コロナとの「戦いをやめろというのか?」 第2波を乗り越えるため、鳥取県知事は法律改正と財政的支援を国に要望
新型コロナ専門家分科会にも名を連ねる鳥取県の平井伸治知事に現在の感染状況をどう捉えるのか、都市部と地方部でなぜ対策のアプローチが異なるのかを聞いた。
制度や財源なしに、徒手空拳では戦えない。
8月7日の新型コロナウイルス対策専門家分科会後の会見で、鳥取県の平井伸治知事はこう訴えた。
全国知事会の新型コロナ緊急対策本部長代行を担い、政府の新型コロナ専門家分科会の構成員にも名を連ねる。
平井知事はBuzzFeed Newsのインタビューに、現在は「第2波の真っ只中」にあるという認識を示したうえで、都市部と地方部での、新型コロナ対策のアプローチの違いを語った。
※取材は8月26日に行い、情報はその時点のものに基づく。
【前編】「県外ナンバー車への差別はダメ」宣言したのはなぜ? 感染爆発を避けるため、鳥取県知事が伝えたいこと
現在は「第2波の真っ只中」

ーー現在の新型コロナウイルス感染症の拡大状況について、どのように捉えていらっしゃいますか?
考えてみると、この騒ぎが始まって、もう8ヶ月ほど経過しました。新型コロナウイルスは、人の命や健康に関わる課題です。
この感染症にはある種の「癖」もありますし、強さもあれば、弱さもある。わかってきたのは、新型コロナウイルスとはそうした特徴を理解した上で、上手に戦っていかなければいけないウイルスなんだろうということです。
感染が起きてしまうと、特に高齢者そして基礎疾患がある方については、どうしても重症化の恐れがある。私たちも、入院される方の病状を病院側と日々トレースしていますが、時には肺の疾患が急速に広がりかけるというケースがあります。
そういう意味では、恐ろしい部分もある病気です。戦いを挑まなければならない。
一方で、10人のうち8人は他人へ感染させないとも言われているのが、この感染症の特徴です。本来であれば、感染力はそんなに強くない。では、なんでこんなに感染者がいるのか。その謎を解く鍵がクラスターにあります。
クラスターがひとたび発生しますと、一挙に爆発的感染へつながる可能性もあります。そして、このクラスターがが連鎖をしていきますと、オーバーシュートという恐ろしい状況になってくる。
こうした特性をよく理解しながら、付き合わなければいけないのだと思います。
現状の感染状況について、私は「第2波の真っ只中」という表現で正しいと思います。7月27日、28日、29日あたりをピークとして減ってきたと言いますが、これは東京の状況を示しての話だと思います。
全国の山を見てみますと、東京はじめ人口規模が大きいところの感染の波に全国各地の傾向が吸収されてしまうので、見えにくい。ですが、沖縄県での感染拡大が最近課題になっていましたし、島根のようにクラスターで一挙に感染者が増えたところもある。また、最近では滋賀県や徳島県、長野県では徐々に感染者が増える傾向にあったりと、これまでと違う感染傾向が確認されている地域も出てきています。
東京の繁華街でクラスターが発生し、そのクラスターを処理しきれないうちに市中感染へ発展し、それが他地域に波及したと専門家は分析しています。感染伝播の波は、まずは各地の大都市部へ、そして、さらに地方へと及んでいます。そのような形で、中山間地域まで広がってきてしまったというのが現状でしょう。
そういう意味で、一つの大きな波が第2波として東京から全国へ駆け抜けていっているという状況と理解しています。決して第2波は終わったのではありません。
鳥取県で成立したクラスター条例、「制裁ではない」

