「本当に腹が立った」まとめサイトを“劇薬”をもって制す、『アサヒカメラ』編集長の怒りと悲しみ

    「写真を無断使用する“泥棒”を追い込むための損害賠償&削除要請マニュアル」に予想を超える反響。編集長の思いは?

    2016年末、DeNAが運営していた医療情報サイト「WELQ」の閉鎖騒動を発端として、キュレーションサイト(以下、まとめサイト)による著作権侵害の横行が顕在化。複数のサイトが対応に追われた。

    各社まとめサイトの動向が注視される中、写真専門誌『アサヒカメラ』は2017年2月号(1月20日発売)で、“緊急企画”として「写真を無断使用する“泥棒”を追い込むための損害賠償&削除要請マニュアル」を8ページにわたって掲載した。

    過去に盗用被害にあった写真家の事例や、弁護士が監修した写真無断使用への実践的な対処方法をまとめた内容だ。

    「本当に腹が立ったんですよ。実はずっとイライラしていて、企画のタイミングを見計らっていました。まとめサイトの問題が話題になった今であれば、皆さんの心に間違いなく刺さると考えました」

    アサヒカメラの佐々木広人編集長はBuzzFeed Newsの取材に対し、まとめサイトへの怒りを隠さない。

    「まとめサイトは、とある島がこんなに美しい、などと言ってどこからか写真を盗んできて紹介します。しかし、写真は一枚一枚にコストが掛かっているんです。特に絶景の写真であれば、その撮影に行くために、写真家がお金と時間を掛けているわけですよね」

    過去に海外旅行誌の編集をしていた佐々木編集長。写真家とともに世界を飛び回った経験から、一枚の写真を撮るための苦労は身にしみてわかっている。

    写真を盗用しているまとめサイトは、当然、写真家に使用料を支払っていない。しかも、検索結果の上位に表示されるため、写真家が自身のウェブサイトで作品を発表しても、まとめサイトの陰に埋もれがちだ。

    「これは、写真家とともに写真文化を盛り上げようとしている我々としては断じて許しがたい」

    どうせやるなら、とことん実践的に——そんな思いで作り上げたマニュアルは、佐々木編集長の予想を超える反響を呼んだ。2017年2月号は発売後5日の時点で、すでに発行部数の半分以上が売れているという。

    劇薬をもって「まとめサイト」を制す

    佐々木編集長がマニュアルでこだわったのは「実践的」であること。著作権問題は、教科書を読ませるように伝えても読者の心に響かないと考えた。

    また、実践的であることは、まとめサイトに対する「劇薬」にもなる。

    「人々の著作権意識が低いとすると、ある程度の劇薬をもって制するしかない。写真を無断使用したらこんな目に遭う、こんな請求がきて、これだけの金額を支払う羽目になる——それを形として見せるべきだと考えました」

    ネットにおける写真の無断使用について、以前から、写真家個人がブログなどで問題提起をしている。マニュアルでは、そうした写真家を取材しつつ、弁護士による法的な裏付けを踏まえた上で問題を整理した。

    佐々木編集長はすでにマニュアルの続編も検討している。読者の反応次第としながらも、一つの案をこう明かした。

    「取材をしていて感じるのは、まとめサイトにもいろいろな仕組みがあること。情報開示請求が必要だったり、サイト管理者に伝えればすぐに削除、支払いをしてもらえたり。“出口”は単純ではないので、そこを掘り下げていこうかと思っています」

    誰もがSNSやブログで情報発信をする時代。Twitterをチェックすると、このマニュアルは写真愛好家だけでなく、イラストレーターなどのクリエイターをはじめ、さまざまな人々から好評を得ている。

    取材中、佐々木編集長は笑いながら、しかし切実な声色で、こう話していた。

    「もともとアサヒカメラは、プロの美しい写真を掲載し、その撮り方のノウハウや新製品を紹介する、写真愛好家の平和の楽園のような雑誌なんですよ」

    「確かに怒ってはいますが、すべて平和を求めてやっていることです。これでみんなが立ち上がってくれれば……、著作権意識を少しでも持ってくれれば、世の中が変わる気がします」