これ、何の様子かわかる?
高校のホームルームだ。
4月に開校した、角川ドワンゴ学園の通信制高校「N高等学校」では、スマートフォンやPCで使えるチームコミュニケーションツール「Slack」でホームルームが開かれる。
「トコトコトコ……ガラ!」
「起立、礼、着席!」
レポートの提出期限やイベントの予定を伝えたり、アンケートを実施したり。そこにはテキストとスタンプしかないが、まるで実際の教室でクラスメイトと隣り合っているかのように、ホームルームは進む。
N高校が他の通信制高校と異なるのは、生徒間のコミュニケーションを積極的に促していることだ。そして、同校は"ネットの高校"と謳いながらも、ネットだけで学校生活を完結させようとはしていない。
「よき仲間、よき伴走者を見つけることが、今の子どもたちに最も必要なこと」
こう話す奥平博一氏は、教育業界に30年以上も身を置く大ベテラン。この4月、N高校校長に就任した。これまで長く携わってきた、通信制高校の持つ可能性を信じて——
BuzzFeed Newsは奥平校長の思いに迫った。
ネットはコミュニケーションの「起点」に過ぎない
遠足は「ドラゴンクエストX」のオンライン世界を探索、サッカー部では「ウイニングイレブン」をプレイ。N高校が開校直前に発表したこうした取り組みは、期待の声がある一方で、「教育の現場で、それはふざけすぎじゃないか」と批判する声もあった。
しかし学校側は、ただ面白がって企画したわけではない。生徒同士が仲良くなるきっかけを作る狙いがある。奥平氏は現状を分析してこう語る。
「昔でいえば、放課後に先生が『いまからグラウンドでソフトボールするぞ!』と生徒を誘っているのと同じこと。『ゲームだからダメ』と言うのは、今の子どもたちの感覚とずれている」
だから、先生だって必死だ。
「今度遠足があるので、と職員室で先生がドラクエのレベルを上げている。そんな学校はうちしかない(笑)」
生徒間のコミュニケーションはSlackが中心だが、チャットと言えども、いきなり話しかけるのはハードルが高い。そこで、ネット上でのイベントや部活が"友だち作り"の絶好の機会となる。
N高校のSlackには、すでに230を超えるチャンネル(チャットルームのようなもの)がある。クラス用、部活用などの学校側が用意したものはわずかで、多くのチャンネルは、生徒が同じ趣味、悩みなどを持つ仲間で集まって開設したものだ。
「ネットで交流して仲良くなると、みんな、リアルでも会ってみたくなる」と、奥平氏は生徒の心理を分析する。
4月29、30日に開かれたニコニコ超会議に、N高校の生徒たちも参加した。その中には、初めて会うとは思えないほど親しげにしていた人も多かったという。
「学校の教室で何かを叫んでも聞いてくれるのは数十人程度だが、N高校のSlackで呼びかければ、全国にいる1500人以上の生徒に届く。学年の壁もない。少数派であっても、仲間が見つかりやすい」
ネットからリアル、のコミュニケーションを支援するため、N高校の生徒や保護者が実際に会って交流できる場を各地方に設けるアイデアも出ている。
「授業」でもコミュニケーション
N高校は、冒頭のホームルームだけでなく、授業でもコミュニケーションを大切にしている。
N高校の授業には、生徒が一人で学習する映像授業のほかに、プログラミングや文芸小説創作を学べたり、大学受験の対策ができたりする「課外授業」がある。
生放送の授業をみんなで一斉に受けながら、ニコニコ動画・ニコニコ生放送のようにコメントを流せるのが特徴だ。
ドワンゴ社内にあるスタジオで、専用アプリをインストールしたスマートフォンを片手に授業を受けてみた。
コメントが流れる動画授業は、さながら教室にいるようだ。
Slackのように、生徒同士がコミュニケーションをとるわけではない。しかし、クラスメイトが隣に座っているような「学校生活」がそこにあった。継続して受講するならば、同じ学校に通う生徒としての一体感、仲間意識が芽生えるかもしれない、と感じた。
奥平校長の覚悟
さまざまなカリキュラムで進学・就職の支援に力を入れるN高校。3年後には、その実績を問われることになる。さらに、デジタル時代の教育やコミュニケーションのモデルケースを示す、というもう一つの目標もある。
奥平氏には覚悟がある。
「従来の通信制高校では、仲間づくりはほとんどできていなかった。言い方は悪いが、必要性がなかった。N高校は、その仲間づくりなど『高校卒業資格取得』以外の目的を期待されている。我々はそれを実現するつもりだ」