人気アイドル、avexを動かした「仕事の顔」

    アーティストに求められる、今の働き方とは? SKY-HIが語る。

    レコード会社「avex」と契約するラッパー・SKY-HIさん。

    人気パフォーマンスグループ「AAA」の日高光啓としての仕事もこなす傍ら、自身もチームマネジメントに関わり、日々、働き方について考えています。

    そんなSKY-HIさんに、仕事論について聞いてきました。

    メジャーデビューすることに意味があった時代

    ーーSKY-HIさんはavexでAAAの活動をしながら、非公認でSKY-HIとしても1人で活動していました。2013年にavexからデビューする前はどのように見られていたんですか?

    SKY-HI:どうもなにも、avexはなにも知らなかったと思います。

    大学への進学が決まったタイミングで一人暮らしを始めて、AAAが始まっても変わらず曲作って、クラブに通ってラップしているだけでした。

    俺は「(SKY-HIとして)売れるなー」と思ってやってたけれど、趣味程度に思われていたんじゃないかな。

    ーー当時から、SKY-HIとしての活動をavexに認めさせる気持ちだったんですか?

    SKY-HI:全然なかった。ただ、7〜8年前(SKY-HIとして活動を始めた時期)はまだ、メジャーレーベルからCDを出すことの意味合いが大きく感じられる時代だったんだよね

    ーー今とは状況が違いますね。

    SKY-HI:ラジオヒットとかもあった時代だし、何よりヒップホップアーティストのメジャーリリースが本当になかった。

    あと、当時はラッパーの価値観も変わってきていて、「売れる」ことが一番カッコいいとされていた。

    そういう時代だったのに、メジャーリリースしているラッパーが本当にいなかったし、ツアーを回れるラッパーもいなかったもん。

    クレさん(KREVA)とリップ(RIP SLYME)くらいじゃないかな。

    ーー深夜のクラブでのライブが主流で、昼間にライブが観れる機会も、今に比べると少なかったですよね。

    SKY-HI:うん。その中で一番面白いと思った挑戦が、メジャーと呼ばれるフィールドでラップをやることだと思ったんですよね。

    真っ先にメジャーでやりたいって思った。

    ーーメジャーデビューにこだわっていたわけじゃないんですね。

    SKY-HI:その時代の中でなにが一番、センセーショナルに映るか。

    簡単な言葉で言うと、なにが一番、自分の可能性を大きくできるかってことだと思います。

    ーーラッパーがメジャーデビューすることが珍しかったからこそ、SKY-HIとして売れることにつながるだろうと。

    SKY-HI:その読みはありましたね。

    ただ、その時はすでにavexと10年近い付き合いがあって、SKY-HIを別のレーベルでやれるほど薄情なことはできなかった。

    だったらavexの人に「何かリリースしろ」って言ってもらえる状況にするしかないなって。

    企画書は曲を作るのと同じ

    ーーどうやってavexからラッパーとしてデビューできるようにしたんですか?

    SKY-HI
    :単純に他のレーベルから問い合わせがくるようにするしかないですよね。

    「avexでやらないなら、うちでやろうよ」って言われる状況を作らないといけない。

    だからインディーズで1枚リリースして、目に見える結果を出すことが必要だなって。

    ーー2012年に始まった「FLOATIN'LAB」というプロジェクトですね。アルバムをリリースするまでのプロモーションも含めて、話題になりました。

    SKY-HI:いきなりインディーズで出しても売れるはずないから、話題になりそうな企画を作って、いろんな会社に持ち込みました。

    SKY-HI:当時、ラッパーがしゃべっている姿を見る機会って本当になかった。でもラッパーって面白い人が多いし、フットワークも軽いから簡単に見せられる。

    だからアルバムをリリースする前に、ラッパーたちの制作過程を映像にして発表していったら、センセーショナルに映るであろうと踏みました。

    ーー企画を持ち込むって、なにをどうやって持ち込んだんですか?

    SKY-HI:Wordですよ。

    ーーSKY-HIさん、Word使うんですね!

