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除菌液のミストシャワー、「健康に害も」「人体への噴霧は不適切」 体操大会の感染対策に厚労省や保健所が苦言

WHOや厚生労働省は除菌液などを空間噴霧することについて眼や皮膚への付着や吸入による健康影響を考慮し、除菌液の空間噴霧を推奨していない。なぜ、こうした感染対策がとられたのか。

11月8日に国立代々木競技場で開催された体操の国際大会。会場の入り口で除菌液を噴霧していたことに対して、専門家から指摘が相次いでいる。

世界保健機関(WHO)や厚生労働省は、除菌液などを空間噴霧することを、眼や皮膚への付着や吸入による健康への影響を考慮し、推奨していない。

一方でこの大会は、海外から訪れる選手の対策など様々な感染対策を入念に行うことで開催にこぎ着け、新型コロナウイルス問題で2021年に延期された東京五輪での対策の試金石としても、注目を集めていた。

そんな状況で、なぜ「噴霧」という方法が取られたのだろうか。

推奨されていない空間噴霧、なぜ?

新型コロナウイルスの8日の重症者は36人。死亡例なし。検査実施約5400件。 新規感染者189人(濃厚接触者84人、調査中105人)のうち、65歳以上は13%。8日に東京で開催された体操の国際大会は、入場口にサーモメーター、消毒液や除菌のミストシャワーを設置するなどの感染防止対策が行われました。

Twiter(@ecoyuri)

批判を集めたのは、11月8日に国立代々木競技場で開催された体操国際競技会「Friendship and Solidarity Competition (友情と絆の大会)」での感染対策だ。

この大会は中国、ロシア、アメリカ、日本から選手が集まって開かれた。チケットが市販され、一般の観客が来場。さらに小池百合子・東京都知事も会場を訪れ、現場の感染対策をSNSで発信。感染対策を万全にして国際大会が開催されていることをアピールした。

しかし、ツイートに記されていた「除菌のミストシャワー」という部分に対し、医療関係者から疑問視するコメントが相次いだ。

除菌液がミストシャワーとして噴射されている様子は産経新聞も報じた。

これに対し、WHOは「室内空間で日常的に物品等の表面に対する消毒剤の(空間)噴霧や燻蒸をすることは推奨されない」「路上や市場と言った屋外においてもCOVID19やその他の病原体を殺菌するために空間噴霧や燻蒸することは推奨せず」「屋外であっても、人の健康に有害となり得る」としている。

また、「消毒剤を(トンネル内、小部屋、個室などで)人体に対して空間噴霧することはいかなる状況であっても推奨されない」としている。

アメリカの疾病予防管理センター(CDC)も「消毒剤の(空間)噴霧は、空気や環境表面(物の表面)の除染方法としては不十分であり、日常的な患者ケア区域における一般的な感染管理として推奨しない」と明示している。

厚生労働省も、こうしたガイドラインと足並みを揃えている。

新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について解説するページで「人がいる環境に、消毒や除菌効果を謳う商品を空間噴霧して使用することは、眼、皮膚への付着や吸入による健康影響のおそれがあることから推奨されていません」としている。

消毒液や除菌液を空間噴霧することは推奨できない、ということは、現段階での専門家の多数意見だ。

大会主催者「人体への影響はないものと説明を受けたため、設置」

大会を主催した日本体操協会はこうした事実を把握した上で、除菌液を空間噴霧したのだろうか。

同協会の広報担当者はBuzzFeed Newsの取材に「ご提供いただける企業があり、説明内容などをお伺いし、常時噴霧されるものではなかった、人体への影響はないものと説明を受けたため、設置に至りました」と説明した。

大会運営にあたり「専門家からのアドバイスはいただいていた」としつつ、「こちらの設置機器に関しての『薬剤』の噴霧に関して、詳細な検討を出来ないままの設置となった」とした。

WHOや厚労省が空間噴霧を推奨していないこと自体は理解していたが、「常時噴霧しているものではなく、個別のボタン式の噴霧式のため設置」した、という。

「提供企業からの説明では人体に噴霧しても安全であるという説明を受けています。現在、当該業者に明確な成分のデータを求めているところです。詳細なデータを提供業者に提出いただき、監督官庁に説明に伺う予定です」

今後の対応については、以下のように語った。

「今後の大会開催、運営におきまして、専門家による、『感染予防対策』のための設備機器の検証を、改めて想定していく準備をしております。また、WHOなどの新型コロナウイルス感染対策に加えて、環境衛生の専門家からもアドバイスを受けながら、環境、人体への影響も十分に配慮した対策をとる所存でございます」

保健所「人体に噴霧する相談は受けていない」

東京都オリンピック・パラリンピック準備局の担当者は東京都の職員と小池都知事は現地を視察し、選手や来場者の安全を確保するための対策が行われていると説明を受けたとBuzzFeed Newsの取材に語った。

問題となった小池都知事のTwitterでの発信も「知事が実際に体験したものをツイートしたもの」とし、「安全性を確認した上で対策が行われていることを協会から説明を受けていた」という。

その後、11月16日に日本体操協会からこの除菌液の空間噴霧について説明を受けたといい、「協会が渋谷区保健所に説明したところ、この成分は禁止されているものではないと説明を受けていたと聞いている」と言う。

渋谷区保健所は日本体操協会に対し、何を語ったのか。

保健所の担当者はBuzzFeed Newsの取材に「体操協会から、人体にこうした除菌剤を噴霧することについては相談を受けていない」と語った。

「人体にミストシャワーの形で噴霧していたと聞いて、驚いた」という。

「体操協会からは、会場での感染対策について事前の情報共有を受けていました。そこでは他の国際大会での一般的な対応を踏まえて無人の場所で除菌剤を噴霧をするという説明があったので、禁止されてはいないとお伝えしました。

