2017年度の高校教科書に「LGBT」という言葉が盛り込まれる。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーを指すこの言葉が教科書に登場するのは、これが初めてとされる。どんな風に書き込まれているのか。開隆堂出版を訪れ、実物を見せてもらった。
開隆堂の教科書は、高校の「家庭基礎」と「家庭総合」という科目で使われる。LGBTという言葉が登場するのは、人の一生や、成長、家族関係などを扱う章にあるコラムの中だ。引用して紹介する。
「多様な性」
セクシュアル・マイノリティは性的少数者と訳される。一般的に、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(略してLGBT)、性分化疾患(インターセックス)などといった人びとを指す。
「マイノリティ」といった場合、単に人数が少ないというだけでなく、差別や構造の問題によって、社会的に弱い立場にある人をいう。
日本では同性同士の婚姻は法的に認められていないが、LGBTであることを公表した上で、「結婚式」をあげる人たちも現れてきている。2015年には、東京都渋谷区で同性パートナーシップ条例が成立した。
見本誌段階のため、今後、細部の記述が変わる可能性もあるという。
開隆堂出版・家庭科編集部の荒川琢郎さんは次のように話す。
「性の多様性については以前から扱ってきましたが、今回は注目されている『LGBT』という言葉を載せることができました。ニュースで報じられ、反応も良かったのでほっとしています」
長年、家庭科の教科書を作ってきた家庭科編集部の樋口良子さんによると、教科書は検定に合格しないと発行できないため、どんな表現をするかはかなり気を遣うポイントなのだという。
「LGBTという言葉は、文科省著作の学習指導要領や学習指導要領解説には明記されていません。そこに書いていないことを盛り込みすぎると、教科書検定に合格することができません。その制約の中でどんな表現を使って、児童・生徒が理解できる教科書をつくるのかが、出版社の工夫のしどころです」
教科書検定では、教科用図書検定調査審議会が問題だと感じた点に「検定意見」がつけられる。出版社はおよそ70日以内に、執筆者と連絡を取り合いながら、その部分の記述を修正しなければならない。
だが、今回、LGBTという言葉については、検定意見が付かなかったという。荒川さんは「それぐらい社会も変わってきたのだなと、時代の大きな流れを感じました」と話していた。
性の多様性を扱う教科書は他にもある。
実教出版の「新家庭基礎21」に、LGBTという言葉は登場しない。しかし、同性愛や性分化疾患(インターセックス)などについて、詳しい解説がある。
たとえば、性同一性障害という言葉については、次のように説明されている。
性同一性障害 「男である・女である」という性自認と身体的な性の特徴が一致しないこと。「性別違和(症候群)」ともいう。
2004年施行の性同一性障害特例法により一定の条件下で戸籍の性別変更が認められるようになったが、当事者たちからは「条件を限定しすぎである」との声もある。
海外で採用されている「結婚ではない形のパートナーシップ制度」を紹介するコラムも掲載。東京・渋谷区の同性カップルを対象とした「パートナーシップ証明書」についても言及した。
教科書は「(性的マイノリティの)存在と人権にも光が当てられるようになってきている」が、「今も、差別と偏見はなくなったとはいえない」と書いている。
「性的マイノリティはすぐ側にいる」というコラムも掲載。子どもたちが自らのセクシュアリティを周囲にうち明けられずに悩んだり、不登校になったりしている現状を取り上げている。
実教出版の磯崎紀代乃さんは「まだ他社の教科書を見る機会がないのですが、おそらく性的マイノリティについて、家庭科の教科書としては、かなり詳しく書きこんだ方だと思います」と自負する。
磯崎さんは「この教科書は、ジェンダー、親子、障害者、高齢者、消費者の権利など、さまざまな人権を紹介することに力をいれています。その中には、性的マイノリティの権利も当然含まれています」と、編集方針を話す。
LGBTをはじめとする性的マイノリティの口からは、「教科書にも載っていなかった」というエピソードが、さまざまな文脈で語られることがある。だが、そういう時代は変わりつつある。2017年度の高校教科書では、地理歴史・公民・家庭の計31点に、性的マイノリティや家族の多様性についての記述がある。