子育て中のレズビアン、既婚のトランスジェンダーも。同性婚求めるそれぞれの理由

    ひとそれぞれなんです。

    「同性婚」を公式に認める動きが、世界で加速している。日本でも、2015年に東京渋谷区の「同性パートナーシップ条例」ができるなど、同性カップルの権利を認めていこうという機運が高まっているが、まだ同性婚は認められていない。

    そんな中、「私たちには同性婚をする権利がある」として、日本弁護士連合会に人権救済を求めている人たちがいる。

    8月23日夜、東京霞が関の弁護士会館に申立人たちが集まった。自分たちの置かれた状況を、日弁連に伝えるためだ。

    日弁連が申立人から話を聞くのは2回目。今回は450人を超える申立人の中から、子育て中の同性カップルやトランスジェンダーら、14人が参加した。弁護士会との話が終わった後、そのうち3人が匿名・写真撮影なしの条件で報道陣の取材に応じた。

    子育て中のレズビアン・カップル

    レズビアンで、女性パートナーと一緒に子育てをしているAさん(43歳)。子供はもうすぐ5歳だ。

    パートナーとは連れ添って18年になる。子供が欲しくなり、信頼できる男性から精子提供を受けて、Aさん自身が出産した。生物学上の「父親」とは「認知はしない。養育費もなし。子供とは会わない」という約束を交わした。もし成長した子供が望んだら、その時は会わせようと考えている。

    女性2人で子育てをしていると、周囲からよく「お父さんは?」と聞かれるそうだが、子育てに支障はない。子供は「2人とも親」という説明に、納得してくれている。

    保育園は問題なかった

    保育園では「シングルマザーだけど、同居している女性がいて、そちらも保護者です」と説明した。保育園側も最初は「奇特な、いい同居人の方ですね」といった反応だった。

    だが、2人が半々で送り迎えをする様子などを見ているうちに、保育園の人たちもなんとなく感づき始めたそうだ。

    ある時、保育園の人が「パートナーさんの体調が悪そうですね」と心配してくれた。そこでAさんが「大事な家族ですから」と話すと、保育園の人も「なるほど、ご夫婦みたいなものですね」と、合点がいったような顔になった。そんな成り行きで、今は自然に受け入れてもらえているという。

    いざという時、どうなるか?

    不安を感じたのは、2年前、パートナーがうつになってしまった時。パートナーは、子供がいることを、職場に伝えられていなかった。子育てが大変なのに、仕事を調整してもらうこともできず、ストレスが溜まっていた。

    2歳児の面倒を見ながら、パートナーの闘病を支える生活に、Aさん自身も不安になった。

    幸い、パートナーはうつから回復し、職場でのカミングアウトもできた。Aさんの職場も、同性パートナーが慶弔制度を使えるように改めるなど、協力的に動いてくれているという。

    しかし、Aさんは書類上は「シングルマザー」だ。自分やパートナーに万が一のことがあったらどうなるのか。もし自分がいない時に子供が手術を受けることになったら、パートナーの同意で大丈夫なのか。小学校に入ったら、どんな扱いを受けるのか。

    「考えると、ヒヤヒヤします」とAさんは話していた。

    性別変更と同性婚

    申立人のBさん(31歳)とCさん(35歳)も、同性婚したいと考えているレズビアンカップルだ。

    シンプルに話すと、そうなる。

    だが、2人の法的な関係をきちんと説明しようとすると、一気に話が複雑になる。

    Bさんは、トランスジェンダー(MtF)だ。性別適合手術を受けて、肉体的には男性から女性になった。

    性別を変更するための「特例法の条件」はすべて満たしていた。しかし、あえて、戸籍上の性別は男性のままにした。

    なぜか。それは、同性婚が認められていないからだ。

    Bさんは2015年3月、Cさんと結婚した。戸籍上の性別が男性だから、女性であるCさんと、法律上の結婚ができたのだ。

    ところが、それが原因で戸籍上の性別が変えられなくなった。「結婚していないこと」も、特例法で性別を変える条件に含まれるからだ。

    Bさんの外見は、生まれながらの女性とほぼ区別がつかない。男性専用の施設を使うと、逆に周りが混乱するレベルだ。

    それにもかかわらず、Bさんは病院で、書類を見た職員から、男性用トイレを使うよう誘導されたこともあったという。差別的な扱いは、これ以外にもさまざま受けているそうだ。

    Bさんのようなケースは、決して珍しくない。生まれた時の性別に対する違和感と、どんな性別が恋愛対象になるかは、必ずしも連動しない。たとえ、特例法で性別変更が認められたとしても、自分の望む形で結婚できない人もいるのだ。

    Bさんは「同性婚を認めてもらって、性別変更がしたい。その方が生きやすいですから」と、サラリと話した。その態度に、悲壮感は見えない。

    だが、ぼそりと「困ったこともあったし、遠回りもいろいろしました」とつぶやいた。その一言に、複雑な心境が垣間見えた。

    トランスジェンダー

    西日本在住の会社経営者Dさん(40代)は、生まれた時の女性という性別に違和感がある。だが、従業員・取引先に対する責任もあり、肉体的・経済的・時間的な問題で、性別適合手術にふみきりにくい。長年付き合っている女性がいるが、手術をしていないと戸籍を変えられないため、結婚もできない状況だ。

    Dさんは、代理人を通じて発表したメッセージの中で、次のように述べている。

    「私は、特別なことを望んでいるわけではなく、一般の異性愛者の方々が結婚するのと同じように、私も結婚して家族やパートナーを大事にする人生を送りたい。ただ、それだけを望んでいます」

    人権救済申し立ては2015年7月になされ、現在進行中の審査には、しばらく時間がかかりそうだ。申し立てが認められた場合、日弁連が国に対して勧告などを出し、働きかけることになる。