DeNAはいつ、誰によって道を誤ったのか ゲームに代わる急成長を託されていたメディア事業

    経営陣は知っていたはずだ、との指摘もある。

    組織的に著作権ルールを逸脱し、不正確な記事を量産する体制でメディア事業を急成長させたDeNA。批判を受けてその全てを非公開とし、12月7日、東京都内で謝罪会見を開いた。

    読者や他メディアへの敬意に欠け、株主の期待を裏切るその体制は、いつから、誰の手によって築かれてきたのか。創業者の南場智子会長、守安功CEO、小林賢治経営企画本部長が出席し、記者からの質問に答えた。

    MERYでも全体の8割13万件の記事に課題見つかる

    経緯を振り返る。

    発端は不正確な医療情報への批判が出たWELQ。さらに、他サイトからの文章や画像の無断転用、不正確な記事の量産について「似たような体制」(守安CEO)だった計9つの姉妹メディアが11月29日から12月1日にかけて非公開化された。

    これらのメディアは、DeNAが成長戦略の柱に掲げていたキュレーションメディアの多方面展開(DeNAパレット構想)によるものだ。

    このうち、稼ぎ頭だった若い女性向けメディア「MERY」は「運営体制が違う」ために、当初は非公開化されなかった。

    しかし、この日の発表では衝撃的な数字が発表された。

    MERYについても社内で調査したところ、全体の約8割に当たる約13万件が医療の情報に近い「美容・健康」に関係したり、読者に誤解を与えたりする内容が含まれるなどの問題があり、最終的に全面非公開化に至ったという。

    これでパレット構想の10メディア全てが非公開化され、キュレーションメディアを成長の柱にするDeNAの戦略は大きくつまづいた。

    記事作成のプロセス

    DeNAパレット構想を急成長させたカラクリ

    非公開化を決断した理由について、守安CEOは以下のような点を挙げた。

    「業務マニュアルやライターの方々への指示などにおいて、他サイトからの文言の転用を推奨していると捉えられかねない点があった」

    BuzzFeed Newsが入手した社内マニュアルなどによると、DeNAは「誰でも投稿できるキュレーションメディア」であり、記事の正確性の責任を持たないとしながらも、実際には外部ライターと契約して書き方を指示し、他メディアからの引用とわからないように書き換える手法まで教示していた。

    クラウドソーシングサービスを使って、外部ライターと安価で契約し、大量に作成した記事をSEOに力を入れることで、Google検索結果の上位に並べる。これが、DeNAパレット急成長のカラクリだった。

    守安CEOは、このマニュアルの存在を「BuzzFeedの報道で知った」と述べた。また、南場会長もWELQの問題などについて「知ったのは、実は報道されてから」だという。

    では、いつ、誰の手によってこのカラクリは始まったのか?

    会場に姿を見せなかったメディア事業担当の執行役員

    キーパーソンはこの日、会場にいなかった。キュレーションメディアのうち、MERYを除く9媒体を統括する村田マリ執行役員だ。

    もともと、DeNAがキュレーションメディア事業に乗り出したのは2014年9月。村田氏が経営するiemoと、MERYを運営するペロリを買収したのがきっかけだった。

    BuzzFeedを含むいくつかの社が、この点について質問をした。村田氏は、このマニュアルや記事制作体制について知っていたのか。

    守安氏は「本人自体『把握していない』という答えだった」と述べた。別の質問には「誰がどこまで把握していたのか、誰の指示であったかは、現時点でわかっていない」とも話した。

    急成長が求められていたメディア事業

    守安氏はもともと、キュレーションメディアを「例えば『iemo』であれば、インテリアとかそういったものを好きな方が、記事を書いていただいている」と考えていたと話す。

    だが、それではメディア規模の拡大のためには記事が足りないことは容易に想像がつくはずだ。そもそも、女性のファッションやインテリアならともかく、専門的な医療情報について「好きな人が記事を書く」と想定するのは無理がある。

    守安CEOは、今回の事態を招いた背景について、こう説明している。

    「当社のサービスは、その成長を追い求めすぎる過程において、正しい情報の提供という点に対する配慮を欠いた運営となった」(守安CEO)

    メディア事業は、DeNAの中核だったゲーム事業の業績が下がる中で、次の成長の柱と位置付けられていた。だから、急成長が求められた。そして、それを可能にして来たのが、問題のマニュアルであり、「配慮を欠いた運営」だった。

    それらを、会長も、CEOも、事業担当の執行役員も知らなかったということがありうるのだろうか。

    山本一郎氏が投げかけた疑問

    会見の最中に、この日、会場には来ていなかった投資家でブロガーの山本一郎氏がこうツイートした。

    denaはちゃんと説明するつもりがないんかな。ペロリもiemoも最初の事業計画に安価な外部ライターを使ったメディア事業でSEOかけるとはっきり書いてて、その説明を南場智子女史が聞いてるんで知らないわけがないんだよなあ。だから、それまで関わりのあった投資家も高値買収に驚いたわけさ。

    ペロリもiemoも最初の事業計画に安価な外部ライターを使ったメディア事業でSEOかけるとはっきり書いていた

    メディア事業が始まった2014年9月の買収の段階から、南場会長ら経営陣はこれらの戦略について、ある程度は知っていたのではないか。疑問は消えない。

    疑惑の究明はこれから

    DeNAは原因究明に向け、外部専門家による第三者調査委員会を設置する。

    12月5日の発表では、事実関係の調査に加え、企業風土やコンプライアンス、組織運営体制の課題といった背景要因も調査するとしている。メンバーやスケジュールは未定だ。

    全記事を非公開化した10メディアの再開についても、現状では未定だという。

    守安氏は、会見で3つの問題点を指摘した。

    • 信頼できる情報を届けることを担保できない体制だったこと
    • 他者が作った記事などの不適切利用を助長しかねない運営体制だったこと
    • このような運営体制にならない管理体制を構築できなかったこと

    第三者委が組織運営体制の課題について調べるならば、これらの体制がいつ、どのように作り上げられたかについての調査も不可欠だ。組織的な関与はどこまで広がっていたのか。疑惑の本格的な究明は、これから始まる。