ーークラスターへの対策として、鳥取県では8月25日に「クラスター条例」が成立しました。営業停止勧告という具体的な措置も盛り込まれ、県独自にクラスター対策に臨む姿勢を明確に打ち出しています。
この条例で定めた店舗名やイベント名の公表と営業停止勧告は、世間一般で言われているものとは性質が異なります。
多くの地域では、営業停止となれば、あるエリアの飲食業全てを対象にするような形で出すことを想定したものですが、私たちが目指すのは、クラスターが発生し、5人以上の陽性者が見つかった場合にピンポイントで対応することです。
利用者など全員へ連絡をとることができない場合には店舗名やイベント名を公表します。一定期間の営業停止を勧告しますというものです。合理的な形で社会経済活動と感染拡大防止策を両立させていく、そのためにコロナの弱点を突く条例です。
私はそれぞれの地域に、それぞれの戦い方があると思っています。
東京あるいは大阪、愛知や福岡、こうした大都市部は医療体制の状況を常に気を配っています。病床が逼迫することで深刻な医療崩壊が起き、救えるはずの命が救えない状況を生み出しかねない。その点に重点を置いた、対策を実施しています。
一方で、多くの地域では感染を比較的封じ込めることができている期間があるのも事実です。そうした地域では感染が生じるたび、地域の皆様が大変な不安感を持つ。ですので、何とか押しとどめて、元へと戻したい。47都道府県で考えたときに、こうしたせめぎ合いの中で努力している地域の方が数は多いのだと思います。
鳥取県はそのうちの1つです。4月に県内で最初の感染者が確認された際、これ以上感染者を増やさないように対策に全力をあげようと呼びかけました。
当時は原則として、感染者の濃厚接触者がPCR検査の対象とされていました。しかし、本県では惜しみなく、その周辺の方々にまでPCR検査を実施しました。感染初期の状態であれば、このような努力をすることなどで一時的に収束に至ります。
こうした取り組みはとても地道なものですが、地方部ではやっていけると考えています。
これまでの感染者は22人。それでもクラスター発生は恐ろしい

鳥取県内では現在まで22人の感染者を確認しています。そのどれもが軽症もしくは無症状です。これが意味していることは、運が良いということだけでなく、早期発見することで重症化することを防ぐことができているということです。
軽症の状態にあったが急に命を落とされる。無症状の人が急変する。こうしたことは科学的には考えにくい。基本的には、どなたも軽症から中等症へ、そして重症になり、命を落とされる。だからこそ、早い段階で把握することが重要であると考えています。
私共は医師が必要であると判断する場合、感染の疑いがあると判断される場合は検査ができるよう、体制の拡充を進めてきました。現段階では、十分な数の病床数や宿泊療養施設を確保していますので、最大限のケアをすることで重症に至ることなく回復していただくことができています。
しかし、そのような対策を進める中でも恐ろしいものがあります。それが、クラスターの発生です。
クラスターが発生すれば、一挙に桁違いの数の患者さんが発生し、途端に医療需要が膨らみます。
もしも、このクラスターを完全に把握することができず、感染者を後追いすることができなくなりますと、高齢者や基礎疾患がある方にまで感染が広がりかねません。
このクラスターへの対策について、分科会の尾身茂会長から以前あるヒントをいただきました。それはクラスターはこの感染症の一番恐ろしい点でもありますが、同時に弱点でもあるということです。遡って調査を行うことでクラスターを発見し、感染連鎖を遮断し、感染を収束させることができる。
クラスターを重点的に叩くことは感染対策の肝です。だからこそ、対策をより万全なものにし、クラスターが発生した場合には早期に対応をするため、条例を作りました。
クラスターが発生した店舗には営業を停止していただく。クラスターが発生したイベントは中止していただく。営業の停止やイベントの注意がなされない場合には、やめてください、閉めてくださいと勧告をする。
合わせて店名やイベント名を公表するのは、感染の恐れがある方々に迅速に検査を行うためです。
例えば旅館さんの組合から「旅館では全部宿帳を取っている。泊まっている方がどこの誰か、みんな知っています」「ですから、連絡を取り、PCR検査ができればそれで良いのではないか」というご指摘をいただきました。我々もこの場合、店名の公表などは必要ないと考えています。関係者全員へクラスターの発生を通知できれば、公表は免除する形にしました。
これは非常に厳しい対応に見えるかもしれません。でも、これは制裁として設けたものでは決してありません。
「我が国の戦略として、2羽のウサギを追うべき」

