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「Go To トラベル」の東京除外、感染者数の速報値では見えない全体像… 新型コロナ分科会の会見で語られたこと

報告日別の感染者数が増加していること、人口10万人あたりの感染者数が8.7人と他県と比べ「圧倒的に多い」こと等を理由に、東京がキャンペーンから除外されることが決まった。

新型コロナウイルス感染症専門家の分科会の第2回目の会合が7月16日、開かれた。

分科会の尾身茂会長は、東京で再び増えている感染は「接待を伴う飲食店」を中心に広がったものだという見方を示したうえで、それ以外の場所でもクラスター感染や家庭内感染などが確認されており、このまま放置すれば「市中へのまん延、さらなる地方への感染が生じる可能性がある」と語った。

政府はこうした専門家の意見も踏まえ、旅行需要の拡大策「Go To トラベル」キャンペーンを、東京都を目的地とする旅行と東京都民を対象から外し、それ以外の地域で7月22日から始める、と発表した。

なぜ東京だけ対象外に?

西村康稔・経済再生担当相は、東京都を今回の対象から外すことについて、

・東京都における報告日別の感染者数が増加していること

・人口10万人あたりの感染者数が8.7人と他県と比べ「圧倒的に多い」こと

を、主な理由として挙げた。

神奈川・千葉・埼玉の周辺3県では、これらの指標の増加は一定程度に収まっている。

尾身会長は「例外はあるかもしれないが、東京の感染は接待を伴う飲食店を中心に広がったというのが、我々の判断。3密や大声を出すことが共通する場から、感染が生じていた状況」という見解を示している。

その上で、「このまま放置しておくと市中へのまん延や地方への感染が生じるケースがある。それが我々の評価のポイントです」と説明した。

分科会は今回、「Go To トラベル」事業に関して、政府に4つの提言を行った。

(1)「Go To トラベル」事業を、「新しい生活様式」に基づく旅のあり方を国民に周知する機会に。特に接触確認アプリの利用を強く推奨して頂きたい。

(2)東京と他の道府県間の移動を積極的に支援する事業は当面、延期すべき

(3)それ以外の「Go To トラベル」事業は実施しても差し支えない

(4)東京都での感染が落ち着けば、東京との行き来に関わる事業を実施しても差し支えない

「感染者ゼロになることはない中で工夫を」

会見中、何度も強調されたのは、「新しい生活様式」に基づく旅のあり方を周知することの重要性だ。

尾身会長は様々なクラスターで共通していることは「3密」と「大声を出す」ことであると繰り返し、「熱がある場合には旅行は控えてもらいたい。具合が悪くなったら相談していただきたい」とコメント。

加えて、「旅行自体は問題ないが、飲んだりそういう場所(3密な場所)へいくこともありうる」ため、若者の団体旅行や高齢者の団体旅行など「大人数の旅行は避けるのが望ましい」とした。

西村大臣は分科会において、東京を対象外とすることは「議論が分かれたわけではない」としながらも、「家族で旅行、家族で現地で過ごして、感染対策する旅行までダメといった間違ったイメージを与えないで欲しい」という声も上がっていたと明かす。

「感染者がゼロにはならない」中で、政府は「感染の波を大きくしない努力をする」とし、重要なことは感染防止と社会経済活動の両立であることを改めて訴えている。

「感染拡大防止策と社会経済活動を両立させる。今は当然、(東京発着の旅行を)促進することは対象外。しかし、家族で旅行することまで否定するわけではない」

「新たな日常で、それぞれの業界が悩んでいる。感染者がゼロにならないと仕事ができないのか、お客さんが来ないのかという声も。感染防止策を徹底していただき、両立していかなくてはなりません」

なお、神奈川県在住者が東京駅や羽田空港から旅行へ行く場合にキャンペーンの対象となるか否かや、既に予約していた東京都在住者の旅行のキャンセル料の補填などについては、国交省が検討をした上で発表するとした。

ガイドライン守らぬ店舗への営業停止処分には難色

尾身会長は会見で「これからのあるべき対策の概要」と題したスライドを示し、

(1)3密回避の重要性の強調

(2)きめ細やかな対策の迅速な追加

(3)最悪な事態への備え

の3つを、並行して進めていく必要があると呼びかけた。

これらは、なるべく速やかに達成すべきものであるとした上で、全国的には感染拡大状況が穏やかなうちに、先手を打った対策を行うことを要望している。

今後、感染が拡大し続けた場合、医療提供体制や検査体制においてどのような対策が必要かを「予め明確に示すことが極めて重要」と語り、「どこまでいくと、どのような対策が必要か」、最悪な事態を避けるための一助とするために専門家の間で検討を進める方針だ。

感染防止対策を徹底しない店舗などへの要請以上の対応などは考えられるのか。

西村大臣は特措法に基づき、「ガイドラインを遵守しない店に対し営業停止の処分などを下す手法はないのか」という全国知事会からの要請があると説明。

しかし、「法体系全体の話となるため、全体を変えないと難しいのかなという印象があります」と、現段階で具体的な措置を可能にすることには難色を示した。

「報告日別の感染者数は最重要指標ではない」

今後、感染者の増加を予測する上でどのような指標へ注目していくべきなのか。

尾身会長は「発病日をもとに感染カーブを描いて、どうなっているのかを判断するのが感染症対策のイロハ」であると説明した。

現在、各社が毎日報道している速報値は報告日ベースの感染者数だ。これについて荻会長は「報告日だけで考えると正確なピクチャー(全体像)は捉えきれなことは間違いない」と語った。

一人の人が何人に感染させるのかを示す「実効再生産数」、感染者が倍になるまでにかかった時間を示す「倍加時間」もそれぞれ、「感染の一部を見ているにすぎない」(尾身会長)とした。

そのうえで、重要なことは「総合的なジャッジメント(判断)」であるとし、「(報告日ベースの感染者数は)数だけでわかりやすいというメリットはあるけど、発症日の方で考える方が合理的では」と語った。