無責任な医療情報、大量生産の闇 その記事、信頼できますか?

    水素水、ブラックシード…

    その情報は信頼できるのか…?

    季節の変わり目のせいか体が不調だ。検索サービスで「咳 止める」を調べてみると、上位3つに“まとめ記事”が表示された。

    いずれも、DeNAが運営するキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」の記事だ。

    健康や医療をもっと身近に”をコンセプトとしたこのメディアは、規約に同意して会員になれば、誰でも記事を掲載できる。

    検索結果の最上位に表示された記事には、著者のおすすめ市販薬と、咳が止まらない時の対処法などが書かれている。

    著者のプロフィールには「美容・健康に目のない私。お役立ち情報をお届けします」とある。医療の専門家ではなく、なにかを調べて記事にまとめたようだが、その情報の出所は明かされていない。

    サイト内にあるほかの記事には、水素水を「がんを始めさまざまな病気を予防する水」としたり、ブラックシードを「死以外のあらゆる病を癒す薬」として紹介したりするものもあった。

    しかも、WELQの各記事末尾には次のような説明がある。

    当社は、この記事の情報及びこの情報を用いて行う利用者の判断について、正確性、完全性、有益性、特定目的への適合性、その他一切について責任を負うものではありません。この記事の情報を用いて行う行動に関する判断・決定は、利用者ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

    時に人の命を左右する医療情報。責任が明確でない不確かな情報が、検索エンジンの上位に来ている。

    WELQが目立つ仕組み

    WELQは、記事広告や、スマートフォンサイトの各記事下部、PCサイトの右カラムに設置されたバナー広告などで収益を得ているようだ。つまり、記事の閲覧数が増えれば、それに応じて収益も増えるとみられる。

    WELQの記事は「咳 止める」だけでなく、「肺炎」「白血病」「糖尿病」といった病名(ワード)でも、信頼性の高い医療機関などのサイトを抑えて上位に表示される。

    なぜ、こんなことが起こるのか。BuzzFeed Newsは、検索エンジンの最適化に詳しい辻正浩氏に聞いた。辻氏によると、その背景は以下の通りだ。

    WELQの記事が検索上位に表示される理由の1つは、「検索ニーズがある情報の記事化」を他メディア以上に徹底していること。

    たとえば、「自分の身長の理想体重は何kgか?」と考える人は多く、「身長 理想体重」は検索ニーズが高い。

    WELQはこの検索ワードを狙い、身長ごとの理想体重を紹介する記事を作っている。それも140〜180cm台までの1cm刻みで。

    また、最近の検索エンジンが「長文」の記事を高く評価する傾向にあることも、WELQに有利な結果をもたらしている。

    「今の検索エンジンは、数年前のように『テキストとリンク』ばかりを中心に評価するのではなく、さまざまな点からそのページやサイトを評価します。その評価基準のいくつかで、『長文』は有利に働きます」

    検査エンジンから高評価を受けているWELQは、長文の記事が確かに多い。8000文字前後の記事が、毎日およそ100本も掲載されている。

    検索エンジンに選ばれるように、戦略的に運営されているWELQ。しかし、内容は十分なものと言えるのか。

    記事はどう作られたか

    「咳 止める」で表示された冒頭の記事を例にとり、その内容が何を根拠としているのかを探った。

    記事内にある単語や文を検索エンジンにかけると、よく似た他サイトの記事が表示される。

    専門家が監修したという記事もあれば、真偽不明のウェブ情報を集めたようなアフィリエイトブログの記事もある。内容を見る限り、WELQの記事はこれらを参考にしたようだ。

    各色の下線部の文章がほぼ一致する(下線部筆者)。他サイトにある記事の文章をそのままコピーするのではなく、言葉を少し変えたり、文の順序を入れ替えたりして書き直している(リライト)ということだ。

    このほか、この記事だけで、少なくとも他サイトの記事9本からのリライトが見られた。一覧にまとめてみた。

    「参考」と言えば聞こえはよいが、その記事にオリジナルの要素は乏しい。この記事に限らず、WELQの複数の記事に同じ傾向が見られる。

    時として命に関わる「健康」「医療」といったテーマ。これらの記事を、専門知識のない素人が、ネットから寄せ集めた玉石混淆の情報を加工して記事にしている。それが実態だ。

