新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の第4回目の会合と記者会見が7月31日、開かれた。
会見で尾身茂・分科会長は、感染経路が分からないケースや、家庭内、医療機関、高齢者施設での感染も確認されていることを示した。
7月は接待を伴う飲食店、会食、職場、学校・教育施設などでクラスターが発生しているといい、改めて「3密」を避ける重要性を訴えた。
現在の感染状況の評価は?

尾身会長は会見の冒頭で、前回の分科会で政府に提案した目標を振り返った。
【社会経済と感染対策の両立のための目標】
医療・公衆衛生・経済が両立しうる範囲で、
①十分に制御可能なレベルに感染を抑制し、死亡者・重症者数を最小化
②感染レベルをなるべく早期に減少に展示させる
漸増状態にある感染者数を減少傾向に転じることが何よりも重要との認識を示し、政府が国民に対し、「大きなピクチャー(全体像)」を示すことの必要性を尾身会長は訴える。
感染状況を分析する中で、飲み会や会食など飲食店での感染拡大が生じてることを指摘した。
「3密環境で感染拡大が起きている。感染経路不明の感染者が増加していることは事実です。最近では、家庭内、医療機関、高齢者施設での感染も確認されている。都市部を中心に、感染者の増加が進むことで、中高年層での感染者数増加が徐々に見られ、重症者数も徐々に増加しています」
「このようなことが続くと、保健所、医療機関に負荷がかかる。こういうことがあるので、宿泊療養施設を確保するなど、医療提供体制、連携をして、しっかり準備をしてくださいという評価です」
改めて、一般的な「空気感染」のリスクは否定
今回の分科会では、緊急事態宣言解除後にどのように感染拡大が起きたのかも分析し、評価した。
尾身会長は「感染リスクが高かった場所は宣言解除後と同様に、『3密』と『大声』だったことが極めて重要」と語った。
合わせて尾身会長は、7月上旬に大きく報じられたコロナの「空気感染」の可能性について、現段階で明らかとなっていることを説明した。
7月7日、新型コロナウイルスの「空気感染」の可能が各社によって報じられた。このニュースは、世界の科学者239人が作成し、WHO(世界保健機構)へと提出した意見書の内容をもとにしたものだ。
しかし、この意見書で「空気感染」として指摘された感染経路は、日本ではすでに「マイクロ飛沫感染」と位置付けられ、専門家が注意を呼びかけてきたものを意味しているという。
それは、3密の環境で、ウイルスを含む微細な飛沫が空気中を漂い続けることで感染が起きる、という経路だ。
「3密と大声の環境においては、飛沫感染、接触感染に加えて、マイクロ飛沫感染が起こりやすいものと考えられます」
「野外を普通に歩いていたり、感染対策がとられている店での買い物や食事、十分に換気されている電車での通勤などでは、マイクロ感染が起きる可能性は低い、(あるいは)限定的と考えられます」
「3密で(マイクロ飛沫感染は)起きると専門家は考えていたけれども、『空気感染』だと間違ったイメージが広がると困る。3密はマイクロ飛沫感染が最も起こりやすい、普通に歩いていることで起きる可能性は極めて低いと、今回あえて取り出して説明させてただきました」
これまで日本で専門家が説明してきた「3密」「換気の悪さ」といったリスクのほかに、新たな感染経路が発見されたというわけではない。それが、尾身会長が改めて会見で、この件について説明した理由だという。
最悪のシナリオを防ぐために…

分科会で最も時間を割いて議論をしたのは、感染状況評価を行う4段階のステップと、次の段階へ進むことを阻止するための取り組みだという。
(1)感染ゼロ散発段階:感染者が散発的に発生するが、医療提供体制に特段の支障はない状態
(2)感染漸増段階:感染者の漸増および医療提供体制への負荷が蓄積する状態
(3)感染急増段階:感染者の急増および医療提供体制に支障が発生する状態
(4)感染爆発段階:爆発的な感染拡大および深刻な医療提供体制の機能不全が起きる状態
最悪のシナリオとして想定されるのが(4)の「感染爆発段階」だ。この状況を防ぐために各種の対策が必要となる。
尾身会長は「次の段階に移ったことがわかってから対策を打つのでは、遅すぎます」と強調した。
「危機管理、感染症対策として、何か大変なことが起きる予兆を先に見つけて、手を打つ。これは感染症対策、危機管理の要諦。次の段階に移る予兆があった段階で、先取りをした介入をしていただきたい」

今回、「感染爆発段階」の手前に、「感染急増段階」というステップを設けた。
「最悪な状態に行く前に、もう1つの中間段階を設け、中間段階には絶対に行かないように、みんなで努力をしようということです」
「感染爆発段階になってからでは遅いので、予兆を見つけて、今の段階よりも強い対策を打っていただきたい」
具体的に、どんな対策が検討されているのか。
第2段階から第3段階への悪化を防ぐための提案内容には
・ガイドラインを遵守していない酒類の提供を行う飲食店への休業要請等
・接触確認アプリの導入をイベントや企画旅行等の実施に当たって要件化
・夜間や酒類を提供する飲食店への外出自粛の要請
などが含まれている。
目指すのは「メリハリの利いた接触機会の低減」だという。
また、第3段階から最悪の「感染爆発段階」への移行を防ぐための提案内容には
・接触機会の低減を目指した外出自粛の要請
・県境を超えた移動の自粛要請
・イベントは原則、開催自粛。集会における人数制限
などが含まれている。
この段階においては「緊急事態宣言など、強制性のある対応を検討せざるを得ない」とした。
重要な感染拡大の「予兆」、その中身は?