担当者は「仮に(人体に向けて噴霧すると)相談を受けていたら、人体への噴霧は不適切ですとご回答したと思います」と語った。

専門家が指摘する2つの問題

一般論として、消毒剤の空間噴霧にはどのような問題点があるのだろうか。

厚生労働省は消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません。薬機法上の『消毒剤」としての承認が無く、「除菌」のみをうたっているものであっても、実際にウイルスの無毒化などができる場合は、ここに含まれます。

新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)

厚労省は空間噴霧について、このように発信している。

聖路加国際大学QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんも、一般的にあらゆる消毒剤の空間噴霧は不適切だと言う。

感染症対策の専門家の坂本さんは、たとえ常時噴霧ではなく、一時的な噴霧であったとしても「(消毒剤の)吸入や、皮膚・粘膜との接触が起こることには変わりはない」と語る。

「人体への毒性がないと言い切れる消毒法は、ほぼ熱水消毒に限られます」としたうえで、消毒剤を空間噴霧することには、2つの問題点があるという。

「1つ目の問題点は、吸入毒性がありうるということです。吸入した場合の人体への短期的、長期的影響がはっきりとしていないものの噴霧に関しては、慎重であった方が良いでしょう」

「一般的に細菌やウイルス等の微生物を減らす効果のある薬剤の吸入は、人体に有害だと考えられます。WHOも、そのような観点から消毒剤を人体に対して噴霧することは、いかなる状況でも推奨しないとしています」

「もう1つの問題点は、その効果です。空間を除菌することによって、新型コロナウイルスやインフルエンザなどに人が感染するリスクを減らすという質の高い科学的根拠は、ありません」

空間ではなく環境表面に対する噴霧の場合も、当たる場所と当たらない場所のムラが生じるので、効果が不確実だという。消毒効果を発揮するためには、消毒剤を環境表面に一定時間接触させて拭い取ることが必要となる。

そのため、「空間と同様に、環境表面への噴霧も、感染対策としては推奨されていない」

「全身に消毒剤を噴霧することによって、コロナウイルスをはじめとする病原体の感染が防げるというエビデンス(科学的根拠)は、ありません。吸入や粘膜との接触による人体への影響も懸念されます。エビデンスが不十分、かつ健康被害が懸念されるものに、高額のお金をかけて行うことに関しては、再検討した方が良いのではないでしょうか」

「消毒剤を用いる感染対策は、①使用によってヒトが(対象としている)感染症に罹患するリスクが減少すること、また、②使用によって人体への悪影響がないこと、それらの両方を示す質の高い科学的根拠に基づいて採用を決定する必要があります。また、それには専門的な判断を要します」

感染対策を行う上ではどのようなことに留意した上で、何をする ・しないと決めるべきか。そのポイントを、坂本さんはこう示す。

「新型コロナに関しては主要な感染経路は飛沫感染、次に手指を介した接触感染、状況によっては空気感染が起こる可能性もある。まずは感染経路を踏まえることが重要です。感染経路を効果的に遮断することが、感染対策です」

・対面の近い距離で飛沫を飛ばさない

・適切なタイミングで手指の消毒を行う

・換気を行う。外気を取り入れることができるなら外気を取り入れて換気する。機械換気の場合は、二酸化炭素濃度を測定したり、専門業者による測定を行ったりして、設定どおりに換気されていることを確認する。また、サーキュレーターを活用する

こうしたポイントを抑えることこそ、感染対策の「基本」だとした。

除菌マシンの販売元に問い合わせると…

今回の大会で導入されたのは、非接触での体温測定とマスク着用の確認機能や、手指用消毒液の自動ディスペンサーと、全身用にミストシャワーを噴出する機能を持つ装置だ。

販売事業者の公式ホームページによると「ワンプッシュで約10秒ミストを噴射(約10ml)」「全身にくまなくミスト」するという。

BuzzFeed Newsが同社に液体の成分を問い合わせると、「二酸化塩素水溶液」と回答。「二酸化塩素水溶液は、次亜塩素酸水に比べて体への影響は少ない」と主張した。

同社の担当者は液の新型コロナウイルスへの効果は公的な機関では実証されていないことを認めた上で、同社が独自に実施した実験では効果を確認した、とした。

ただし、その実験結果は「社外には公表していない」という。

厚労省の見解は?

厚労省結核感染症課の担当者は、いかなる消毒剤、除菌剤であっても人体への安全性が確認されていないものを空間噴霧することは推奨できない、と強調する。

「消毒剤や除菌剤の空間噴霧が新型コロナウイルスに対して有効であるというエビデンスは、現時点までありません。そうした中で、人体への毒性がよくわからないものについては、空間噴霧すべきでないと考えています」

日本国内で効能や効果をうたって商品を販売するためには、厚労省および各都道府県から、医薬品もしくは医薬部外品としての製造販売承認を得る必要がある。

しかし厚労省によると、今回の「除菌液」は、日本国内での承認を得ていない。海外で認可などを受けていたとしても、国内ではあくまで、有効性や安全性について「未確認」の状態だ。

厚労省の担当者は「これだけ行えば新型コロナに感染しないという対策は、現在は残念ながらない」とした上で、「公的な機関から発信されている情報をもとに、手洗いや咳エチケット、3密の回避など基本的な感染対策をお願いしたい」と話した。