    SKY-HI:うん、Wordでまとめた。

    ーー「こういうCDを出したいです」みたいな感じですか?

    SKY-HI:そうですね。企画書は曲を作るのと一緒でした。

    「今から何を伝えようとしているか」を頭でドンって言って、次に何が面白いかを言って、最後に具体的にどんなことをするか説明するっていう。

    フックがあって、バースがあるみたいな。

    企画書は曲だね。しかもサビスタートの。

    ーー最初に分かりやすく入ってくるのがいいですね。

    SKY-HI:イントロ短めですぐサビにいった方がいいよね。

    ピート・ロック(アメリカのビートメイカー)も言ってましたよ。

    「キャッチーというのは、フックにいくまでの秒数をいかに短くするかということだ」って。

    話は聞いてくれるけど、会社は動いてくれない

    ーー2012年に、インディーズで「FLOATIN'LAB」のアルバムがリリースされました。

    SKY-HI:avexにも企画を持っていったんですけど、みんな話は聞いてくれるし、良いリアクションはくれるけど、誰も動いてくれなかった。

    ーーえぇ……。

    SKY-HI:そんな時に当時、AAAのA&R担当だった人が「これさ、avexに持っていってもダメだよ。みんな、やってくんないから。リスク負いたいやつなんて、ここにいないんだから」って話してくれたのは助かりましたね。

    会社員の人にこんな話をしてもしょうがねーんだなって。何か新しいことをやろうって人は、そもそも会社に勤めてないってことに気づけた。

    ーーとはいえ、「FLOATIN'LAB」はインディーズながら、デイリーチャートで17位にランクイン。2013年に、晴れてSKY-HIとしてavexからデビューしました。メジャーになってみて、どうでしたか?

    SKY-HI:割と早い段階でメジャーデビューってそんなに面白くないなって気づいたかも。

    今は周知だと思うけど、すでにその時点でメジャーレーベルって死んでるなって感じたかな。

    100万枚売れていた時代と同じ売り方をずっとやり続けていて、不思議だなって思いました。

    ーー面白いと思ってメジャーデビューしたのに、面白くなかったと……。それで、どうしたんですか?

    SKY-HI:2択で、インディーズに戻るのが1つ。もう1つはavexに籍を置きながら、事実上はインディーズのような形でやれるようにすること。

    またインディーズに戻ってゼロから作り上げるのは効率が悪そうに感じたので、後者を選んだ。

    スタッフと対話して分かったこと

    ーーインディーズのような形とは?

    SKY-HI:avexと契約関係を続けたまま、チームの内側を変えることに注力することですね。

    ーー具体的になにを変えたんですか?

    SKY-HI:決定権を自分のチームの中に集約させて、チームがちゃんと行動力を持てるようにしました。

    ーーSKY-HIさんに決定権はなかったんですね。

    SKY-HI:俺にないっていうか、メジャーになるとスタッフの数が増えるし、そのスタッフたちがどういうマインドで仕事してくれるかで、だいぶ結果が変わってくるじゃないですか。

    その仕事が、スタッフにとって自分の意に反することだとしたらそれは意味ないし。

    だったら、スタッフのマインドが変わるように頑張るか、もしくは最初から別の人にお願いするしかないですよね。

    ーーどうやってマインドが変わるように頑張ったんですか?

    SKY-HI:単純に「俺はこうしたいから、これをしてほしい」って伝えて、対話するだけですね。

    ーー企業のマネージャーと呼ばれる役職の人がやる仕事に似ていますね。

    SKY-HI:そうなんですかね。

    インディーズで活動している時はスタッフ3人だったから、「絶対に○枚売るぞ」とか、みんな当たり前に目標を共有できてた。

    ーーメジャーはどうでしたか?

