東京に4度目の緊急事態宣言が出た7月12日、生活困窮者ら約120人が、一時宿泊場所として利用していたホテルの退去を求められた。
多くは次の行き先も確保できておらず、路上生活を送らざるを得ない人もいる。
支援団体は16日、一時宿泊場所を再び提供することなどを東京都に緊急要望した。
退去を迫られた約120人、90人弱は支援につながらず

今回、ホテルの退去を迫られたのは4〜5月に東京都独自の支援システム「TOKYOチャレンジネット」を利用して一時宿泊場所を確保した人々だ。
当初設定されていたホテル利用の期限は緊急事態宣言が発出されることが決まって以降も延長されることなく、利用者たちは退去を求められた。
「TOKYOチャレンジネット」で宿泊場所を確保した場合、利用者は基本的にはアパートなど居宅を探すことになる。しかし、現在はコロナ禍で仕事も見つかりにくい状況のため、生活保護の申請に移行する人も少なくない。
今回、ホテルから退去することを迫られた120人の中には、すでに居宅を確保していた人や仕事を見つけたと思われる人もいる。しかし、残念ながら次の行き先が決まっていない人が大半だ。
「TOKYOチャレンジネット」の一次住宅へつながったのが20人、生活保護申請へ移行したのが10数人、残りの90人弱についてはその後の支援にはつながっていないことがわかっている。
また、「TOKYOチャレンジネット」から生活保護の申請に移行した場合に利用できるホテルの部屋の確保も一時、五輪開催の影響で困難となった。

こうした問題の解決を求め、反貧困ネットワークなど生活困窮者を支援する10の団体が東京都に緊急の要望をした。
要望は次の2点だ。
(1)東京都「協議済みホテル」の拡大
現在、住居のない人が生活保護申請を行った場合、東京都が事前に交渉し、利用が認められている「協議済みホテル」に1ヶ月程度滞在することが可能だ。
しかし、五輪の無観客開催の決定がずれ込んだ影響で、ホテルの確保が難しくなっている。
支援団体は「五輪の無観客開催が決定したことにより、一般客が予約していた都内ホテルに関しては今後キャンセルが増加することが予想される」と説明。
空室が見込まれるビジネスホテルと新たに交渉を行い、都の「協議済みホテル」を拡大することを要請し、同時に支援団体が独自に交渉して利用しているホテルについても、「協議済みホテル」として利用できるようにすることを求めている。
「協議済みホテル」とは東京都が厚労省と事前に協議し、1日4000円程度を目安とした宿泊費が支給されるホテル。この対象が拡大されれば、各区市の相談窓口を訪れた生活困窮者がよりスムーズに一時宿泊場所を確保することが可能となる。
(2)一時宿泊場所退去者や現在の利用者への柔軟な対応
同時に支援団体は事前に決められていた期限であったとしても、緊急事態宣言が発出される中、7月12日に約120人がホテルの退去を求められたことを問題視。
「一度公的な支援につながったにもかかわらず、再び路上生活に至らしめる可能性のある判断を安易にすべきではない」と、都の対応を批判した。
その上で、再度の一時宿泊場所利用を可能とする柔軟な運用を求めているほか、すでに退去した人々に対しては、その旨を可能な限り伝えるように要望している。
東京都「ホテルは十分に確保」

こうした支援団体からの要望に対し、東京都は「都協議済みホテルは十分に確保されている」とし、「都協議済みホテル」を利用するかどうかは各区市の福祉事務所の判断になると説明したという。
また、「TOKYOチャレンジネット」を利用し、ホテルに滞在していたが7月12日で退去した人についても、「柔軟に対応したい」「(再度のチャレンジネット利用は)一律にダメというわけではない」との方針を示しているという。
反貧困ネットワークの瀬戸大作さんは、各区市の福祉事務所の間では受けられる支援の格差が存在すると指摘する。
「ホテルの部屋を提供しているのは、実際には都内の3分の1ほどの自治体です。都として支援の枠組みを用意していても、実際には使うことなく、無料低額宿泊所などへ案内するケースもあります」
支援者らは、各区市の状況を今後も注視していくとした。
実態把握、事後評価、そして検証を

一時宿泊場所としてホテルを提供するという取り組みは、2020年4月の1度目の緊急事態宣言の最中に、東京都が実施を決めたものだ。
それ以前は、支援を受ける場合には相部屋や集団での食事などが基本となる無料低額宿泊所などに入居することを求められるケースが大半を占めていた。
支援団体からは、コロナ後もホテルの部屋を提供する取り組みを継続し、生活に困窮した人々の生活再建を支える必要があるといった声が上がっている。
ビッグイシュー日本の佐野未来さんは要望書の提出後、「寝に帰る場所があるだけで、次につながる可能性が高まる。路上へ出さないための取り組みが重要だ」とコメント。生活の基盤である住まいをしっかりと支援することが、一人ひとりの生活再建をする上で重要であると強調した。
つくろい東京ファンドの稲葉剛さんは、「コロナ禍で実施された事業評価を外部の有識者を入れて行うことが望ましい」と指摘。
一連の対応の課題や改善点を洗い出し、コロナ後の取り組みへとつなげていくことを訴えた。
現状では、どれだけの人が一時宿泊場所の利用後に、居宅を確保し、生活再建をしたのかは見えていない。検証のためにも、まずは実態把握をするよう、支援団体は東京都にリクエストしている。