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東京の緊急事態宣言解除には何が必要? 専門家の「総合的な判断」、その指標とは

緊急事態宣言が解除された地域と、解除されなかった地域の違いはどこにあるのか?「総合的な判断」を下す上で指標にどのようなものがあるのか、専門家が提示した。

政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が5月14日、開かれ、これまでの緊急事態宣言下での取り組みを評価した。この評価を踏まえ、政府は14日、39県で緊急事態宣言を解除することを決定した。

脇田隆字座長、尾身茂副座長らは会議後、記者会見を開き、解除に当たってどのような観点で評価を行ったのかを説明。また、今後の地域別の対策の方針について提言した。

「総合的な判断」踏まえる基準は3点

尾身副座長が冒頭、緊急事態宣言を発出した目的を改めて振り返った。その目的は以下の5点だ。

(1)爆発的な感染拡大(オーバーシュート)の防止
(2)医療崩壊の防止、重症者・死亡者数の減少
(3)新規感染者数の抑制、クラスター対策で制御可能な水準に
(4)都市部から他の地域への移動抑制、広域的感染拡大防止
(5)知事のリーダーシップによる全国一丸の対策

解除にあたっては「これらの目的が達成されたのかを見ていく必要がある」と語った。そうした中で3つの項目について、それぞれの解除の水準を提示した。

(1)感染の状況(疫学的状況)
①新規報告数:直近1週間の新規感染者数が前週を下回る
②直近1週間の10万人あたり累積新規感染者数:0.5人未満程度

※あわせてクラスターの発生状況や、1人が何人に感染させているのかを示す数値である実効再生産数、感染者のうち感染経路が不明な人の数(アンリンク)も踏まえて判断するとしている

(2)医療提供体制(医療状況)
①重症者数が減少傾向であり、医療提供体制が逼迫していない
②今後の患者急増に対応可能な体制の確保

(3)検査体制の構築
①都道府県別のPCR等検査件数の動向

尾身副座長は「何か1つの指標だけで判断するということではなく、色々な指標を総合的に判断することが必要」としている。

今回、緊急事態宣言が解除されなかった東京都や北海道、大阪府などにおいては、「未だに警戒が必要な状況が続いている」としている。

東京都の場合、直近1週間の10万人あたり累積新規感染者数が0.5人未満という基準をクリアするには、1週間で報告される新規感染者数を70人まで減少させる必要がある。この点について脇田座長は基準を満たすことができれば「文句はない」としつつ「厳密に数字にとらわれる必要はない」と語った。

あくまで判断は「様々な指標を見て」下される。重要なのは報告される新規感染者数が減少傾向にあるということの確認だ。

東京都では「しばらく実効再生産数も1をきっている」と現状を説明した上で、緊急事態宣言の解除に向けては「引き続き接触を8割減らすことに向けてお願いをしたい。基本的な感染対策もお願いしたい」と呼び掛けた。

一方で、解除された39県については「3月下旬からの感染拡大が始まる以前の状況にまで、新規感染者数等が低下しつつあることが確認された」と発表している。

また、医療提供体制についても、「現時点では入院を必要としている患者数に対しては十分な病床数が確保されており、入院患者数も重症患者数はともに減少傾向であることが確認された」とまとめている。

緊急事態宣言、再指定も

今後、どのように地域別での対策を進めていくことになるのか。そのイメージを示した図を専門家会議として作成した。

そこで示されているのは緊急事態宣言の再指定を行う可能性だ。39県は今回、緊急事態宣言が解除される。だが、感染状況や医療の状況を踏まえ、「総合的に判断」を行う中で「地域での感染の再燃が認められる場合には、宣言の対象区域として再指定を行う」方針を示した。