感染拡大状況を掴むための予兆について、分科会は数日中に検討を進め、発表するを方針だ。
予兆を掴むための指標について、尾身会長は「もちろん検査体制、それから新規の(感染者の)報告者数、それからいわゆる感染レベルの指標も大事」と前置きした上で、「特に医療提供体制への負荷に関しての指標を重視」と言う基本的な考え方について分科会で合意がなされたとしている。
同時に「報道する時には付け加えていただきたい」と要望したのは、都市部とその他の地域で重視する項目が変わるということだ。
「医療提供体制への負荷を都市部では重視しますけれども、まだ感染がそれほど拡大していない、下火な地域があります。そこは、ちょっと違った考え方をとるべきという意見が今日、随分出ました」
「これ(医療提供体制への負荷を重視するという指標の考え方)は、都市部中心の考え方」
「まだ感染者数が少ないところは、その辺はキメの細かい議論が必要だということで、みんな納得しました」
クラスター、7月はどこで発生?

7月はどんな場所でクラスターが起きたのか。
分科会で示された国立感染症研究所感染症疫学センター長の鈴木基さんが作成した事例集では、以下の通りだ。
(1)接待を伴う飲食店:35件 / 499人
(2)会食:31件 / 125人
(3)職場:53件 / 213人
(4)学校・教育施設等:35件 / 236人
これ以外にも病院や高齢者施設、劇場などでクラスターが発生したという。
また、院内感染、昼カラオケ、職場の会議、スポーツジム、接待を伴う飲食店やバスツアーでどのような経路で感染が広がり、クラスターが発生したのかが紹介された。
尾身会長は昼カラオケでのクラスター発生について、以下のようにコメントした。
「比較的年齢が高い人が行って、感染した。マスクを着用せず、長時間歌う人が多かった。複数店舗利用者が別店舗へ行って、感染が広がっていった」
「オーナー、従業員も感染。有症状者が利用した店舗での感染者が多かった。こういうことから、国民の皆様にお伝えいただきたいのは、マスクの着用、長時間利用の回避、有症状者には出入りの回避を徹底していただきたいということです」

会見に出席した西村康稔・経済再生担当相は、以前は相次いでいたスポーツジムやバスツアーでの感染拡大が、今では対策が行われたことで抑えられている、と語った。
「緊急事態宣言の頃までスポーツジムで感染者がたくさん出ていました。密集し、消毒もないところでトレーニングをしていた。現在は感染対策のガイドラインを徹底してもらっています。その結果、最近ではスポーツジムでは出ていません。きちんとやれば、防止できるんです」
「初期の頃、武漢からの観光客を乗せたバスツアーでクラスターが発生しました。現在、徹底的にマスクの着用をお願いし、換気を徹底することで感染者は出ていません」
「徹底すれば、感染防止と社会経済活動は両立できるという話ですから、ぜひ、この点をお願いしていきたい」
旅行のリスクはどの程度?
県をまたいだ移動によるリスクについては、どう捉えているのか。
西村担当相は「段階に応じて考えていかなくてはいけない」とした上で、専門家分科会が近くまとめる指標を参考にしながら、判断をしなければいけない、と述べた。
一方、尾身会長は「感染がかなり増えているところと、それ以外のところは、感染が増えているところから外へ出ることは控えていただければと思いますし、少ないところから増えているところへ行くことも控えていただければいいなと国へ提案しております」とコメントした。
「感染者数が少ないところ、県だけでなく、そうした地域は、それほど旅行を控える必要はないと思います。いずれにしても、大事なことは旅行すること自体より、3密状態になることがありえるわけですね。夜の宴会、若者はやっぱり旅行へ出ればリラックスしたいと、お酒を飲む機会もありますし、そういうことは控えていただきたい」
「高齢者の団体旅行など、万が一を考えるとリスクが高い。そういう中で、夜の宴会なんかで感染が起きる。食事、お酒が関与している状況で感染がしやすいとわかっていますから、どこの県でも、感染(するリスクは)あると考えてやった方がいい」
「ただし、家族の旅行などは注意深くやればいい。お盆をどうするのか、結論は出ませんでしたが、多少は(分科会でも)議論も出て。県をまたいで、そういうことが原則なので、原則を踏まえて、考えて、工夫をしていただくことが一番大事だと思います」