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「県外ナンバー車への差別はダメ」宣言したのはなぜ? 感染爆発を避けるため、鳥取県知事が伝えたいこと

「咳をしても1人」、そんな孤独を作ってはいけない。鳥取県の平井伸治知事は語る。差別や偏見の先には、感染爆発が待ち受けている。最悪の事態を避けるため、取り組むべきこととは。


新型コロナウイルスの感染者やその家族、医療従事者への心ない偏見や差別が続く。

こうした現状に、鳥取県の平井伸治知事は「私たちが戦わなければならないのは病気であって人間ではない」と指摘する。

政府は、新型コロナウイルス対策専門家分科会に「偏見・差別・プライバシーに関するワーキンググループ」を設置、知事や弁護士、インターネットにおける誹謗中傷の専門家などを交え、議論をスタートさせる。

政府レベルの検討が始まるなか、自治体の現場では何が起きているのか。平井知事にインタビューした。

※取材は8月26日に行い、情報はその時点のものに基づく。

【後編】なぜ、政府の動きを待たず、独自のクラスター条例を制定? 鳥取県知事が語る、地方におけるクラスター発生の恐ろしさ

「咳をしても1人」、そんな孤独を作ってはいけない。

Yuto Chiba / BuzzFeed

平井知事にはオンラインツールを用いて取材を行った。

4月に県内で最初の感染者が発見された際、私は県民の皆様に呼びかけました。

尾崎放哉に、こういう句があります。

「咳をしても1人」

こんな孤独を作ってはいけない。私たちは、誰ひとり取り残すことなく、みんなを助けていくべきです。

私も常々申し上げているのですが、私たちが戦う相手はウイルスであって、人ではありません。むしろ、人間が団結しなければ、このウイルスに勝つことはできないと思っています。

患者さん、それからクラスターの発生したお店もそうですが、みんな苦労を耐え忍んでいる。だからこそ、連帯して取り組むというところに、日本らしい1つの勝利への道筋があるのではないでしょうか。

鳥取県

ーー鳥取県はクラスター条例を制定し、場合によっては店舗名やイベント名を公表することを明示しました。一方で、こうした店舗などに誹謗中傷が寄せられる懸念も存在します。この点について、どのようにお考えでしょうか?

8月25日に本県にて成立したクラスター条例には、人権条項が組み込まれています。そこでは、感染者や医療従事者への誹謗中傷はやめましょう、むしろ彼らを応援しましょうと書かせていただいています。

また、県民や事業者の責務の規定の中には、感染対策などに取り組みながら売り上げた落ちたお店をぜひ利用しましょう、売り上げを上げることに協力しましょうといったユニークな条文も盛り込ませていただきました。

合わせて、対策を取っていたけれども、クラスターが発生してしまった場合、「お店を閉めて、感染拡大防止に協力します」という店舗には協力金をお支払いすることも明文で規定しました。

他にも、県では必要な支援事業を随時用意して、対策をしっかりととっていきます。

クラスターを潰すということは決して、お店を敵に回すということではない。そこで蔓延しようとしているウイルスの感染連鎖を断つことが目的です。

ですから、それ以上のことをやってはいけませんし、やる必要もありません。

差別や偏見の先には、感染爆発が待ち受けている

時事通信

記者会見で新型コロナウイルス感染症対策分科会の報告をする平井伸治鳥取県知事

ーー差別や偏見が続くことで、感染拡大防止にはどのような影響があるとお考えですか?

非常に深刻な影響があります。我々、実務を担う者はPCR検査を行い、感染連鎖を断とうとしていますが、そのために必要なのは、「どなたとお会いしましたか?」「どちらにいらっしゃいましたか?」という情報です。これは患者さんだけが知っています。

つまり、患者さんの協力を得ることができなければ、PCR検査を多用したところで感染連鎖を断ち切ることはできません。それでは、感染は広がり続けてしまいます。

差別や偏見を恐れて、感染された方が口をつぐんでしまうと、対策は不可能です。もっと恐ろしいのは、感染されたかもしれない方が、名乗ることすらやめてしまうことです。

それでは、本来検査を受けるべき人が受けなくなってしまう。そのままでは、社会は大きなしっぺ返しを食らいます。待っているのは、感染爆発です。

これは鳥取県だけでなく、全国で起きている問題です。ですから、政府も本腰を入れて取り組むべきだと主張を続けてきました。

私は全国知事会でもコロナ対策の役回りをいただいているので、何度か大臣へ要望する機会を活用してきました。また、分科会でも、何度か人権問題を取り上げるべきですとお伝えしてきました。

感染拡大防止に皆さん興味を持っていますが、その前提にあるこの問題に取り組まない限り、感染は広がります。

いよいよ、ワーキンググループが組織され、そこには私の仲間である三重県の鈴木英敬知事が加わることになりました。中山ひとみ先生や武藤香織先生といった分科会メンバーと一緒になり、政府も本腰を入れて、この問題へ向き合っていただきたいと思っています。

時事通信

8月24日に開かれた新型コロナウイルス対策専門家分科会後の会見では、「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」の発足が発表された。

ーーワーキンググループには、どのようなことを望みますか?

