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ゾクッとする。たった2枚の画像から流行した実話のような怖い話

社会問題にも発展した怪人の正体とはーー。

「八尺様」「くねくね」「きさらぎ駅」……。日本にはインターネットから生まれた有名な怪談がいくつか存在する。

では、海外にもインターネットから派生した怪談のようなものは存在するのか?

800種類以上の海外の幽霊や怪談などを研究した「世界現代怪異事典」(笠間書院)の著者で、怪異専門家の朝里樹さんに聞いた。

海外のネット怪談「クリーピーパスタ」

ーー海外のネットから生まれた有名な怪談はありますか。

よく語られるのは「スレンダーマン」ですね。「クリーピーパスタ」と呼ばれる、海外のネット怪談を代表する存在です。

怪談「スレンダーマン」

インターネット上で語られる怪異。その名の通り痩せた長身の人間のような姿をした怪人だが、その顔には目、鼻、口といったパーツが一切なく、背が異常に高い。黒い背広を着た姿で現れることが多く、人間を追跡する。

追跡された人間は恐怖や妄想に囚われ、精神的な被害が及ぶ。時には直接人間を襲うこともあり、初期の噂では人間を木に串刺しにして内臓を奪うなどと語られ、近年では対象者を何か月にもわたって追跡し、精神的に被害を与える中で、対象者が隙を見せて一人になったりすると、誘拐したり、直接殺害するなどと語られる。

また犠牲者の多くは子どもで、大人は肉眼ではスレンダーマンの姿を見ることができないが、カメラを通すとその姿が写真や映像に残ることがある。

十六世紀から十七世紀初頭にはドイツでスレンダーマンと思しき怪人が目撃されたと考えられており、一九〇〇年代初頭には写真でその姿が記録された。

そして二〇〇〇年代に入り、インターネットを通してその存在が広く認知されたという。

並木伸一郎著『ムー的都市伝説』、WEBサイト「THE SLENDERMAN WIKI」による。

以上が現在語られているスレンダーマンの概要となるが、この怪人は個人によって創作された存在であることが明確になっている

「世界現代怪異事典」295ページより一部抜粋(朝里樹,笠間書院,2020)

ーー名前だけは聞いたことがあります。

映画になっていたりもするので、日本の人でも知っている方は多いと思います。

元々はアメリカの掲示板に投稿された2枚の写真が始まりでした。Photoshopで加工された写真で、どちらも子供たちの後ろに不気味なスレンダーマンが写り込んでいる写真なんですけれど、それが短い文章と一緒に投稿されて。

写真に写っている子供たちはみんな行方不明になって、撮影者は死亡したと。写真は火事になった図書館の跡地から発見されたという内容でした。

ーー掲示板の投稿に細かい情報も含まれていますね。

そうですね。写真のクオリティも高かったので、それから作者の手を離れていろんな人にいろんな属性や情報が付け足されて広がっていきました。

ーーどんな情報が付け足されたんですか。

最初は背中から気持ち悪い触手が生えているとかその程度だったんですけれど、16世紀にはすでにドイツで目撃されていたという情報を、わざわざ木版画を作って再現したりですね。

他には20世紀初頭には記事になっていたという新聞記事まで作られました。

アメリカの人は行動力がすごいんです。過去に遡って、「昔からいた怪人」として歴史を作ってしまうんですよね。

ーー昔からいると言われると信じちゃいそうですね……。

そうですね……。あとは歴史が作られていくのと同時に、いろんな特殊能力も付加されていったんですよね。突然、テレポーテーションして目の前に近づいてくるとか。

アメリカのホラー映画でよく見られるような能力もどんどん獲得していって、かなり具体的な特徴をもった怪人として広く語られるようになりました。

スレンダーマンはネットならではの進化を遂げた代表的な怪異ですね。

イギリス版の「きさらぎ駅」…?

ーー最近、「きさらぎ駅」(怪奇体験談の舞台としてインターネットを中心に話題になった架空の駅)がテレビ番組に取り上げられてTwitterのトレンドに入ったりするほど話題になったのですが、海外には「きさらぎ駅」のような怪談はありますか。

「きさらぎ駅」のように掲示板で実況されながら語られる怪談はあんまりないんですけれど、イギリスには幽霊の出ると言われている駅が大量に存在するんですよね。

怪談「レミントンスパー駅」

イギリスで語られる怪異。同国に実在する駅で、幽霊がよく目撃されることで有名。幽霊が現れるのはプラットフォームからオフィスまで様々だが、特に現在使用されていない三番プラットフォームの地下室や、オフィスビルの最上階が幽霊たちのお気に入りだという。

彼らは電気を消したり点けたり、書類を机から勝手に出したりするといったいたずらをする。

現在はゴースト・バスターズとして雇われたニック・リースという人間が見回りを担当しているが、彼のおかげもあり、今もこの駅では幽霊と人間が共存しているようだ。

「世界現代怪異事典」261ページより(朝里樹,笠間書院,2020)

ーースレンダーマンの後に聞くと癒されます。

今のところバスターせずに幽霊と共存しているところがいいですよね。イギリスはとにかく、どこ行っても幽霊だらけの話が多いんです(笑)。

ーー「世界現代怪異事典」ではアメリカやイギリス、他にもいろんな国の怪異が紹介されています。国によって違いはありますか。

アメリカは殺人鬼が物理的に殴ってくるグロテスクな話が多かったり、タイだといまだに妖怪のような存在が割と信じられていて、妖怪を避けるための方法とかが広がっていたりするんですね。

それぞれの国の歴史や文化が怪異にも反映されている気がします。

世界には日本だけを見ていると思いつかないような怪異がたくさんあって、すごくおもしろいですね。

世界現代怪異事典〉20世紀以降に世界各地で語られた、現時点では常識から外れていたり、明確にその実在が証明されていない存在や現象を集めた事典。怪異や都市伝説などを800種類以上掲載。アジア、オセアニア、北アメリカ、南アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、その他の地域ごとに50音順で紹介している。