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ワクチンの中身は毒素? 接種済みの人が感染で重症化? Forbes記事に専門家から批判 訂正重なり「慎重さの欠如反省」

ある研究者が新型コロナワクチンを構成する物質が「毒素」であるなどと主張しつつ、自身が研究開発する「世界初」の感染予防・治療に効果を発揮する「革新的な抗体医薬」をアピールしている。しかし、専門家はこの研究者の主張には誤りが含まれていると指摘している。

すべての新型コロナ変異株に対応?『口内に噴霧』の非mRNA型予防薬、商品化へ」というForbes Japanのオンライン版の記事に対する批判が広がっている。

記事は、分子生物学が専門で東京理科大学名誉教授の村上康文氏が、9月9日に開催したメディア説明会に基づくもの。

村上氏は説明会で新型コロナワクチンを構成する物質が「毒素」であるなどと主張しつつ、自身が研究開発する「世界初」の感染予防・治療に効果を発揮する「革新的な抗体医薬」をアピールしていた。

新型コロナワクチンに詳しい専門家は、この記事および村上氏の主張には誤りや不正確な情報、根拠が不明の情報が複数含まれている、と指摘する。

BuzzFeed Newsは日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とともに、それぞれのポイントを検証した。

(1)「5回目から死亡する例が増加」と主張も…

問題の記事は、Forbes Japanが9月10日に自社サイトおよび Yahoo! ニュース上で公開したもの。

同社のサイトで公開された記事はTwitterで3300回以上、Yahoo! ニュース上で公開された記事は5100回以上シェアされており、拡散されている。

村上氏はイスラエルにおいてワクチンのブースター接種(3回目の接種)がスタートしている中、《同一の抗原で繰り返し免疫化を行った場合、動物実験では5回目から死亡する例が増加。7〜8回繰り返すと半分近くが死亡するという動物での研究結果もある》などと主張。

このような事態に対処するために、ワクチンに代わる予防手段として効果が期待できる「murak抗体(ムラック抗体)」を開発し、近く製品化する可能性があると紹介している。

だが、新型コロナやワクチンに関する正確な情報発信を推進する日米の専門家プロジェクト「こびナビ」の専門家は、こうした前提となる情報の根拠が不明だ、と指摘する。

「『同一の抗原で繰り返し免疫化を行った場合、5回目から死亡する例が激増。7〜8回繰り返すと半分近くが死亡するという動物での研究結果もある』と村上氏は主張しているようですが、どの文献を元にして主張しているのかが全くわかりません。少なくとも、新型コロナウイルス感染症に関するワクチン開発において、そのようなことを示唆する研究結果は見たことがありません」

SNS上では、記事のこの部分をもとに「5回目のワクチン接種から死亡リスクが増える」といった誤解を含むツイートがシェアされている。

(2)「スパイクタンパク質そのものが毒素」

《従来のワクチンは毒性を排除した抗原を使用してきましたが、新型コロナワクチンで抗原として用いているスパイクタンパク質そのものが『毒素』であるという論文が既に発表されています。そのためにワクチン接種後に強い副反応がひきおこされている可能性があります》

村上氏は記事内で、こう主張した。

スパイクタンパク質とは、ウイルスの表面に存在する突起のこと。この突起がヒトの細胞の表面にある「ACE2」という分子とくっつくことにより、ウイルスが細胞の中に入り、「感染」が引き起こされる。

ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンでは、このスパイクタンパク質の設計図を RNA に入れたものを接種し、体の中でスパイクタンパク質の一部を作ることで免疫を誘導する仕組みとなっている。

村上氏の「スパイクタンパク質そのものが毒素である」という主張に対し、「こびナビ」の専門家は次のように指摘した。

「この主張は論文やそこからわかった事象を曲解しています。スパイクタンパク質がヒトの体への毒性を持っているかどうかまで実際に示したデータは現時点ではありません」

「また、副反応をスパイクタンパク質の毒性のみで説明するということについては、専門家の間でコンセンサスが得られていないという点についても注意すべきでしょう。スパイクタンパク質ではなくmRNAを包む脂質ナノ粒子(LNP)など他の物質に対する反応である可能性や、抗原が体内で生産される量によって変わる可能性もあり、慎重な議論が必要です」

