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コロナ病床の稼働率“6割超”で医療崩壊が起きた理由。専門家は「病床が100%稼働する病院はない」と指摘

新型コロナ分科会は11月16日、「ワクチン・検査パッケージ」制度に伴う行動制限の緩和やこれまでの医療提供体制の改善点についての考え方を示した。尾身茂会長や神奈川県医療危機対策統括官の阿南英明さんが語ったこととは。

新型コロナ対策分科会は11月16日、「ワクチン・検査パッケージ」制度に伴う行動制限の緩和やこれまでの医療提供体制の改善点についての考え方を示した。

ワクチンの接種証明や検査の陰性証明によって行動制限を緩和する「ワクチン・検査パッケージ」制度の活用や「感染防止安全計画」策定などによって、飲食店での人数制限やイベントの収容人数の定員制限が緩和される見通しだ。

不要不急の都道府県をまたぐ移動についても、今後、国は自粛を要請しない。

私たちの生活は今後どのように変わっていくのか。

分科会の尾身茂会長、神奈川県医療危機対策統括官の阿南英明さんが会見で語ったことをまとめた。

ワクチン・検査パッケージは 「効果もあるけど、限界も」

Yuto Chiba / BuzzFeed

尾身会長は「ワクチン・検査パッケージ」制度について、「効果もあるけど、限界もある。これを十分に知っていただいた上でやったらどうかと」と語る。

「ワクチンの効果には限界がある。皆さんご承知のように、抗体価が時間が経過すると低下して、ブレークスルー感染が起きることもある。それから、検査も万能ではありません。限界があるので、陰性であっても二次感染させるリスクがある。このことはしっかり認識する必要があります」

「ワクチン検査パッケージにより、一定程度リスクを低減することは可能ですが、感染リスクは存在する。そのため一定程度の感染対策は引き続きやっていただきたいです」

こうした前提に基づき、この制度は

・感染状況が落ち着いている「レベルゼロ」「レベル1」において、民間企業が割引など特典を提供するために利用する

・感染者が増加傾向に転じている「レベル2」において、都道府県が課す行動制限を緩和する条件として利用する

・強い対策も検討する必要がある「レベル3」において、都道府県が課す行動制限の緩和を継続するために利用する(状況次第で活用を停止)

といった運用がなされる可能性がある。

いずれにしても、「状況をしっかりモニタリングし、分析しながら運用していくことが極めて重要」とした。

「ワクチン・検査パッケージは実証実験を国に大掛かりにやっていただきました。しかし、実際にこれを応用するのは初めてです。パッケージを少しずつ実施していく。その効果と限界については適宜評価して、見直しが必要なポイントがあれば見直す態度が重要だと思います」

「ワクチン・検査パッケージ」で何が可能に?

今回議論された行動制限の緩和によって、私たちの生活はどのように変わるのだろうか。政府が示す方針は次の通りだ。

【飲食】

都道府県の基準などにもとづき運用されている「第三者認証制度」の認証店は、今後、酒類の提供や営業時間に関しての制限が緩和される。

また、「ワクチン・検査パッケージ」制度を活用すれば、人数制限も緩和する。

【イベント】

大規模イベントの主催者がイベントごとに具体的な感染防止策を記した「感染防止安全計画(※)」を策定することで、人数制限が一定程度緩和される。

さらに「ワクチン・検査パッケージ」制度を適用する場合には、本来の収容定員の上限まで参加者を入れることが可能となる。

なお、大声を出すイベントについては収容人数の上限は引き続き収容定員の50%となる。

※感染防止安全計画:飛沫感染を予防するためのマスク着用や手指衛生の徹底、換気の徹底、飲食可能エリアにおける感染防止策の徹底など

【移動】

これまで緊急事態宣言やまん延防止等重点措置において、不要不急の外出や都道府県をまたぐ移動は自粛を呼びかけられてきた。

しかし、今後は混雑する場所や感染リスクの高い場所以外への移動は国の自粛要請の対象とはならない。また、県をまたぐ移動についても「ワクチン・検査パッケージ」制度を活用することで国の自粛要請の対象とはしないという。


いずれについても、「ワクチン・検査パッケージ」制度が重要な役割を果たす。

なお、利用者がワクチン接種歴か検査結果のどちらか一方しか選択できないとすることは「ワクチン・検査パッケージ」に該当しない。そのため利用する事業者は、ワクチンあるいは検査という2つの選択肢を利用者へ提示する必要がある。

検査について政府は無料とする範囲を拡大する方針を示しており、ワクチンを接種できない人のための検査費用を補正予算へ組み込むことも検討している。

この方針は16日の分科会において了承され、近く基本的対処方針分科会での議論を経て、政府の基本的対処方針へ反映される見通しだ。

内閣府の担当者は感染拡大時の「ワクチン・検査パッケージ」制度の運用については検討中であるとし、どのような状態になれば運用を停止するのかを定める基準については「現時点では考えていない」とした。

病床稼働率6割なのに、なぜ受け入れ不可能に?