    SKY-HI:対話する中で気づいたんだけど、メジャーと呼ばれる社員1000人規模の会社になってくると、別にアーティストを大ヒットさせるって夢を持つ人ばかりじゃないんですよね。

    普通に起きて、ランチして夜は帰るみたいに、いかにストレスを少なく仕事するかってことを目標にしている人もいる。

    ーーモチベーションは人によって違いますよね。

    SKY-HI:むしろ「ヒットさせる」って気持ちを持ってる人の方が少ないし、それが当たり前だと感じたので、嘆くのもちがうなって。

    チームのスタッフが全員、同じ目標に向いているとは限らないんですよね。

    士気が高い低いとは別問題で、そもそも目標がどこにあるかは人それぞれだし。

    それにワーキングファーストな時代でもないし、強要もしたくない。今でもレコード会社はそういう体質だけど、全然気持ちよくない。

    ーースタッフが増えた結果、同じ目標を持てない人も出てきたと。

    SKY-HI:どこのメジャーレーベルもそうだと思いますけどね。よくアーティストから言われるんですよ。

    「会社がなにもしてくれない」って。

    やりたいことができるチームとは?

    ーー普通の会社員の間でもよく聞きます。

    SKY-HI:そりゃ、なにもしてくれないよなって。「なにもしてくれない」って言ってるやつのために行動したところで、なんの見返りもないから。

    ーーだから嘆くんじゃなくて、自分でチームを変えていったんですね。

    SKY-HI:よりインディーズに近い形で、極力、少人数のチームになるようにしましたね。その方が、今の時代に向いてると思う。

    ーーチームのメンバーはSKY-HIさんが集めてきたんですか?

    SKY-HI:いや、両方あります。俺がお願いして来てもらった人もいるし、やっぱり巡り合わせもあるし。

    基本的に俺と2人のスタッフで物事は決めるかな。

    ーー少人数体制になって、何か変わりました?

    SKY-HI:結構、いい感じですね。自由度の高い状態でやれるようになってから、avex問わず、社内外から人が寄ってくるようになりましたね。

    ポジティブです。うらやましがられることの方が多いんですよ。

    俺、avexにいるけどインディーズだと思ってますからね。

    どこの会社とどういう形で契約しても、インディペンデントでありたいと思うし、その流れは加速していくんじゃないかな。

    ーー今年の8月に、普通に新譜として発売してもおかしくないクオリティのミニアルバム「FREE TOKYO」を無料で配信してましたよね。

    SKY-HI:そうそう。やりたいことが具体的にやれるようになってきた。

    なにかやりたいことがあったら、決裁を通してくれるし、「どうやってアルバムを無料で出したの?」って人が集まってきたりとか。

    SKY-HI / 「FREE TOKYO」 -Teaser Movie-

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    youtube.com / ▲今年8月7日から8月20日にかけて、SoundCloudやYouTubeで6曲入りのミニアルバム『FREE TOKYO』を無料配信。20日以降は、サブスクリプションや配信サービスでも配信した

    ーーこの「FREE TOKYO」もSKY-HIさんが企画書を作ったんですか?

    SKY-HI:「FREE TOKYO」はコアスタッフが企画書を書いてくれました。

    このアルバムを作るのにこれだけのお金はかかるけど、これだけ話題になるし、あとで配信することで賄えるけど、儲けはゼロだと。

    だからCDの制作費としてじゃなくて、お金のかからないプロモーション費として作らせてくれって。

    ーー完全にチームですね。

    SKY-HI:もちろん俺らだけじゃ回らないから、ライブチームも宣伝チームもお店の販促担当もいます。

    コアスタッフが大きな窓口でいて、手の回らない部分は各チームに任せている構造になってます。

    SKY-HIが行動する上で大切にしていること

    ーーSKY-HIさんが行動するときに考えていることはなんですか?

    SKY-HI:結構、見切り発車でやることが多いですよ。完璧になってからやろうとすると、絶対にうまくいかないから。

    ーーよく考えてから、行動に移していると思ってました。

    SKY-HI:完璧とか絶対にないじゃないですか。粗なんて無くそうと思っても永遠にあるものだし。

    完璧とか考える前に走り出して、後から修正していく。その繰り返しですよね。

    そんなに特別なことはしてないんですよ。

    たまに仕事とか働き方にフィーチャーしていただくけど、特別なことは何一つ、していないような気がしますね。

    ニューアルバム「JAPRISON」