9月9日のメディア説明会で村上氏が使用した資料には、《ACE2受容体は血管内皮細胞にたくさん分布しておりスパイクが血管壁を攻撃する》という言葉も記載されていた。

このような事実はあるのか。

「村上氏が言及している論文では、人工的に合成されたスパイクタンパク質を表面に持つ擬似ウイルス(pseudovirus)をハムスターに感染させるという実験を行っています。ここでは、スパイクタンパク質を含んだウイルスがACE2に作用することで、分子にダウンレギュレーション(細胞内の成分量が減少すること)が起き、機能に変化が起きたとされています。しかし、これがヒトに対しても同じように起きるのかどうか、大きな影響があるのかどうかについては不明です」

「また、この論文に対しては複数の疑義も生じています。ウイルス感染によって血中にスパイクタンパク質が大量に存在し、それらが人体に害悪を与えることと、ワクチンとして少量投与されることが意味することは大きく異なります。現時点までにワクチンとして投与された設計図をもとに体内で作られたスパイクタンパク質が、血中に多く存在し、内皮細胞にダメージを与えるという主張を裏付ける証拠は示されていません」

「ヒトではなく動物に対する実験の結果を過度に強調し、独自のストーリーに基づきある仮説を一方的に呈示している形になっています。一連の説明はミスリーディングであると考えます」

(3)「ADEにより重症化する」

《このような『スパイクタンパク質の全体』を抗原とすることにより、ワクチン接種者の中には抗体依存的感染増強(ADE)により重症化するという人が出てくる可能性が考えられます。実際、RNA型ウイルスの『デング熱』では、フィリピンで、200人以上の子供がワクチン接種後、ADEで死亡するという悲劇が起きています》(村上氏)

Forbes Japanの記事には、このような主張も掲載されている。

ADEとは、ウイルスの感染やワクチンの接種によって体内にできた抗体が、ウイルスの感染をむしろ促進してしまうという現象だ。

だが、「こびナビ」の専門家は「新型コロナワクチン接種者において、ADEが起きたという明らかな報告は現状ありません」と指摘する。

「デング熱に対するワクチンについても、RNAウイルスであるからADEが生じるわけではありません。RNA型のウイルスが危険であるようなイメージだけを強調することは非常に雑な話であり、ミスリーディングです」

また、村上氏はメディア説明会で《ワクチン接種者がADEをおこす段階まで変異したウイルスに感染すると非接種者よりも重症化してしまう》との懸念を示しつつ、ADEは《SARS-CoV-2ウイルス(新型コロナウイルス)の変異が進みSARSやMERSウイルスと同様に免疫系の細胞で増殖できる性質を獲得する時期》に起きると主張している。

しかし、「こびナビ」の専門家はこの点に関しても、「現状そのようなことは起きておらず、SARSやMERSワクチン開発時におけるADEの問題が変異によって起こりやすくなったと断定する研究結果も確認されていない」とした。

「ワクチン接種者での感染率・重症化率の上昇もみられていません。一方的な仮説を、あたかも当然の事実のように説明しており、不誠実だと感じます」

(4)「ACE2タンパク質に結合してウイルスの侵入を防ぐ抗体作成は今回が初めて」

村上氏はワクチンについて、「有効な期間は短いが治療薬開発までのつなぎとしては有効」と述べた上で、コロナ収束に向けた切り札として、自身が開発に取り組む「murak抗体」の存在をアピールしている。

この「murak抗体」とは、村上氏が率いる研究チームとDDサプライ株式会社が共同で開発に取り組んでいるもので、「細胞レベルの実験で高い中和活性を確認」しているという。

なお、こうした抗体を用いた薬剤の研究開発は「murak抗体」だけに限らない。

例えば、新型コロナに対しては中和抗体の「モノクローナル抗体製剤」や、カシリビマブ、イムデビマブという2種類の抗体を混ぜ合わせて使う「抗体カクテル療法」などに関して有効性が確認されている。