8月7日の分科会後の会見に参加した平井知事
ーー8月7日の分科会後の会見で、感染動態をモニタリングする指標について、都市部と地方部で異なることが強調されました。地方の目線を取り入れるこの決定についてはどのように捉えていますか?
実は分科会発足当初から、私は違和感を持っていたことがありました。それは、医療提供体制が逼迫しているのかどうか、ベッドの占有率や重症者の数に目がいきやすいということです。
これはお医者さんの世界からすれば、ある意味で正しい。医療崩壊を起こすかどうか、そうしたところを一番主眼に見ることは職業的使命にも直結するものですから、よくわかります。
その結果として指標に組み込まれる項目が医療提供体制ばかりを意識したものになる、ということが起きていました。
ですが、テレビや新聞、インターネットあるいは人々の話題でも注目を集めていたのは感染者の数です。やはり、皆さん、「うちの県では何人の感染者が出ましたよ」という数字を気にかけています。
しかし、当初、分科会ではあまり感染者の数に注目していなかった。そこで、私は手を上げて「世間は感染者の数を見ています。分科会としても、その点を頭に置いて、メッセージを出すべき」とお伝えしました。
まずは出発点として、この感染者の数を減らすために頑張ろうというメッセージがあってもいいのではないでしょうか、と主張させていただいた。

ーーなぜ、そうしたギャップが生まれるのでしょうか。
このギャップがなぜ生まれるのか、分科会を重ねていくうちに少しずつ事情を理解することができました。
それは非常に感染が拡大している大都市部と、それ以外の地域では根本的に感染対策のアプローチが異なるということです。
東京では、現在1日180人を超える感染者が確認されたとしても、あまり驚きませんよね。ですが、1日に180人を超える感染者が地方で確認されれば、それはもう天と地がひっくり返るほどの大騒ぎになります。
ある意味で首都圏など大都市部の皆さんは感染者が確認されることに「慣れている」。そのような中で、気がかりなのは、自分がもしも感染をした時に医療が受けられるのかどうかでしょう。ですから、行政も医療機関もそちらに主眼を置いて、戦略を立て、実行をすることは正しい。
ですが、地方では、まだ多くの地域で「今なら感染者をゼロにすることができるかもしれない」と信じている人が多いのも事実です。互いに感染予防を頑張っていきましょうと声を掛け合い、実際に感染者の方が確認されれば、濃厚接触者やその周辺を一気に検査して、感染の連鎖を食い止めようとしています。
これは都市部の方からすれば、無駄な騒ぎに見えるかもしれませんが、地方部ではこの方法が一番有効です。
こうすることで、感染を食い止めることができますし、人が街へと出ることができます。こうして持ち堪えながら、いずれワクチンや特効薬が生まれる日を迎えることができれば大勝利になります。
だから私は、我が国は戦略的に2羽のウサギを追うべきだと思うんです。
一羽は大都市型。医療崩壊を起こさないことに重点を置いた戦略。もう一羽は、感染者をできるだけゼロに近づけることに重点を置いた戦略。
この2つの戦略が同時に機能して初めて、日本全体で感染が抑制されると考えています。
大都市部では、ある程度感染が拡大をすることを諦めざるを得ないところがある。ですが、同じような考えで地方部の高くする必要のない波を高くしてしまうと、大都市部と地方部で「キャッチボール」を続けてしまいます。
大都市から地方へ感染が広がり、地方から大都市へ感染が広がる。感染伝播はそれぞれの地域で相互作用します。
こうした地方の要望にも耳を傾け、医療提供体制についてだけでなく感染者数の数も感染動態をモニタリングするための指標に入れていただくことができました。
その結果、現場の知事も対策を組みやすくなったと思います。また、都市部と地方部ではアプローチが異なるという理解も少しずつ広がってきていると感じます。
「法律を改正していただく必要がある」、47都道府県知事の思い

全国知事会と西村康稔経済再生担当相(左上)が意見交換したテレビ会議の画面
ーー一方で、制度や財政の面で国の支援なしには戦えないということも訴えています。どのような支援や環境整備によって都道府県の現場が感染拡大防止に取り組みやすくなるのでしょうか。
新型コロナウイルスとの戦いはチームプレーです。
今、都市部の方々は最悪な事態を避けるため、ゴールを一生懸命守るディフェンスをしている。一方で、私たちのような地方部の人間はこの国から新型コロナウイルスをできる限り追い出してしまうために、オフェンスをしています。
チームにはそれぞれの役割があり、その役割に応じた対策を実行しやすい環境を整備するのが政府の役割です。
例えば「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」や「地方創生臨時交付金」といった対策を担う交付金など、追加の財政的支援をディフェンスやオフェンス、どちらでも使いやすい自由度の高い形で用意していただく必要があるでしょう。
全国知事会で調査をしたところ、地方創生臨時交付金に関して集計すると5000億円くらい足りないという結果が出ました。では、お金がないから戦いをやめろというのか?それが我々の率直な気持ちです。
コロナとの戦いはまだまだ続きます。そのためには資金が必要です。予備費の執行、補正予算など含めて検討していただく必要があると思います。