    だがWELQは、他の複数サイトの記事を引用せずにリライトし、内容が充実した「独自記事」のように見せかけて、検索エンジンに高く評価されている。

    検索エンジンは、記事単位だけでなく、その記事を掲載したサイト単位でも評価する。

    「文章が長い」などは本当の意味での記事の品質を担保しないが、現状の検索エンジンではそれも「品質」を測る指標になってしまう。

    辻氏は「一定の『品質』のある記事を膨大に持つことで、WELQというサイトがどんどん強くなり、その価値が雪だるま式に膨れてきていると考えます」と現状を捉えている。

    DeNAはどう考えているのか

    運営元のDeNAは、記事の責任についてどう考えているのか。BuzzFeed Newsの取材に、次のような回答があった。

    自由に投稿が可能なプラットフォームという性質があることもあり、ご指摘の文言を記載させていただいております。

    一方で、今後、医師などの専門家による監修を受けた運営側制作の記事配信を増やすこともかねてより検討しており、サービスの信頼性をより向上させていくことを目指す所存です。

    引き続き、様々なご意見を踏まえながらよりよい運営ができるよう真摯に検討してまいります。

    WELQに掲載されている記事(記事広告を除く)については、「一般の方による記事」が中心だが、一部は「外部のライターに作成いただいているもの」だという。

    「外部のライター」の採用基準、審査方法や依頼方法は「しかるべき手段を通じて依頼の上、当社としての一定の選定基準を設けております」としながらも、事業上の機密事項であるとして詳細は明かさなかった。

    また、「一般の方」と「外部のライター」の記事の割合についても「非公表とさせていただいております」として具体的な回答を控えた。

    WELQを含む10のキュレーションメディアを持つDeNAは「DeNAパレット」というキュレーションメディアの拡大構想を掲げる。

    WELQだけではなく、こうした検索エンジンを狙い撃ちするキュレーションメディアが、良質な情報を駆逐する可能性を辻氏は懸念する。

    「ターゲットは検索ニーズが少ないところに広がりつつあります。そうなると、1記事に掛けられるコストはさらに低下するでしょうから、低品質な記事や誤った情報も増えることは明白と考えます」

    良質な医療情報はどこ?

    インターネットで良質な医療情報を見つけるためには、どうすればいいのか。

    医学部卒のライター兼編集者・朽木誠一郎氏は、日本インターネット医療協議会(JIMA)が公開する「インターネット上の医療情報の利用の手引き」を参考にするよう薦める

    1 情報提供の主体が明確なサイトの情報を利用する

    2 営利性のない情報を利用する

    3 客観的な裏付けがある科学的な情報を利用する

    4 公共の医療機関、公的研究機関により提供される医療情報を主に利用する

    5 常に新しい情報を利用する

    6 複数の情報源を比較検討する

    7 情報の利用は自己責任が原則

    8 疑問があれば、専門家のアドバイスを求める

    9 情報利用の結果を冷静に評価する

    10 トラブルに遭った時は、専門家に相談する

    (「インターネット上の医療情報の利用の手引き」から抜粋)

    朽木氏もまた、医療系キュレーションメディアの台頭を懸念する。

    「たしかに、医療情報の『利用』は自己責任です。しかし、医療情報の『発信』もまた、健康という基本的人権に関わる行為である以上、重大な責任を伴います」

    「もしライターから投稿された記事について、ネタの割り振りや編集などを運営側がしているのなら、それはもはやプラットフォーマーではなく、情報発信の当事者です」

    あなたの健康、そして命を、どの情報に託しますか?


    【お願い】

    BuzzFeed Newsは、医療や健康をテーマとしたキュレーションメディアが引き起こす問題を引き続き取材します。WELQに執筆されている方など、関係者からの情報をお待ちしております。Twitter(@134k5)またはメール(keigo.isashi@buzzfeed.com)などでご連絡ください。