村上氏は《ACE2タンパク質に結合してウイルスの侵入を防ぐ抗体の作成は非常に難しく、今回が初めてとなります》と「murak抗体」について語っているが、「こびナビ」の専門家は、アピールの手法について以下のように疑問を呈した。

「ヒトのACE2と結合し、新型コロナウイルスの感染をブロックする抗体はすでに試薬レベルで市販されています。また、同じようにヒトのACE2と結合する抗体を使って新型コロナウイルスの感染を防ぐという発想の研究は2020年11月時点でプレプリント(査読前の論文)として発表されています。2021年8月にはACE2抗体を予防的・あるいは治療的に使用し、マウスで新型コロナウイルスの感染を防御する事に成功した別の研究論文も発表されています」

「これらの先行研究やすでに市販されている試薬の存在を無視して、『世界で初めて』と主張することは、誇大広告であり、研究者として非常に不誠実な態度ではないでしょうか」

「この記事でも紹介されている2種類の抗体は、現時点では試験管の中で擬似ウイルスの感染を阻害しただけであり、あくまで基礎研究段階の『試薬レベル』の話です。それをあたかも治療効果のある薬の様に『非mRNA型予防薬』と標榜すること自体が、ミスリードかつ研究者として不誠実です」

「完成」と強調。しかし、臨床試験はこれから実施?

村上氏は「murak抗体」について、説明会において「2つのプロダクトが完成しており、もうすぐ臨床試験を始めるというステージまで来ています」とコメント。現時点では人に対する臨床試験は実施していないことを明かしている。

また、今後の臨床試験のスケジュールや内容については「日本と周辺諸国で臨床試験をやることを想定、欧米とはこれから交渉する」としている。

「こびナビ」の専門家は「そもそも、ヒトに対する臨床試験もなされていない段階で大仰なことをいうことや、段階を確認せず報道する媒体にも問題があります」と苦言を呈す。

「薬については、開発段階に応じて言えることの強度が変わってくるのは当然のことです。臨床試験の結果がまだ出ていない状態で、ましてや試験さえしていない段階で、効果や安全性には言及すべきではありません」

「また研究の発表の方法についても、臨床試験が終わり、論文が発表されたタイミングなどでプレスリリースを打つべきであり、このような実際に意味のある結果が出てさえいないものをメディア向けの説明会で発表し、それが大きく報じられるという一連の流れには問題があると考えます」

村上氏は…

「murak抗体」の研究開発を実施する村上氏および記事を掲載したForbes Japan編集部にBuzzFeed Newsは見解を問い合わせた。

村上氏は「繰り返し免疫することのリスクは、マウスなどを免疫して抗体作製を行った経験を持つ研究者の間では広く認識されていること」「過剰に動物個体を同一の抗原で免疫を続けると多くの個体が死亡することは広く経験されている」と主張したが、根拠となる論文は提示しなかった。

「私の主張は 、追加の寄稿文にも書いておきましたが、動物において不注意に過剰に免疫を反応させると死亡する個体が出現する事例があるため、同一の抗原で繰り返し免疫を発動させるのであれば、安全性について十分注意すべきであるということです」

スパイクタンパク質が「毒素」であるという点について、ヒトの体への毒性を示したデータはない。この点についてはどのように捉えているのか。

村上氏はメディア説明会で引用していたソーク研究所の発表に触れ、動物実験でのリスクを無視すべきでないとし、「その論理でいけば、毒性が未知の医薬品をいきなり人に適用してもいいということになる」と反論した。

また、メディア説明会で主張していたADEのリスクについては、「新型コロナウイルスは現状では、マクロファージなどの免疫系細胞では増殖できていないため、これまで報告されてきたメカニズムによるADE の問題が顕在化されていません」と認めつつ、次のように回答した。

