【都知事選】都議会のドン・SEALDsの顔・孤立無援 支援者から見える選挙戦

    有力候補は三者三様

    東京都知事選が7月14日、告示された。31日投開票。有力候補は与党の支援を受ける増田寛也さん、野党統一候補の鳥越俊太郎さん、知名度のある小池百合子さんの3人に絞られた。応援に集う人たちの顔ぶれから、選挙事情が見える。

    これぞ自・公の選挙

    政権与党の支援を受けて立候補した増田寛也元岩手県知事(64歳)。陣営には、自民党・公明党の議員らが多数詰めかけていた。

    菅義偉官房長官も立ち寄り、檄を飛ばす。壁には安倍晋三首相をはじめ、自公の有力議員たちの応援の書(通称「ため書き」)が多数張り出されている。

    これぞ、自民・公明の選挙戦。午前10時30分、事務所前に停めた大型街宣車の上に、区長会長や業界団体代表、そして与党議員たちが次々と登壇した。

    谷垣禎一・自民党幹事長は「今回は、オーソドックスに都民のために仕事をしてくれる人を選ぼう。そういうつもりで選考を進めました」

    井上義久・公明党幹事長も「チーム東京を作れるのは増田候補だけ」と訴えた。

    「都議会のドン」は何を語ったか

    壇上に、内田茂都議が上がった。「都議会自民党のドン」と呼ばれる人物だ。

    「みなさまいよいよ、暑い選挙が始まりました。東京都というのは、地方自治体であるわけでございます。そして、大都市自治を展開する、日本で有数の大都市東京を控えた都政を行うわけでございます」

    内田さんは、自民党の所属議員とその親族が、増田さん以外の候補を応援した場合は、除名処分の対象になるという文書をだした。自民党から立候補した小池百合子さんを応援しないよう、引き締めを図ったとされる。

    だが、この日批判した相手は「野党」だった。

    「美濃部都政のあの苦しみは二度と繰り返したくない。そう思うんでございます!」

    「美濃部都政」は、36年前のリベラル系野党統一候補。昔の思い出をもちだして、鳥越俊太郎さんを批判する狙いのようだ。

    当の増田候補は、自身の政策を述べることに力を入れた。子育て、高齢化、防災。「3つの不安の解消に努めます」と切り出した。

    「知事就任、1カ月以内に待機児童解消の地域別プログラムを作ります」「首都直下地震、いつ起こるともわからない」として、内閣府・首都直下地震対策検討ワーキンググループの委員だった経験などもアピールした。

    「知事になることが目的ではありません。知事になって何をするのか。都民に何をお返しできるのか。真剣に考えてまいりました」と述べ、支持を呼びかけた。

    選挙戦第一声の締めくくりは、これだった。

    「元気よく!増田寛也候補、必勝を目指して! ガンバロー!ガンバロー!ガンバロー!」

    直前に決まった野党統一候補

    都政絡みの質問に「知らない」「これから」を連発した12日の出馬会見から2日。野党統一候補の鳥越俊太郎さん(76歳)は選挙戦に向けて、どこまで準備ができたのか。

    元毎日新聞記者にして、テレビキャスターも長く務め、知名度は十分。野党勢力を結集するために、先に出馬表明していた宇都宮健児弁護士は立候補取りやめとなった。鳥越さんは、政策の引き継ぎを検討し、政策ブレーン就任を依頼したというが、いまのところは返事はないそうで、その姿はなかった。

    SEALDs 奥田愛基さん 「個人」で駆けつける

    新宿駅東南口。応援者で最初にマイクを握ったのは、奥田愛基さんだった。SEALDs、市民連合の看板として、参院選で野党共闘を呼びかけてきた。SEALDsの活動は参院選で終わっており、個人として駆けつけたという。

    第一声は、先の参院選で市民連合がとった戦略そのものだった。青地に「みんなに都政を取り戻す」とキャッチコピーが入ったポスター。高く掲げて、支援者が候補者を取り囲む「画」をつくり、見え方も意識する。

    奥田さんは声を張り上げる。

    「東京は冷たいところもあるけど、多様性の街でもある。俺は多様性をもう一回、信じたい。みんなのための都政をやりましょうよ。もう一回、東京をみんなのために取り戻しましょう。みんなのための東京にしましょうよ」

    言葉を切るたびに、拍手が起きた。

    政策は語れるのか?

