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感染の「ピークに達した」は事実か? 尾身会長「誤解があるかもしれませんが、私の意図は…」

発症日別の感染者数のデータ、実効再生産数をもとに全国的に感染者数が「下降傾向にある」と専門家は分析。しかし、重症者の増加や家庭内感染、院内感染の波はピークの後にやってくる可能性があるため注意が必要だ。

新型コロナウイルス感染症対策専門家分科会は8月21日、第6回目となる会合を開き、現在の感染状況の評価とワクチンの接種に関する現段階での提言をまとめた。

会見の冒頭、東北大学の押谷仁教授と、国立感染症研究所の脇田隆字所長が、現在の感染状況に関する評価と今後とるべき対策を語った。

尾身茂・分科会長が8月19日、衆議院厚生労働委員会で「沖縄の感染はある程度、下火になっている」、翌20日の日本感染症学会で「全国的にはだいたいピークに達したとみられる」と発言したことが注目を集める中、改めて説明されたのが「ピーク」についてどう解釈すべきかというポイントだ。

全国的には感染者数は減少傾向。でも、注意すべきことも…

押谷教授は「皆さん、報告日別の数字で一喜一憂されている部分があると思います」と日々の報道内容に釘を刺したうえで、「(報告日ではなく)発症日別のデータが、信憑性のあるデータ」だと語り、全国各地の発症日と感染者数を照らし合わせて作成された流行曲線(エピデミックカーブ)の変化について報告した。

「全国のエピデミックカーブを見ると、現在のところ7月27日から29日のところにピークがあるように見えます」

前提となるのは、発症日別の感染者データを整理するには、一定のタイムラグが生じるということだ。このため、現段階で感染状況の波が下降傾向にあったとしても、予断を許さない。

押谷教授は、東京、大阪、愛知、福岡、沖縄のエピカーブを示し、それぞれの地域で感染者数は「下降傾向にある」と分析した。

「(東京都のエピカーブが)こんなに急激に下がるはずがないので、それを考えると、今後も東京の(感染)報告者数がある程度出てくると思われます」

「下降傾向にあったとしても、どの程度時間をかけて下がるかはわかりません。どこかで大きな流行が生じれば、また増加に転じる可能性も残されています」

「沖縄ではかなり大きな感染拡大が起きて、まだどうなるのか不確実なところもありますけれども、少しずつ(感染者が)減っている可能性もあるのかなというところです。ですが、まだ、不確実性は残ります」

分科会には北海道大から京都大に移籍した西浦博教授が算出した、1人が何人の人に感染させているかを示す実効再生産数のデータも提示された。この数字が「1」を下回ることが、感染拡大を抑えるために重要だとされている。

東京、大阪、愛知ではそれぞれ7月終わり、8月初めの段階で「1を切っている」。また、沖縄も「1をようやく8月初めの段階で切るかどうか」という状態だという。

このデータにはお盆の期間の人の移動による影響は加味されていないため、慎重な解釈が必要だが、現段階では実効再生産数にも下降傾向が見てとれるという。

脇田所長は都道府県による自粛要請への協力などもあり、「全国の発症日別のエピカーブや実効再生産数によると、全国的に見れば、今回の感染拡大はピークに達したものと考えられる」と語った。

同時に、減少傾向にあるかどうかはっきりしない地域がある、と強調した。また、中高年の感染者増加に伴い、大阪や沖縄、愛知や福岡などでは重症者が増加傾向にあるとした。

一方、3月から5月にかけての前回の流行と比べ変化も見られるという。

「3〜5月の流行では病院や高齢者施設での感染が多発しましたが、6月以降の感染拡大では、全体としては、こうした施設内での流行は少ない傾向にあります。ただし、一部の地域では、高齢者施設や院内感染が見られるようになっているので注意は必要です」

「お盆期間の人の移動もあり、感染拡大が再発するリスクは考えなくてはならない。引き続き3密や大声を避けるなど基本的な感染予防対策の実施やクラスターが発生した際の早期対応など、メリハリのついた必要な対策を継続することが必要です」

「誤解があるかもしれませんが、私の意図は…」

押谷教授は一部で「全国的にはだいたいピークに達したとみられる」という尾身会長の発言が大きく報じられる中で、この数字の解釈を適切に理解するよう呼びかけた。

「ピークに達したという結論ではなくてですね、現時点のエピカーブでは7月28日、29日にピークがあるように見えるということです。これが本当にこのフェーズのピークなのかは、慎重に見ていかなくてはいけません」

「実効再生産数も8月上旬までしか推計できていない。この傾向が維持されているのかどうかは、まだわからない状況です。この傾向が維持されれば、7月下旬がピークである。ですが、お盆の移動に伴う感染拡大が起きていた可能性もあるので、現時点で結論づけられるものではありません」

尾身会長も自身の「下火になっている」「ピークに達した」という発言の真意を以下のように説明した。

「あの時にすでに、今日、押谷先生と脇田先生が発表したデータは手に入っていたので、実効再生産数と発症日別データで見ると、ピークに達している可能性があるとお伝えしました」

「今一体何が起きているのかお示しするのが我々の役割。2つの指標で7月下旬にピークに達した可能性があって、下降方向へといっているデータをもらったのでご報告した。しかし、だから、感染対策のガードを下げていいということでは決してなくて、医療提供体制への負荷はかかっていますので、これからも十分、注意をということであります」

会見で琉球新報、沖縄タイムスの記者は立て続けに、この「下火になっている」という認識に変わりはないのかと質問。県内関係者の認識とのズレを指摘した。

この指摘に対し、尾身会長は「実効再生産数とかエピカーブを見ると下方にいっている可能性がある。下火になって、何もないという趣旨で言っているわけではない」とあくまでデータに基づく解釈であることを説明。

「誤解があるかもしれませんが、私の意図は、こういうデータ、実効再生産数やエピカーブを見て、そういう傾向にあると伝えること。(下降傾向だから)リラックスしていいというのとは、別の話です」

ピーク後に家庭内、施設内、病院内で感染拡大する可能性も

なぜ、データ上で7月下旬に感染者数が減少に転じはじめたのかについての分析は、今後行っていくという。

ただし、実際に7月下旬にピークがあったとしても、引き続き感染防止策を徹底し、注意する必要があることには変わりない。

押谷教授はその理由として感染拡大のピークと遅れてやってくる、重症者増加の波を挙げる。

「発症のピークを迎え、そこから重症化される方が増えるまでにはタイムラグがある。また、感染者が積み上がれば、軽症であっても、自治体、医療機関へ負荷をかけることになるので、切り分けて考える必要があるのかなと思います」

脇田所長も「現段階でどういった要因があるのか分析は難しい」と語った上で、「ピークを迎えた後で家庭内、施設内、病院内での感染者が多くなる傾向が4月、5月にあった」と指摘。

現在、国立感染症研究所には、疫学を担当する「実地疫学専門家養成コース(FETP)」のメンバーに出動要請が寄せられつつある状況であることを明かし、「今後も感染拡大に注意する必要がある」とした。