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1000種類以上の怖い話を集めた「事典」が異例のヒット。怪異の魅力を聞いた

存在そのものが「幻」と呼ばれた同人誌の人気に迫る。

説明のつかない異様な出来事や存在を集めた事典が、人気を呼んでいる。

[1F・8F]怪異好きには必須の一冊!朝里樹先生の『日本現代怪異事典』(笠間書院) 1F・8Fにて好評発売中です!

2018年1月に笠間書院より発売された「日本現代怪異事典」だ。

現在、2万部を突破し、書店やAmazonでも品切れの状態が続いている。

「事典」には、「トイレの花子さん」「八尺様」など、1092種類もの「怪異」を収録。

Yuya Yoshida / BuzzFeed

そのページ数は500以上もあり、誕生の背景や歴史まで事細かに記されている。

Twitter上では「面白い」という声のほか、「創作の幅がヤバイくらいに広がる」「(この情報量で)2000円代ってありえんぞ」など、シナリオ作りをはじめとするゲームクリエイターの間でも話題になっている。

著者は、北海道に住む公務員の朝里樹さん(28)。

Alextype / Getty Images

5年ほど前に、幼少期から好きだった妖怪や都市伝説を本格的に研究し始めた。

人から直接聞いたものやインターネット上に残る資料、100冊以上の文献を読んでいるうちに、「口裂け女」などの有名なもの以外にも、資料化されていない多くの怪異が存在することに気が付いた。

「資料がないなら自分で作ってしまおう」と3年ほど前に決意し、自ら「事典」として執筆することにした。

存在そのものが「幻」と呼ばれた同人誌

ついに…ついに…この日が来た…。 手に取ろうとすると瞬く間に消えてしまうという幻の奇書、私家版『日本現代怪異辞典』…。 なんという僥倖であろう、ついにその書を手にする時が来たのだ…!

もともとこの「事典」は2017年1月、同人通販サービスで自費出版されたものだった。

販売されるやいなや、あっという間に完売するなど、その人気ぶりは凄まじかった。

数回にわたり再販されたがそのたびにすぐ売り切れるほど、多くの人が怪異を求めたのだ。

その入手困難さから、「幻の同人誌」と評する声もあがった。

そして、2018年1月には商業出版にこぎつけた。

同人版から内容を大幅に増やし、出没場所や使用凶器別などの索引を追加するなど工夫も凝らした。

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「不幸の手紙」に代表されるチェーンメールなど、いつの世にも怪異は人を魅了する。

Yuya Yoshida / BuzzFeed

▲2000年代にガラケーを中心に出回った

存在しない、実際に起こるわけないと思いつつも、なぜか気になってしまうーー。どうして人は、自ら怪異を求め、惹かれてしまうのだろうか。

朝里さんは、BuzzFeed Japanの取材にこう話す。

「いるかいないか分からない存在を求める理由の1つは、心の余裕から出てくるのだと思います」

笠間書院提供

「たとえばホラー映画や心霊スポットなどは、怖いとわかりつつも『娯楽』として楽しまれている側面がありますよね。怖いのに楽しむって、心に余裕がないとできないと思うんです」

たしかに日本には、ホラーゲームやお化け屋敷など、「恐怖」をテーマにした娯楽が溢れている。

朝里さんは、もう1つの要因として、インターネットの普及もあると続ける。

匿名掲示板「2ちゃんねる」やSNSが流行したことで、昔とくらべ、怪異を身近な存在として感じられようになったというのだ。

「インターネットが普及してから、誰しもが怪異の細かい背景や対処法など、物語のような長文で説明できるようになりました」

Fotocelia / Getty Images

朝里さんは、その代表的な例として『八尺様』を挙げる。

「これは、インターネット文化から生まれた代表的な怪異です。田舎で起きた誰にでも起こりうるような話で、コピー&ペーストを繰り返されながら広く知られるようになりました」

「事典」によれば、八尺様とは身長が八尺(240センチ強)もある女性の姿をした怪異だ。

Yuya Yoshida / BuzzFeed

狙われた人間は「八尺様に魅入られた」とされ、殺されてしまう。

2008年に2ちゃんねるのオカルト板に書き込まれたのが初出で、とある少年が父親の実家へ行った時の出来事として描かれている。

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親父の実家は、自宅から車で二時間弱くらいのところにある。
農家なんだけど、何かそういった雰囲気が好きで、
高校になってバイクに乗るようになると、夏休みとか冬休みなんかには、よく一人で遊びに行ってた。

じいちゃんとばあちゃんも、「よく来てくれた」と喜んで迎えてくれたしね。
でも最後に行ったのが、高校三年にあがる直前だから、もう十年以上も行っていないことになる。
決して「行かなかった」んじゃなくて、「行けなかった」んだけど、その訳はこんなことだ。

春休みに入ったばかりのこと、いい天気に誘われて、じいちゃんの家にバイクで行った。
まだ寒かったけど、広縁はぽかぽかと気持ちよく、そこでしばらく寛いでいた。
そうしたら、
「ぽぽ、ぽぽっぽ、ぽ、ぽっ…」
と、変な音が聞こえてきた(2ちゃんねるオカルト板の「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?196」スレッドより一部抜粋)

口頭とは異なり、インターネットではそれぞれが自分のペースでじっくりと「怪異」を読み、物語を想像することができる。

Superwaka / Getty Images

さらに、コピー&ペーストをすることで、背景なども含めた怪異の情報を正確に広めることも可能になった。

「ネットのおかげで『怪異』の信ぴょう性が高くなり、記憶に残りやすくなりました。『八尺様に自分が呪われるかもしれない』『襲われるかもしれない』と、恐怖がより身近になったんです」

「その一方で、心に余裕のある人は、どこかで『本当はいないんじゃないか?』と楽しんでいたりもして、余裕ができることで、恐怖が娯楽として消費されやすくなっていった」

「恐怖と娯楽。怪異は、人間の根元にある娯楽を求める感情に訴えかけてくる。だから人は、『見えないモノ』に惹かれてしまうのではないでしょうか」

どういうことだろうか。

「たとえば、有名な怪異である『トイレの花子さん』は、こちらから呼びかけることで現れるとされていますよね。でも、歴史をたどるとそれは違うんです」

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「事典」によると、「花子さん」は1940年代に岩手で生まれた。

もともとはトイレに入ると「花子さんに呼びかけられる」という、いまとは真逆の存在だったのだ。

一九四八年に岩手県我賀群黒沢尻町(現北上市)で体育館の便所の奥から三番目に入ると「三番目の花子さん」と呼びかけられ、下から白い手が出てきたという話があったという(日本現代怪異辞典,P225より)

「やがて、花子さんはメディアによって変化していきます」

myシアターD.D. / Via amzn.to

「花子さんは『子供たちの味方』、『やみ子』さんという元々は別の怪異だった存在が、花子さんのライバルとして描かれるようになったんです」

「そして、テレビを見た子供たちが『学校には正義の味方の花子さんがいる』と話し、最初の花子さんから変化した花子さんが、学校で広まっていきました」

この変化こそが、朝里さんのいう「怪異」の魅力だ。

花子さんは70年にわたって変わり続けながらも、人々の間に「学校の怪談」としてしっかり根付いた。それはもはや「伝統」であるとも言える。