実は8月24日の分科会で私もこの人権問題への対策について意見を述べさせていただきました。

そこでお伝えさせていただいたのは、これまで試行錯誤を続けてきた地方の取り組みです。

例えば、鳥取県では4月からネット上のサーベイランスを始めています。その活動を行うことで、ネット上にどれだけ誹謗中傷が存在するのか、そしてデマをはじめとする誤った情報が存在するのかがわかりました。

起きてもいないことが事実のように流布しているような状況があれば、我々の広報ツールでこれは事実ではないと発信するようにしています。

そのような中で、鳥取県ではネットサーベイランスを通じて名誉毀損や損害賠償に発展しかねない情報を見つけた時に、画像として保存する活動を行っています。

この活動について、8月に発表したところ、これまで広がり続けていたネットでの誹謗中傷などが少し抑制されてきた印象を受けると担当者は語っています。

また、クラスター条例に盛り込んだ人権条項についてもお伝えしました。

こうした実践が、全国各地で行われていますこうしたものをぜひ参考にしていただいて、横展開、もしくは政府が正面から取り上げるといったことがあっても良いと考えています。

この問題は刑法に触れる、民事であれば賠償責任などに発展しうることが当然あるという点を政府は理解し、関係省庁と力を合わせて取り組むべきだと思います。

「県外ナンバー」尊重を条文に

鳥取県

ーー地方部では住民同士が監視をするような状況も生まれているのではないでしょうか。実際に鳥取県内で、県外ナンバーの車に嫌がらせがあったと報じられています

実は、8月8日に発表した「新型コロナからみんなを守る鳥取県民宣言」という宣言の中に、以下のような条文を記しました。

県外ナンバーなど県外から来られる方々を非難したり、傷つける行為をせず、お互いに尊重し合います!

これは、ちょっと珍しい条文かもしれません。たとえ県外ナンバーの車で異なる地域から来られている方であっても私たちの仲間であると強調しました。だから、お互いに尊重し合う。決して排斥しないと書かせていただいたんですね。

わざわざ、「県外ナンバー」と明記しました。こうした条文を記すのは鳥取県くらいだと思うのですが、最近の社会問題を含めることでわかりやすくお伝えするためにこのような記述にさせていただきました。

鳥取では、折に触れて、このようなメッセージを出すようにしています。クラスター条例も成立し、今後はより一層県民の皆様へ我々が戦う相手はウイルスであると伝えていきたいと考えています。

同時に、差別や偏見を行わないための別の仕掛けも必要かもしれません。

実は今、県の弁護士会、そして警察と協定を結ぼうと思っています。弁護士会の皆さんも、県のメッセージに共鳴してくださり、一緒にできることがないかという話になりました。

特に人権救済の問題では、時には法的手段を取るということも最終的にはあり得る。そのため、法律の専門家と一緒にこうした問題へ正面から対峙しますというメッセージを伝えられればと思っています。

また、警察と協定を結ぶことは、ネット犯罪につながるようなことを含め、しっかりと目を光らせますというメッセージになるでしょう。

もちろん、県民一人ひとりに自制的に理解していただくことは大切です。ですが、こうした仕掛けを行うことで、抑止力をはたらかせる側面もあっても良いのではと考えています。

感染者は、コロナとの戦いの「最前線にいる」

時事通信

鳥取市が作成したステッカー(提供:鳥取市)

国民全員で共有しなくてはならないのは、この新型コロナウイルスというものは非常に巧妙に私たちに戦いを仕掛けてくるということへの理解です。

第2波が広がる中で、明確になったのは、このウイルスはマスクを外して喋ることの出来る間柄を狙うということ。

つまり、家族や友達、それから職場の仲間などを狙ってウイルスが感染を広げようとします。これは非常に都合の悪いことですが、このウイルスはその場が盛り上がると、より広がりやすい。大きな声を出したり、歌を歌ったり、ハグなどの接触など親密なコンタクトがある場を狙っています。

こうした点を踏まえると、このウイルスは人類の中に分断をもたらそうとしているわけです。新型コロナは今、人間同士の乖離すら引き起こしています。非常に厄介な戦いが続いています。だからこそ、我々は仲間同士、手をつなぐ必要があります。

まるで感染することが悪いことのように錯覚してしまいそうになりますが、感染された方というのは、まさに新型コロナウイルスとの戦いの最前線にいる方です。

感染したくて感染した人は一人もいない。なので、我々は交通事故にあった方をお見舞いするのと同じ気持ちで、応援しなくてはいけません。

医療従事者に対しても同様です。

ウイルスは良い関係にある人との間を狙ってやってくる。そんなウイルスの手に乗る必要はありません。

ウイルスの仕掛けた手に乗ってしまうのは誤りであり、私たちは今こそ、むしろお互いの信頼関係を作り上げてスクラムを組むべきでしょう。

そのために3密の回避、マスクの着用、咳エチケットなど基本的な感染予防策が重要になってきます。また、手指消毒などの防衛手段もあります。

感染者へ向ける鋭い感覚を、むしろ日々の衛生管理へと回していく必要があるのではないでしょうか。

親しいからこそ、互いに注意するというマインドへ切り替えていくことができれば、感染拡大防止は可能ではないかと思います。

こうした取り組みを行う上で、「村社会」と言われる地方はむしろ強みを発揮することができるかもしれません。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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