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電通の新入社員自殺で波紋 企業を監督する労基署「人手不足」の現実

長時間労働をどう防ぐのか

2015年12月に自殺した電通の新入社員・高橋まつりさん(当時24歳)が、労災認定された事件をきっかけに、労働基準監督署(労基署)の動きに注目が集まっている。

高橋さんの労災認定を受け、三田労基署は10月14日、電通本社などに立ち入り調査をした。労基署は電通に対し、高橋さんが自殺する前の2015年と2014年にも、長時間労働を減らすよう是正勧告を出していた。

労働基準監督官は、労働分野の法令違反について、事業所に立ち入り調査をして指導するほか、必要なら逮捕などの強制捜査もできる国家公務員だ。

そこまでの権限があるのに、なぜ長時間労働は根絶できないのか。労基署はしっかりと役割を果たせているのか。

人手不足

労働問題に詳しい明石順平弁護士は次のように分析する。

「長時間労働について通報しても、労基署がなかなか動いてくれない、という指摘をよく耳にします。その大きな原因の一つが、人手不足でしょう」

どれぐらい足りないのか。

厚生労働省の資料によると、労基署の監督官は2500人程度。管理職などを除くと、現場に立ち入り調査をするのは、実質2000人未満とされる。

厚生労働白書によると、労基署は年間およそ17万の事業所に立ち入り調査をしている。これは400万以上ある全事業所の4%程度だ。このうち約68%の事業所で何らかのルール違反が見つかっている。

このペースのままだと、すべての事業所に立ち入るには、単純計算で25年かかることになる。明石弁護士も「この体制では、十分な検査ができません」と指摘する。

過労死ライン越えが続々見つかっている

労基署も、ただ手をこまねいているわけではない。

たとえば2015年4月〜12月にかけ、労基署は「長時間労働」の疑われる8530事業所を集中的に監督指導した。

違法な時間外労働は、4790事業所であった。月100時間〜150時間の時間外労働が2860事業所で、150時間超えが742事業所で、確認された。

時間外労働は月80時間が「過労死ライン」と呼ばれている。脳出血や心筋梗塞で亡くなった人が、過労死として労災認定されやすくなるラインだ。

重要なのは「証拠」

このように労基署が対処するケースと、しないケースの違いはどこにあるのか。明石弁護士は次のように分析する。

「ポイントをあえて一つ挙げると、長時間労働を証明する証拠があるかないかでしょう。いくら捜査をする権限があったとしても、一から証拠を集めるのは大変です。すべての事件を扱いきれない中、どうしても『証拠がある事件』が優先されることになると思います」

長時間労働の証拠とは、何だろうか?

「例えば、タイムカードの記録ですね。ただ、タイムカードがあっても、会社の指示で実態とは異なる時間に打刻をさせられているケースがあります」

「自己申告制の場合も、実際に働いたよりも少なく申告させるケースが、しばしばあります」

日経新聞によると、高橋さんは労働時間を過少申告するよう指導され、2015年10月は「69.9時間」、11月は「69.5時間」と実際より減らして申告していたという。

一方で三田労基署は、高橋さんの残業時間が昨年10月9日~11月7日で約105時間に及んでいたと判断し、労災を認めた。

どう残すのか?

「今回の電通の件も、過労死かどうかの判断は、あくまで証拠により認定できた労働時間に基づいてなされているはずです」

「こうした場合に重要なのは、『自分自身で本当の労働時間を記録すること』です。手帳にメモする、出退勤時に家族等にメールを送る、出退勤時にオフィスの時計の写真をスマホ等で撮る、スマホの残業記録アプリを利用するなど、方法は色々あります」