尾身副座長は会見でロックダウンなど緊急的な措置を解除した後でクラスターが発生した事例に言及し、「最悪のことも想定する」と語った。

再指定を行う際には4月に緊急事態宣言が発出された際よりも、「より早く再指定するということが必要だ」というのが専門家会議で合意が得られた見解だという。

この点について尾身副座長は「重症化する感染者を減らしたい。一番は重症化する感染者を減らすこと、そして死亡者数を少なくすること。そうした意味で、早く、厳しく」という方針を示したとしている。

なお、再指定する際にどれほど早く、厳しい条件で行うのか。その基準は明記されていない。

この点について脇田座長は再指定をする際には5月13日に承認された抗原検査キットが普及している可能性に触れた上で、検査体制についての状況が変わることが予想されるためとしている。

「検査体制等含めて、この環境はかなり変わります。そのため、今回再指定をする際に考慮をする倍加時間(感染者が2倍になるまでのスピード)について数値はあえて明記しなかったと言う方が良いと思います」

不要不急の旅行や帰省、今後も避けて

緊急事態宣言が解除された後も「新しい生活様式」が求められる。こうした生活は新型コロナウイルスへのワクチンもしくは治療薬が開発されるなど、早期診断から重症化予防までが行えるようになるまで続く見通しだ。

「感染拡大防止策と社会経済活動の再開のバランスをとり、両立するところでやっていきたい。それが一番の肝だということをお伝えしたい」

このように尾身副座長は述べた。

では、感染拡大防止と社会経済活動のバランスをとる上で、どのような点に注意すべきなのか。

「社会経済活動のレベルは段階的に引き上げていくことが必要」というのが、専門家会議の見解だ。

国際医療福祉大学の和田耕治教授は社会経済活動の再開レベルをどのように引き上げていくのかという点について、「不要不急の度合いと感染拡大リスクが指標になる」とその大まかな方針を示した。具体的な判断はそうした点を踏まえて、知事が考えていくものとしている。

計画を作った上で、「徐々に開いていくことが必要」と語った。

日本でも新型コロナの影響が続く中、これまでの対策から得られた学びは2つあると尾身副座長は強調する。

「1つ目は感染リスクが高い場所がどこなのかということがはっきりと確認されてきた。それから、基本的な感染対策、人と人との接触を削減するフィジカルディスタンスをとることや、マスクの着用、手洗いなど当たり前のことが感染防御に役立つということです」

「大幅な自粛要請ということではなく、感染拡大が加速するならばクラスター連鎖の場を徹底的に回避していただく。もう1つ、基本的な感染対策を徹底していただく。社会経済活動と感染拡大防止の両立はこうした肝を押さえつつ、社会経済を段階的に再開することが望ましい」とした。

そのため、今後も市民生活の中で「人と人との接触を避けること」や不要不急の帰省や旅行を回避することが重要だという。

「感染拡大している地域から出ないこと、感染が拡大している地域に行かないこと」を求めた。その上で、感染状況が地域によって異なる場合、感染拡大をしている地域から出ないことの重要性を訴えた。

感染拡大防止のためにも経済的支援策を

全国的かつ大規模なイベントについては「イベントの前後含めて接触する機会を制限できない場合がある」とし、これらによって「急速な感染拡大やクラスター連鎖」が懸念されることから爆発的な感染拡大のリスクがあるとしている。

「これらのリスクへの対応が整わない場合は引き続き中止または延期をするよう、主催者に慎重な対応をお願いしたい」と尾身副座長は語った。

同様に規模の大きなイベントについても、身体接触が避けられないという観点から上限を100人以下にする、収容人数の50%以下に止めるといった方策を事業者が最終判断をする際に考慮することが必要としている。

こうした状況を踏まえ、尾身副座長は「経済的支援の検討が必要である」と訴えた。

「社会経済等の再開と感染防止はメリハリ、バランスの両立が重要です。措置から外れた都道府県においても残念ながら、当分の間は施設の使用制限の協力をしなければならない事業者さんがいっぱいおられます。そのため、政府には今後とも迅速で十分な経済的支援策を検討および実施していただきたい。これも専門家会議のコンセンサスです」