「SARSやMERSのウイルスはマクロファージなどの免疫系の細胞で増殖可能であり、そのため、ADEがおきることは広く認められております」

「新型コロナウイルスはネコ科の動物に感染することがわかっています。新型コロナウイルスがネコに感染するということは、将来的には大きなリスクとなり得ます」

「新型コロナウイルスとネココロナウイルスの間で組み換え反応が起き、ヒトに戻ってきた場合にはそのウイルスがマクロファージなどの細胞で増殖可能となる可能性は否定できません」

なお、村上氏は自身が開発する「murak抗体」が世界初のものとなるかどうかについて、「ベンチャー企業においてプロダクトの作成に成功した場合には、特許出願が完了し、解析が進んだ時点で発表する」「必ずしも論文発表するとは限らない」とコメント。

「既に特許の出願は完了している」とし、「論文発表を主眼とするアカデミアの研究者と、そうではない民間企業で見解の相違が生まれている」「世界で最初が誰かは、我々の特許が認められるかどうかで判定されるべきこと」としている。

なお、村上氏が自らのHPで行っている解説は、こちらにある。

こうした主張に対し、「こびナビ」の専門家は改めて次のように指摘した。

「Forbesに掲載された記事は新型コロナワクチンの安全性にフォーカスしており、その文脈で『動物に繰り返し免疫化すると死亡する個体が出現する』と主張することは、それが新型コロナワクチンによるものであると読者に誤解させる内容です」

「ソーク研究所の研究に基づきスパイクタンパク質は『毒素』であるとする主張も、海外ではすでにファクトチェックされ、ミスリーディングな言説であると認定されています。この主張は学術的に不正確であり、多くの専門家が共有している見解ではありません」

「ADEのリスクについては、現時点で新型コロナワクチンを接種したヒトでADEが確認されていない以上、今後もそのリスクを注視する必要があるとはいえ、過去のSARSやMERSのワクチン開発で見られた現象や、起きるかどうかわからないネコへの感染時の組換えの可能性を議論することは『絵に描いた餅』であり『机上の空論』です。妥当とは思えません。そのリスクを殊更に強調する姿勢に疑問を持ちます」

「また、学術研究の世界では特許出願日をもって世界初であると主張する慣行はありません。特許の出願・取得自体は内容のクオリティに関わらず、誰でも可能です。たとえ特許出願が完了しているとしても、その中身は非公開であり、専門家が内容の妥当性を評価することは不可能です。専門家の査読を受け学術雑誌に正式に掲載された論文がすでにある以上、それを無視して自身の研究成果を『世界初』とする主張は、アカデミアやベンチャー企業という枠組みを超えて、不正確でありミスリーディングであると思われます」

Forbes Japanの見解は?

一方、Forbes Japan編集部は掲載した記事に複数の誤りがある点に関し、「編集部としては『9月9日に行われたメディア説明会での、村上教授による説明を紹介する』との立場での情報シェアである」と説明。

「新しい研究分野に関する専門家の方々によるご議論は、起きてしかるべきと理解しています」とした。

村上氏の発言内容に誤りがないかどうかはどのように確認をしたのだろうか?

同編集部は「村上博士ご自身がウイルス研究の第一人者でもいらっしゃる」と強調した上で、原稿作成後には村上氏に「校正をお願いした」と回答した。

「村上博士については、一研究者でいらっしゃる以上に、『今年3月に厚労省の承認を得て販売開始された、PCR検査に代わる新型コロナウイルス抗原迅速検査キットの作成者』であるという実績をふまえ、また、『ワクチン以外の対応の模索・挑戦』と『(国策である2回接種を超える)ブースターへの慎重姿勢』に、伝える価値があると考え、記事にしました」

この記事については公開後、訂正が2回、行われている。

こうした点については、「記事内に訂正を必要とする慎重さの欠如があり、またそこに読者の関心が集中してしまったことを反省しております」とコメント。

「今回の件を踏まえ、特にコロナ関連記事に関しては、より慎重な姿勢をとるよう社内で共有し、今後実践して参る所存でございます」とした。


監修:大阪大学産業科学研究所・曽宮正晴氏、こびナビ・峰宗太郎氏


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