうかがわれます」

    DeNA社員のBさんによれば、このSEOの仕組みは、Palette事業推進統括部 キュレーション企画統括部 グロースハック部が整えた。

    DeNAの社内表彰制度で、2016年上期(4〜9月)にこのグロースハック部が、さらにその前の期には、WELQの立ち上げに携わった社員も表彰されているという。

    改善策にも批判の声が上がる

    運営体制への批判を受けて、WELQは11月25日、「公開されている記事」について、専門家に対する医学的知見からの監修の依頼を開始したと発表した。また、読者向けに「記事内容に関する通報フォーム」を設置した。

    WELQが扱うのは命や健康に関わる情報だ。しかし信頼性が確認されていない、多くの既存の記事は、未だ公開されたままになっている。

    この対応には、医療関係者やIT業界関係者、メディア関係者を中心に批判の声が多くあがっている

    このコメントを出しておいて、ひどい記事は相変わらず公開したまま。ダメな点を無料で指摘する精神的・物理的余裕はないので閉鎖してください。>【お知らせ】「専門家による記事確認」および「記事内容に関する通報フォームの設置」|WELQ https://t.co/VoYDJ3Huxj

    一般論として、デマだらけのメディアがあったら、すべての検証が終わるまで記事の公開は差し止めでしょう。影響力には責任が伴う(特に生命や財産に関わる分野には)という意識がないのかな。これは完全に、システム、企業体質の問題になってしまったように思う。

    DeNA社員のBさんによれば、WELQは「DeNAパレットがKPIとして定める“来訪ユーザー数”が、MERYやiemoよりかなり多い」という。記事をすべて取り下げた場合の影響が大きいことが窺われる。

    「医療」もエンタメやファッションと一緒?

    「WELQは医療分野だから問題視されて炎上した。でも、DeNAパレットのほかのメディアも、やっていることはほとんど同じ」

    DeNA社員のBさんは、かたい表情でそう証言する。

    DeNAパレットが運営する、他の9つのメディアの運営方法と、WELQの手法は驚くほど変わりがないという。

    WELQ以外のメディアでも、クラウドソーシングサービスで採用した外部ライターが記事を書いている。

    Bさんによれば、エンタメ情報を扱う「PUUL」を除く8媒体は、WELQと同じく掲載記事の多くが、編集部が外部ライターに指示をして書かせた記事で構成されているという。

    PUULは漫画やアニメが好きな一般会員が記事を書くため、その割合がやや低いのだそうだ。

    クラウドワークス経由でDeNAに採用された外部ライターのCさんは、グルメ情報を扱う「CAFY」、出産や育児に関する情報を扱う「cuta」で執筆した。

    CさんはCAFYで、食べログなどに掲載された文章を「リライト」して「●●駅のランチ10選」といった記事を製作した。

    「コピペにならないように、という指示がありました。たとえばお店の住所の表記を変えたりとか」

    一方のcutaでは、育児や料理、医療に関わる記事を書いた。医療の記事は、WELQと同じく、断定表現は避けるようにとの指示があった。

    「(DeNAは)危険であることがわかってやっていると思います。題名も構成も決めているのに、記事の責任をライターに押し付けるような態度には不満を感じました」

    WELQがSEOで成功した後、他のメディアも記事1本あたりの文字数を増やすようになった。Google検索が、長文記事を優遇するからだ。

    「『この商品がオススメ』といった軽いテーマの記事にも、8000字を求められるようになりました。検索順位が大事なのはわかるけど、読む側の都合をまったく考えていません」

    疑問を感じたCさんは、DeNAパレットの外部ライターを辞めた。

    cutaもそうだが、医療やヘルスケアの情報を発信しているのは、WELQだけではない。たとえばMERYにも、「"死"以外はなんでも癒す」としてブラックシードを勧める記事が過去に載っていたが、今は非表示にされている。

    「医療情報を扱うWELQであっても、KPIの『来訪ユーザー数』さえ達成すればよいような状況です」(DeNA社員Bさん)。

    SEOとクラウドソーシングを掛け合わせ、信頼性が低いが検索上位に来る記事を大量に、組織的に生産する。

    これがDeNAの「キュレーションメディア」の現状だ。