Yuto Chiba / BuzzFeed

神奈川県医療危機対策統括官を務める阿南英明さん

今回、専門家からは「ワクチン・検査パッケージ」制度以外のポイントについても説明がなされた。

それが「第5波までの医療提供体制の検証と教訓に基づく今後のあり方」という資料に関するものだ。

この資料には、分科会や厚労省の助言組織・アドバイザリーボードに所属する専門家らによる第5波までの医療対応に関する検証が記されている。専門家は日本の医療制度の特徴などを踏まえつつ、改善点をまとめた。

この検証をまとめた神奈川県医療危機対策統括官を務める阿南英明さんは自宅療養者や宿泊療養者への対応について、「(死亡など)不幸な結果となった方がいるのも事実」としつつも、「諸外国に比べるとかなり手厚い管理がされている」「かなり多くの人が改善した」と評価した。

今後については「行政の管理下に置くことが重要」「非常に大きな波でも対応できる仕組みを目指していく」と語っている。

多くの医療機関がコロナ対応に追われる中で、病床確保や医療関係者の人員確保の課題も浮上した。この問題について阿南さんは次のように述べる。

「コロナ病床を拡充することは医療機関にとって相当な負荷となる。ゾーニングなどでひとつのコロナ病床をつくるために2~3倍の病床を犠牲にする。そして、スタッフの手も非常にかかる。そのために他の病気で入院する人にかかるリソースをなくして、リソースを集めるといった対応がとられてきました」

新型コロナ分科会_参考資料 / Via cas.go.jp

行政が確保病床として示してきた病床数と実際に稼働したコロナ病床の間には大きな乖離があったのも事実だ。

「病床使用率が50%〜60%なのに、もういっぱいだと言われたら疑問に感じることは当然です。この背景には綿密なコミュニケーションがないままに数字だけが積み上げられてしまった可能性があります」

「行政からすると医療提供体制はブラックボックスな側面もある。でも、もう一歩踏み込んで本当に運用できる病床の数字を出してくださいというコミュニケーションが必要になります。結果としてこれまで2000床確保されていたはずの病床が1500に減るといったことが起きるかもしれない。でも、それを咎めるのではなく、実効性ある病床運用を最後の担保として確保していくという考え方が必要です」

「病院からすると病床稼働率80%が良いところだと思います。基本的に病床は一般成人を対象に想定されているため小児の患者や周産期の妊婦など、併発している疾患などによって受け入れが困難なケースもあります。また、病状が悪化した場合に備えて予め確保する病床も必要です。このような事情から医療において病床が100%稼働する病院はありません。病床稼働率は90%や100%を求めるものではない、というベースをもとに考えていく必要があります」

一般医療の制限、どうすべきか議論を

Yuto Chiba / BuzzFeed

病床や人材確保と並んで問題となってきたのが、一般医療の制限だ。

第5波では感染状況の悪化に伴い、一般医療を制限し、病床や人員をコロナ対応へと回すということも行われた。

この点について、阿南さんは以下のように振り返る。

「首都圏などでは第5波において一般医療の抑制も行われました。『一般医療を抑制してでも、コロナに対応する』と口で言うのは簡単ですが、果たして何が起きてくるのか。本当だったら入院するはずがキャンセルや先延ばしになる」

「イギリスでは入院できない患者が増え、数ヶ月から年単位で入院待ちとなっている場合もあります。がん診療が止まったことで、この先大きな影響が出てくることも懸念されている。コロナへの対応も大切ですが、他の疾患もなくなるわけではない。医療倫理の問題をしっかり捉え、どうすべきかを考えていく必要があります」

「医療の仕組みはこうあるべきだと話をする際、患者さんである市民がどう感じるかということは非常に大切です。ここが噛み合っていなければ何もできません」

これまでの課題を踏まえ、今後は次の6点について改善していく必要があるとした。

(1)自宅・宿泊療養において患者が急増した際にも、適切なモニタリングを実施できる体制や情報共有システムの構築

(2)事前のゾーニングなどを行うことで利用可能病床を増やし、現実的に運用可能な病床数を積み上げる

(3)段階的な病床確保の計画について都道府県と医療機関が事前に約束事を結ぶ

(4)情報共有のシステムを活用し、限られた病床を効率的に運用し、広域で入院や退院の調整を一元管理する

(5)確保された病床が少なくとも80%程度稼働する調整機能を構築する

(6)臨時の医療施設などを設置する場合には人命を扱う側面から患者管理が可能な人員配置や組織体制を構築する

「ワクチン接種が進み、様々な検査もしやすくなって、早く診断できるようになった。そして中和抗体や今後承認される見通しの経口薬で普遍的な早期治療を手に入れることもできました。様々な医療に関する反省点を踏まえ、これらを多様に組み合わせて対処する。これが今後の戦い方です」

阿南さんは会見で、このように語った。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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