もう1つは法的手段を含め、戦う上でのグラウンドコンディションが悪すぎるという問題があります。全国知事会で47都道府県の知事の間では、もう少し強制的な手段があっても良いのではないかという話になっています。
現在、特別措置法、感染症法、そして他の法令においても具体的な対応として協力をしていただくという範囲に止まっています。
このような中、一部で問題となっているように、療養施設あるいは病院に入っていただきたい方がそうした施設から飛び出てしまうというケースが確認されており、非常に悩ましく思っています。
これでは感染が広がりかねません。ですが、現在はご理解いただき、ご協力いただく以上の措置が存在しません。
あるいはそのエリアで感染が広がり、店舗へ休業を要請しなくてはならない場合に、多くの都道府県ではある程度幅広く休業要請を行い、協力金という形で手当てをするようにしています。ですが、この対応には法的根拠はありません。
また、要請をしても聞いていただけない店舗も存在します。
こうしたことが契機となり、感染が広がるということも起きている。ですから、特措法はじめ法律を改正していただく必要があるというのが、47都道府県知事全員の思いです。
私共、鳥取県では次の大きな波をまずは迎え撃つために、国が法律を作ってくれないならば自分たちで作ろうと、クラスター対策条例を作りました。ですが、本来は国の立法が必要だと思います。
ワクチンへの望みは薄い。では、どうするのか?

ーー感染対策と社会経済活動の両立が容易ではないことが、ここ数ヶ月でわかってきました。今後はどのようにコロナと戦っていくのか、見通しを教えてください。
私は、この戦いが収束を迎えるまで、まだだいぶ時間がかかると考えるべきだと思っています。状況に誠実に向き合うのであれば、行政は長期戦を前提にこれからの対策を組んでいく必要があるでしょう。
例えばワクチンについて、アメリカやイギリスでも開発が進められ政府が調達することを目指しています。また、国内でも開発が進められています。
ですが、分科会の中で専門家の方々と議論を戦わせる中で、予想以上に医療関係者の方々がワクチンに期待していないことがわかりました。
なぜなのか。それは、端的に言えば、これまで呼吸器系のウイルスで開発に完全に成功したワクチンは存在しないからです。
思い起こしてみれば、インフルエンザのワクチンも感染を予防する効果まではなく、重症化を防ぐ効果があるとされています。また、それを多くの人が摂取することによって感染拡大の波を小さなものにすることができる。
現在、海外での治験結果などを見ていますと、感染しない、もしくは発症しないといった効果を持つワクチンが開発されることへの望みは薄そうだと言われてます。
なので、すぐに感染が収束するということは、残念ですがなさそうです。治療薬の開発も続いています。一部で重症化を抑える効果が見られるかもしれないとの話もありますが、こちらも日進月歩です。

おそらく、国民が期待しているような「収束」という地点に行き着くには、もうしばらく時間がかかるでしょう。
そうなれば、社会経済活動をその間に止めていいのか?ということについて考えなくてはなりません。
様々な考え方があるとは思いますが、鳥取県のようなところであれば、現在は感染者数を低く押さえ込むことができています。このような中では、社会経済活動を回しながら感染防止対策を行っていくことができるでしょう。
現在、本県を訪れる観光客の方もいらっしゃいます。迎える旅館さんは防護措置を徹底しておりますので、個別の感染事例はあるかもしれませんが、クラスターが発生するようなことにはなりにくい環境を作ることができています。
このように感染対策を徹底しながらクラスター対策へ特化し、感染拡大の傾向が見られたタイミングだけ、ある程度強制力を持った措置を行う。それ以外の場面では基本的な感染対策を行うという形で乗り越えることも不可能ではないと思っています。
一方、都市部では感染者数をゼロに抑え込むことができるのかはわかりません。繁華街に残っていた残り火が広がり、現在の第2波が広がりました。気が抜けない状態が続き、何度か波の上下を繰り返すことになるかと思います。
感染が拡大傾向にあるときは時には一部の経済活動の自粛や県境を跨いだ移動を控えていただくといった措置が必要になるかもしれません。
そうした都市部と地方部それぞれのアプローチを前提としながら、私たちはどのように経済を回すのか、どのように社会を動かすのかを賢く考え、立ち回っていく必要があるでしょう。