    肝心の候補者はどうか。自分の名前を連呼し、演説を切り出した。

    「このたび立候補した鳥越俊太郎です、鳥越俊太郎です」

    「舛添さんは、辛い思いをしながらおさめた税金をつかって、海外出張の時、ファーストクラスに乗って、スイートルームに何日も泊まっていた。こんなの許せますか?」

    「許せない!」と聴衆が返す。

    「おさめた税金が正しく使われているかが、今回の選挙の大前提だ。政党から打診を受けたわけではない。自分で出馬を決めた。都政を一部の人のものではなく、都民みんなに都政を取り戻す」。声を張り上げる。

    「私の長所は聞く耳を持っているということです。舛添さんは持ってなかった、猪瀬(直樹)さんも持ってなかった。石原(慎太郎)さんはもっと持ってなかった。私が当選したら、聞く耳を持った知事が生まれると思ってください」

    歴代都知事を引き合いにだし、笑いをとって締めくくった。

    演説後の取材で、都知事になって一番やりたいことを問われるとこう答えた。

    「東京都のがん検診率を高める。ぼくはガンをやっているからね。ガン検診はなんとしてもやりたい」

    具体的な政策にはほぼ触れず、市民との距離の近さのアピールに終始した。

    自民党都連からのプレッシャーに負けず

    池袋駅西口で開かれた小池百合子さん(64歳)の出陣式。自民党の推薦を得ずに独自に立候補しただけに、応援に来る議員や政界関係者は少なかった。

    豊島区を中心とする東京10区選出。増田氏以外を応援してはいけないという都連からのプレッシャーにも負けず、地元からは高野之夫・豊島区長や、一部の自民党区議が集まった。

    寄り添うように小池さんの横に立ち、マイクを持った高野区長は言った。

    「小池さんは退路を絶って、この激しい嵐のような道を今、歩もうとしている」

    国会議員としてはただ一人、自民党衆議院議員の若狭勝さんも駆けつけた。

    「女性候補は小池さんしかいないんです。政府は女性が輝く社会をつくると言っているのに、おかしい。能力、資質があるのは小池さんしかいない」

    聴衆は他の2陣営よりも少なく、拍手はまばらだった。

    「たった一人じゃない」

    小池さんは、イメージカラーにあわせた緑のハチマキをまいている。首に巻いたスカーフも緑で統一していた。周囲への感謝から演説を始めた。

    「組織、しがらみを超えて、一人の人間として都知事選に邁進していく。東京を大改革したい。私を応援すると一族郎党を罰するという。そのなかで、私の応援に駆けつけてくださった、その覚悟と信念には心から感謝を申し上げます」

    「組織のバックがないという課題はある。厳しい選挙だ。大きな東京にたった一人で立ち向かう」

    「一人じゃない!」と、聴衆から声がかかる。

    「私はたった一人じゃございません!」

    声援を受けて、語気を強めた。

    緩めない都連への批判

    自民党都連を意識して「たった一握りの人が、いつどこで何を決めているかわからない都政をやめる」と宣言。

    実現できないと指摘されていた「都議会の冒頭解散」「任期を3年半にする」という当初の公約には、この日、一切触れなかった。事実上撤回したようにも見えるが、自民党都連批判は緩めない。

    「たった一人で始める第一バイオリンから、皆様が楽器を持ち寄る大きなオーケストラにしましょう。皆様方のお支えが頼りでございます。どうぞ、どうぞ、よろしく申し上げます」

    幼少期にバイオリンを弾いていたという小池氏は、演説をこう締めくくった。

    聴衆からは「百合子!百合子!」というコールが上がった。