「僕が失敗すると、苦しむ人たちがいる」はじめしゃちょー、初めて明かす“社長の葛藤”

    はじめしゃちょーの葛藤、その先に見つけた答えとは。

    「次の一言が出るのに3分かかったりするんですよ。どう言ったら一番いいのか…」

    はじめしゃちょーさん、27歳。動画投稿から来年で9年目。YouTubeを語る上で欠かせない、誰もが認める存在だ。

    そんな彼は今、名前の通り、社員を抱える“会社の社長”と“動画クリエイター”の両立に葛藤していたーー。

    雇用する責任

    心地いいテンポと軽妙な語り口、実験的な試みを続けながら多種多様な動画を制作するはじめしゃちょーさん。

    2012年9月にYouTubeチャンネルを開設し、2年後には登録者数100万人を突破。静岡に住む普通の大学生はあっという間にスターとなり、多忙を極めるようになった。

    自身が代表取締役を務める会社は、ちょうどこの頃に設立したという。

    「会社を作った理由って、動画を作ることに集中したかったのが一番大きくて。大学4年くらいの時から東京でのお仕事が増えてきて、どうしても動画だけに時間を割くことが難しくなりました。なので、編集のスタッフさんを雇ったり、『はじめしゃちょーの畑』を始めたり。気づいたら身の回りで一緒に働く人が増えていました」

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    ▲20代の若者らによるグループチャンネル「はじめしゃちょーの畑」 / Via youtube.com

    会社設立の目的は、自身の動画制作や活動のサポート。だが、複数人の若者を集めて結成したグループチャンネル「はじめしゃちょーの畑」を開設してから、会社としての意識がより強くなっていったと話す。

    「社員のほとんどは畑のメンバーなんです。畑を作ってからは、『会社の経営者なんだ…』ってことがよく脳裏をよぎるようになりました。やっぱり人を雇った以上は責任がありますし、会社として利益を求めなきゃいけない。みんなの話を聞いたり、どうすればもっと伸びるのか考えたり」

    主な仕事は自身の動画制作はもちろん、この「はじめしゃちょーの畑」の育成だ。

    自分が出演しなくても回るようにすることが目標の1つで、すでに「出なくても成立する」レベルまで成長した。一方で、まだまだ伸び代があるとも期待を込める。

    「作った当初は、自分で言うのもなんですけど『はじめしゃちょーブランド』がついてるんで、すぐに200万人までいきました。でも作ってから2年経った今、僕抜きで頑張っていくフェーズに入ってきていると感じます。

    いろいろ言ってるんですけどね。修正できることもたくさんある。楽しいけど、楽しいだけじゃダメな世界。僕と同じスピードで頑張っても、僕には絶対追いつけないんで」

    週3本の動画投稿に多い時は月10本の広告動画の撮影。さらにはテレビやイベントにも出演し、「畑」の仕事もこなす。

    動画の毎日投稿をやめたものの、完全な休日はないという。空いた時間は「畑」のことや企画を考え、社員の給料やボーナスのことなど、「会社の社長」としてやるべきこともやる。

    なぜ休まないのか。

    「ほんと自分の動画を作りたいってことが一番なんです。でも、人数が増えてくると畑のことだったり、いろいろ考えちゃいますね……。

    自分の活動がそのまま会社の利益になるから、動かずにはいられない。休むのが怖いですね」

    クリエイティブでいたいのに

    YouTubeチャンネル「はじめしゃちょー(hajime)」の現在の登録者数は905万人。Twitterアカウントのフォロワー数は450万人を超え、インフルエンサーとしての影響力は年々強くなっている。

    そこに加わる、社員を抱える社長としての責任感。何かを発信する際は、恐さを感じるという。

    「自分の発信は、内容によってはすごく影響力があっていろんな人に届けられる。でも、一歩間違えると取り返しのつかないことにもなる。結局、パワーの強い発言って絶対に賛否両論を生むんですよ。その否の部分で誰かが傷ついたりだとか、意図せず特定の人を悪く言っているように伝わってしまったりとか。発信した先のことを考えると、怖くなる。すっごい緊張しますね」

    ちょっとした動画を撮る時でも、言葉に詰まってしまうことがある。

    「次の一言が出るのに3分かかったりするんですよ。どう言ったら一番いいのか、ここは逆に触れないほうがいいんじゃないかとか。

    インフルエンサーとして気をつけるのは当たり前なんですけど、僕が失敗すると、苦しむ人たちがいるなぁとか。いろんなことを考えちゃいますね。

    会社の経営者とクリエイターって、両立が難しい。クリエイティブでいたいのに、保守的になってしまう部分がある。そういう葛藤はいつもありますね」

    1千万の決意

    社員という守るべき存在ができ、多くのことを考える。昔のように、自分のやりたいことを優先するわけにはいかない。

    だが、それでも「動画を作りたい」という根本的な思いはなくならなかった。むしろ、来年はさらなる高みを目指すと強く意気込む。

    「目標は、チャンネル登録者数1千万人ですかね」

    理由を聞くと、しばしの沈黙が続き、ゆっくりと口を開く。

    「…………かっこいい……(笑)。いやぁ1千万人ってかっこよくないですか。1千万の次の数字って1億とか2千万になると思うんですけど、そこはさすがに生きているうちは無理。1千万が僕の人生のいい区切りになるかなって。本当はQRコードを付けたティッシュ配りとかしたいんですよ(笑)。それくらい初心に帰って、純粋に1千万を目指したいなって」

    いつも動画で見せる無邪気な笑みをこぼす。その姿は、動画作りを楽しむ若者そのものだ。1千万を目指すためにどうするのか、さらに追求すると、今までの葛藤がふっきれたようにこう続ける。

    「難しいところなんですけど、自分の気持ちに正直に動画を作っていこうと思います。責任や影響力のことは、もちろん今でもずっと考えています。でも、ちょっと気にしすぎてたなって。

    有名になると、ほんとあの歌じゃないですけど言いたいことも言えなくなってくる。やっぱり丸い発言ばかりだとつまんないんですよね。

    たとえばイライラしたこととか、ネガティブな動画は比較的避けるようにしてたんですけど、結果がポジティブになれば僕はいいと思うようになって」

    YouTubeでこの動画を見る

    youtube.com

    はじめしゃちょーさんは10月、サービスエリアでマスクをしていない不良に絡まれたことを「【激怒】とある視聴者さんにキレてます。」という動画で報告。

    タイトルからは怒りがうかがえるものの、単に話すのではなく、その状況を再現VTRでコミカルに表現した。

    「その話だけを言うとネガティブな動画なんですけど、やり方次第ですごく和んだりもする。最終的に注意喚起にもなって、ポジティブに落とし込めるならいいなって。

    言いたいことを言った後にフィルターをかけられるのがYouTubeなんです。その技術や塩梅は、この8年で培ってきました。

    見せ方を気をつけつつ、ネガティブな話題もポジティブに届ける。泥臭く動画を作っていきたいですね」

    はじめしゃちょー

    1993年2月14日生まれ、富山県出身。「自由」をモットーにしている超フリーダムなYouTuber。実験系をメインにした、オールジャンルな動画が人気。体を張ったネタや、誰もしないような斬新な動画で、若年層より圧倒的な支持を得ている。740人で「だるまさんが転んだ」を行った動画では、2015年10月に最多人数としてギネス記録を達成した。

    YouTubeチャンネル:はじめしゃちょー(hajime)はじめしゃちょーの畑