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「いまは危機です、災害です」“制御不能”な感染爆発。尾身会長は外出を5割減らすよう呼びかけ

東京都の人流を今回の緊急事態措置開始直前の7月前半の約5割にーー。分科会は感染拡大を食い止めるため、新たな提言をまとめた。会見で語られたこととは。

「東京都の人流を今回の緊急事態措置開始直前の7月前半の約5割に」

新型コロナ分科会は8月12日、感染対策を2週間限定で強化することを提言した。

同日、東京都のモニタリング会議では東京の感染状況は「制御不能」と専門家から評価された。

緊急事態宣言が発出されているものの、東京などの人流の減少傾向は鈍化している。医療提供体制がすでに逼迫する中、状況を改善するために政府や市民が取り組むべき具体的な目標値を示した形だ。

「最低5割、人流を下げる必要」

時間帯別に人流データを見ると、午後6時から午後8時、ならびに午後8時から午後10時にかけては40歳から64歳の壮年層の人出が目立つ。

壮年層の次に多いのが15歳から39歳の若年層だ。

こうしたデータを示しながら、分科会の尾身茂会長は「人流が期待されるほど下がっていない。このままの状態が続くとなると、感染拡大がさらに加速し、すでに深刻な状況になっている医療の逼迫が深まる」と指摘。

人流を今年4月の緊急事態宣言発出直後並みに落とすため、「最低5割、人流を下げる必要がある」とした。

市民への協力要請の前に…

「40代、50代を中心に重症者が増加している。入院・宿泊療養のベッドが急速に埋まり、入院調整が極めて困難。自宅療養で亡くなる人も出始めています」

「このままいくと、自宅療養者がもっと増え、自宅での不幸な出来事が増えることがある程度予想される。それを何とか防止したい」

尾身会長はこのように危機感を示す。

これまで、専門家は繰り返し救えるはずの命が救えなくなる「医療崩壊」への警鐘を鳴らし続けてきた。だが、今回、尾身会長は「救える命が救えなくなる状況が始まりつつある」と語った。

とはいえ、緊急事態宣言が発出されているにもかかわらず、感染を抑え込む要素は見えてこない。

「今まで通りお願いベース、ステイホームを要請しても、おそらく一般市民の心には届かない。したがって、人流抑制・接触抑制の前に国や自治体にはやるべきことを、もっと汗をかいてやっていただきたい」

このようにコメントし、まず最初に国や自治体がこの状況を改善するための対策にさらに注力することを要請。その上で、一般市民にも協力を要請するという順序が重要であるとの認識を示した。

尾身会長は会見で繰り返し、「災害医療」の考え方へと転換する必要があると強調する。

「災害医療」の対応へ移行するということは、緊急ではない入院や手術などが延期されるといった対応が医療現場で取られることを意味する。

中にはがん治療のスケジュールを遅らせるケースもあると尾身会長は語る。

増え続けるコロナ患者に対応するため、「災害医療」の体制へ移行する過程では、多くのコロナ以外の疾患やケガを抱える患者へのしわ寄せは避けられないという。

「今まで一般診療を頑張っていただいた医療機関にも、ここまでくると新型コロナ対策に携わっていただきたい」

「軽症者対応などは、地域の医師会の先生に今までも頑張っていただいている。病院だけで完結することはできません。オンライン診療とか、あるいは宿泊療養施設を増設するならば輪番に入ってもらうとか、医師会の先生とも連携して一生懸命やっていただきたい」

「いまは危機です、災害ですから。みんな、できることはそれぞれの持ち場でやっている。しかし、もう一歩やっていただければありがたいです」

「おそらく全国で余裕があるというところはない。それでも(医療資源を集めるなど)無理をするしかない。いっぺんに1000人、2000人を集めることはできませんが、2週間ちょっとだけ全国の医療従事者に協力をお願いしたいと思います」

分科会が国や自治体に対して提言したのは、次の6点だ。

(1)これまでの指標に加え、入院調整中の患者数や昼夜の人流など医療逼迫および人流の状況を適切に分析するための指標をモニタリングする。

(2)「災害医療」の考えに基づき、これまで通常診療を担ってきた医療機関へ新型コロナ対策に携わることを要請する。

(3)国や自治体が必要な医療人材を全国から確保する。また、地域の医師会のより積極的な関与を求める。合わせて医療機能を強化した宿泊療養施設を早急に増設する。

(4)診療所の医師は陽性者を確認したら、保健所の判断がなくとも濃厚接触の可能性のある者に検査を促す。また、必要な治療や保健指導も行う。

(5)学校、職場、保育園等で体調が少しでも悪い場合には気軽に抗原検査やPCR検査を受けるよう促す。

(6)都道府県は保健所から都道府県調整本部への入院調整の連携強化を進める。たとえば、PCR陽性者から夜間に119番がかかってきた場合、救急搬送機関は保健所に判断を仰がず、都道府県調整本部の入院判断・入院先調整にしたがって搬送する。

混雑した場所への外出などを普段の半分に

分科会は国や自治体だけでなく、一般市民に対しても協力を要請している。

・普段から一緒にいない人(同居家族以外)との飲食や会合
・長時間、大人数が集まる場面
・混雑した場所や時間帯
・休憩室や喫煙所、更衣室でのマスクを外した会話

デルタ株は従来のウイルスよりも2倍程度、感染力が高いとされている。

しかし、尾身会長は感染力の高いウイルスへと置き換わりが進んでも、リスクの高い場面は変わらないと説明。

改めて上記4つの場面を避けるよう呼びかけた。

合わせて、分科会は人流の5割削減という目標を達成するためにデパ地下やショッピングモールなどの売り場への人出を強力に抑制する対策が必要であるとした。

また、基礎疾患のある人や妊婦など感染した場合にリスクの高い人々を守るためにもテレワークをさらに強化することや一人ひとりが混雑した場所への外出などを普段の半分に減らすことを要請している。

かねてから繰り返し呼びかけられている県境を超える移動についても、特にこの2週間は慎重に検討するようにとし、できる限り控えるよう求めている。

「外出はなるべくやめてほしい。外出する場合にも5割減。人出の多い場所への外出頻度を現在の5割に減らしてください」

「外出が1日4回なら2回に。週4回なら週2回に。意識してやっていただきたいと思います」

なお、尾身会長はクラスターの発生が少なく感染リスクの低いイベントや施設の利用については、感染防止策を徹底した上であれば利用可能であると述べた。

具体的には映画館や公園、図書館や美術館、さらには観客が声を出さない演劇やコンサートなどが例示されている。

「最悪のシナリオへ至らないように、できることを全力で」

尾身会長は、会見でこのように語った。