• worklifejp badge

東芝・解雇無効裁判、社員に6000万円超の賠償支払い 過労→うつ→クビで12年争う

だが、職場復帰のめどはたたない

「与えられた仕事に、真面目に取り組む努力家」。東芝社内でそんな評価を受けていたのに、過労でうつ病になった末に「クビだ」と告げられた女性がいる。重光由美さん(50歳)だ。

重光さんは2001年に過労でうつ病になり、3年間休職。そして、2004年にクビだと告げられた。その後「解雇は無効だ」と訴え、12年にわたる裁判を続けてきた。

東京高裁(奥田正昭裁判長)は8月31日、重光さんが働けなかった期間の損害賠償や慰謝料など、計6000万円超を支払うよう、東芝に命じる判決を出した。

2009年に「労働災害だ」と裁判で認定された。2014年には最高裁で「解雇は無効」という判決が出て確定した。ただ、損害賠償の計算部分について、問題があったとして、東京高裁に差し戻されていた。

そもそも、どんな働き方をしていた?

判決文や記者会見で配布された資料などによると、重光さんは1990年、東芝に技術職の正社員として入社し、主に液晶ディスプレイの生産に携わってきた。

過労でうつ病になったのは2001年。その前年には、液晶ディスプレイの製造工場での開発プロジェクトに従事し、過労死ライン(月80時間の時間外労働)を超えて働いていた。その職場では2001年に自殺者が2人出て、1人は労災認定されたという。

重光さんはBuzzFeed Newsに「上司に体調が悪いと訴えても、それでも仕事が増えていくという大変さ。ノルマもあり、無理やり働かされている感がものすごくって、それが非常に辛かったです」と語り、当時を振り返った。

今回の判決で、得られる金額は増えた

代理人の川人博弁護士は「計算が複雑で、すぐに正確な金額が出せないが、2011年にあった東京高裁判決と比べれば、重光さんが得られる総額は数千万円増えた」と話す。

重光さんは判決後の記者会見で、「過重労働やパワハラで被災した当事者の苦痛が低く見積もられている部分があり、それが非常に残念です」。その上で、要求が認められた部分は「画期的な判決となったことを評価したい」と述べた。

重光さんか東芝のどちらかが、最高裁へ再上告する可能性はゼロではないが、今回の判決で裁判は大きな節目を迎えた。

職場復帰のめどがたたない

しかし、裁判では解決されなかった問題が残る。職場復帰だ。最高裁で「解雇無効」になったものの、東芝との「和解協議」が決裂したままだからだ。

重光さんは差し戻し審で、次のような意見を述べている。

「私は、技術者としての復帰は無理だから、できれば、メンタルヘルスに係る仕事がしたい、と希望したのですが、東芝は、勤務したことも無く土地勘も全くない研究所を指定してきました。技術者としての復帰は無理だ、と言っているにもかかわらずです」

「私にとって、トラウマの強い会社に復帰することは大変な困難を伴います。東芝ほどの大企業では、メンタル疾患を患った社員が復帰する場所として、もっと適切な場所や業務がいくらでもあるはずです。東芝には、復帰場所は、なぜその研究所なのかと度々質問をしましたが、その研究所が最適だ、の一点張りで、納得いく説明はありませんでした」

技術者として復帰できない理由は、会社に対する恐怖心が残っていることが大きいという。裁判に一区切りがついたので、今後は会社との話し合いの場を作っていきたい、と重光さんは話していた。

精神疾患の労災認定は激増

精神疾患による労災認定は、1995年には1件しかなかった。しかし2015年には472件になった。労災申請も同じ期間に13件→1515件と激増している。

重光さんは「過労やパワハラで被災した当事者は、症状もつらいですし、周囲からの偏見にも苦しみます」。「被災する人が減るように、この裁判が役立てば」と話していた。

東芝広報はBuzzFeed Newsの取材に「判決を重く受け止め、その内容を十分に確認した上で、適切に対応をしていきたいと考えております」とコメントした。