【最高裁判決】GPS捜査「違法」が突きつけた課題 後始末は? 新ルールは?

    GPS捜査の運用実態は、この裁判が起きるまで、ほとんど明らかになっていなかった。

    これまで警察が令状なしで秘密裏に行っていた「GPS捜査」について、最高裁大法廷は3月15日、「令状なしのGPS捜査は違法」としたうえで、今後GPS捜査をするなら、新たなルールを作る必要がある、とまで踏み込んだ。警察はGPS捜査を控えるよう通知を出したが、今回の判決はそこにとどまらない大きな課題を社会に突きつけている。

    GPS捜査の違法性を訴え続けてきた亀石倫子弁護士は「私たちとしては最も望んでいた判決でした」と語った。

    「今後の技術の発達で、新しい捜査手法がどんどん出てきます。その捜査手法と人権とのバランスが問題になるケースで、必ず参照されることになるリーディングケースになると思います。新しい時代に相応しい判断。憲法・刑訴法の理念、原理原則にのっとった、適性な判断がなされたと評価しています」

    そもそも、どんな判断だったのか。最高裁判決の中身を見ていく。

    最大のポイントは、令状のないGPS捜査を「違法」とした点だ。

    たとえば、警察官が容疑者を尾行するのに、令状を取る必要はない。そうした捜査とGPS捜査はどこが違うのか?

    今回の最高裁判決は、GPS捜査を次のように評価した。

    「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法である」。

    そして、GPS捜査は、「個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」と判断した。

    つまり、プライバシー侵害のおそれがあるもので、法律に沿って行われなければいけない捜査だという判断だ。

    新しいルールが必要

    最高裁判決が新しいルールが必要とした理由は、次のようなものだ。

    • GPS捜査は、必然的に「GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて、対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握する」ことになる。
    • (裁判所の令状で)車両と罪名を特定しただけでは、被疑事実と関係のない、過剰な行動把握を抑制できない。
    • GPS捜査は、密かに行わなければ意味がないので、事前に令状を示す想定はできない。
    • 刑訴法では、令状を呈示することが原則。呈示に代わる手段が仕組みとして確保されていないと、適正手続の観点から問題が残る。
    • 「仕組み」としては、捜査期間の限定や、第三者立ち会い、事後通知などのルールが考えられるが、それは立法に委ねられている。
    • 仮に令状でOKとするなら、裁判官が令状を出すときにいろいろな条件を付けなければならないが、それでは刑訴法の趣旨に沿わない。

    だから、「(GPS捜査の)特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」。

    なお、成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)によると、海外の先進国では、GPS捜査についてのルール作りが進んでいる。日本弁護士連合会も今年1月、GPS捜査の基準について提案している。今後はこうしたルールをふまえて、国会などで議論が進みそうだ。

    もともとの事件は

    判決によると、この事件では、窃盗事件の捜査のため、2013年5月〜12月までの約6カ月半にわたって、被告人や共犯者のほか、知人も使う可能性のあった自動車など19台にGPS機器が取り付けられた。

    亀石弁護士によると、被告人は「自分のしたことについて、刑罰を受けるのは当たり前だと思っています。ただ、捜査の過程で行きすぎがあったのなら、それははっきりしてほしい」と話したそうだ。

    亀石弁護士は、ほとんど明らかになっていなかったGPS捜査の実態を解明するため、同期を中心とした6人で弁護団を結成。現場検証や調査で、GPS捜査がどのように行われているのか、どの程度のプライバシー侵害があるのかを明らかにしていった。

    そうして迎えた、最高裁大法廷。2月22日の弁論で弁護側が主張したことが、「ほぼ100%取り入れられた」と指宿教授は話す。

    被告人は今回の最高裁判決で、窃盗などの罪で懲役5年6月の有罪となることが確定した。弁護団によると「最高裁が捜査の違法性をハッキリ認めたことはよかった」と語ったそうだ。

    これまで警察は、警察自身で決めた独自ルールで、外部からのチェックを受けない形でGPS捜査を実施してきた。尾行や張り込みの「補助手段」として、「任意捜査(令状がいらない)」と解釈していたほか、GPS捜査の存在を秘密にするよう通達していたことがわかっている

    今回の判決は、そうした運用に、明確に「NO」を突きつけた。

    今後、令状を取らないGPS捜査は不可能となり、令状をとるにも相当に高いハードルが設けられた。最高裁判決には「(新しい法律ができるまでの間に)令状の発付が認められる余地があるとしても、そのためには、ごく限られた特別の事情の下での極めて慎重な判断が求められる」との補足意見が付いている。

    警察庁は最高裁判決を受けて、GPS捜査を今後控えるよう指示した

    だが、それだけで問題が解決するわけではない。

    令状なしのGPS捜査が「違法」となると、いま進行中の裁判に、大きな影響がある。

    また、現時点で取り付けられたままになっているGPS機器をどうするのか、という問題も出てくる。今回の判決をふまえると、令状なしのGPS捜査を受けていた人は「違法捜査の被害者」とも考えられる。

    今後、そうした違法捜査で付けられたGPSを放置しておいていいのか。逆に勝手に取り外してもいいのか。

    GPSを外すためには、私有地に立ち入らなくてはならないケースもあるだろう。今回の事件で使われたGPS機器の中には、バイクの部品を取り外さないと付けられないところに付けられていたケースもあった。そういったものを当事者の許可なく外すことが許されるのか。

    最高裁は「新ルール」の一案として「事後の通知」を挙げているが、すでに違法なGPS捜査を受けていたケースについても、本人に知らせなくていいのかといった問題も出てくる。

    こうした点についての議論は、これから行われることになるだろう。

    理論的にも、実務に与える影響としても、「非常にインパクトの大きい」(指宿教授)歴史に残る判決となりそうだ。