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第5波で増える40代、 50代の重症者…「現場としては結構しんどい」コロナ治療最前線の医師が抱く不安と希望

「第5波はすでにこの総合医療センターにも到達しています」新型コロナ治療の最前線で働く医師は取材にこう明かす。今、医療の現場では何が起きているのか。

新型コロナウイルス感染症の第5波が広がり始めた。

政府分科会は7月、8月が「最大の山場」であると発信するが、医療の現場では何が起きているのか。そして、この夏、危惧することとは何か。

埼玉医科大学総合医療センターで総合診療内科教授を務め、新型コロナ治療の最前線で治療を続ける岡秀昭さんに聞いた。

※取材は7月14日午前に実施。情報はその時点にものに基づく。

第5波到達、最前線の今

Yuto Chiba / BuzzFeed

埼玉医科大学総合医療センター・総合診療内科教授の岡秀昭さん(取材時はマスクを着用し、感染対策を講じています。写真撮影時のみマスクを外しました)

ーー現在の埼玉医大総合医療センターにおける状況を教えてください。

第5波はすでにこの総合医療センターにも到達しています。現在は中等症以上の方を中心に5名の患者を治療していますが、そのうち4名が40代および50代です。

残り1名は80代で1回目のワクチンを接種済みの方ですが、デルタ株に感染しており、重症化しています。

感染者数全体は10代、20代、30代といった若年層が多い。若い人々が引き続き重症化しにくい一方で、ワクチンの接種が進むことで高齢者の重症者が減り、40代や50代の基礎疾患をお持ちの人の重症者が増えています。

うちの確保病床は重症者用は6床、そしてそれ以外の中等症などのための病床が20床以上あります。

ですから、病床自体にはまだ空きはある。まだまだ空いているので、仮に今日搬送の依頼が複数来たとしても問題なく受け入れることができます。

ですが、入院を必要とする人々が以前よりも若いために変化が見えてきました。

これまでは入院を必要とする患者の多くは高齢者でした。そのため、回復したとしても退院までにはリハビリや転院調整などが必要となることが多く、長い時間を要しました。

しかし、40代、50代の方の場合には入院したとしても、重症でなければ適切な治療を受けて回復することで比較的スムーズに退院していきます。ですから、現時点ではベッドの回転率がこれまでよりも良い状態です。

でも、現場ではすでに負荷が高まりつつあり、しんどい状況です。このままのペースで感染者が増えれば、病床は埋まり、医療逼迫が訪れることは確実です。

数字だけを見ていれば、回転率が上がっているため病床にはまだ余裕があると思うかもしれませんが、3人退院したと思ったら、すぐに2人入院してくるような状況が続いています。

もしかすると、このような要因から第5波ではなかなか病床全体の使用率は上がりにくい可能性があります。ですが、入退院が激しい中で病床使用率では見えない現場のスタッフへの負荷は高まりつつあります。

ーー高齢者ではなく、40〜50代が重症化することで、現場では他にもどのような変化が起きるのでしょうか?

重症化した際、人工呼吸器を着けるかどうかを判断する上ではご本人、ご家族と相談します。

たとえば80代、90代の患者さんであれば、希望しないというケースも少なくありませんでした。

しかし、40代、50代の患者さんとなると、ほぼ全ての人が救命を前提とすることが予想されます。

おそらく高齢者よりも40代〜50代の人の重症化率は低くなると思います。しかし、重症化した場合に人工呼吸器を着ける人の割合は高齢者よりも高いでしょう。

ほとんどの重症患者が人工呼吸器を必要とするということは、重症者の受け入れを中心に医療逼迫も起きやすい。このペースで感染者が増えれば、2週間程度で当院の新型コロナ病床は逼迫する可能性があります。

ーー変異ウイルスへの置き換わりは進んでいますか?

2週間前に当院でも初めてのデルタ株の患者を受け入れました。そして、現在では2割から3割の患者さんがデルタ株です。

前回の従来型からアルファ株への置き換わりも、最初の1例から1ヶ月ほどかけて進みました。今回もおそらく同じようなペースで置き換わりは進んでいくと考えています。

デルタ株への置き換わりが進むことで、危惧されるのはワクチンを1回しか接種していない高齢者の発症や重症化です。これまでの従来型のウイルスであれば、1回接種でもそれなりに発症や重症化を予防できました。

しかし、デルタ株が広がることで、このような前提が崩れる可能性があります。まだ1回しか接種していない高齢者の場合、2回目の接種を急ぐ必要があります。

この第5波では、おそらく一部のワクチンを1回だけ接種した高齢者と40-50代の重症者が混ざり合い、そうした人々でベットが埋まる状況になるのではないかと予想しています。

今はまだ、入院を必要とする人々が40〜50代中心でベッドの回転率も早く、適切な治療を早期に受けられているため多くは重症化の一歩手前で持ち堪えています。

でも、重症化すれば、40〜50代であっても人工呼吸器が必要です。そして、1度人工呼吸器をつければ、平均的にはおよそ3週間程度は外せません。

ですから、このまま感染者数が増え続ければ、重症者を中心に受け入れが難しくなり、再びの医療逼迫は避けられません。

私たちはできる限り頑張りますが、限界はある。現在の感染状況が続くと、私たちの限界を超えてしまいます。

崖を落ちるように悪化、「見えない災害」の現場で起きていること

Takashi Aoyama / Getty Images

ーー世界各国に比べれば少ないものの、日本における新型コロナによる死者は1万4000人を超えました。単純比較はできませんが、阪神淡路大震災の死者6434人を大きく上回ります。しかし、感染者や重症者が身近にいないと、その影響の大きさを感じにくいのも事実です。

たしかに、この新型コロナのパンデミックはなかなか見えにくいですよね。

まさに、「見えない災害」なのだと思います。

私は新型コロナ治療の最前線に立っています。しかし、ここから見えている景色が、なかなか多くの人に伝わっていないもどかしさを感じるのも事実です。

津波や土石流であれば、どれだけの被害があったのかが一目でわかります。「これは大変だ」と多くの人が直感的に理解できる。

しかし、コロナの現場は隔離されており、外からは見えません。

今だって病棟から一歩外に出れば、みんな通勤や通学をして、制限はあるものの、日常生活を送っている。風景の中で普段と違うのは、みんなマスクをつけているということぐらいでしょう。

そんな中では、新型コロナについての情報は、毎日報じられる感染者の数だけかもしれません。

実は私は、この新型コロナに対応する現場で何が起きているのかを伝えるために、TwitterやFacebookで発信を続けています。

現場で何が起き、どのように私たちが対応しているのかを知ってもらい、日々の感染対策に協力していただかなければ、この「災害」は乗り越えられないと思うからです。

情報を発信すれば誹謗中傷や批判の声も届きます。最近は少しずつ慣れましたが、当初は大きなストレスを感じました。

それでも、私は治療の最前線で見ている世界を伝える必要がある。そう考えています。

ーー私たちは「重症化」と一言で片付けてしまいがちですが、現場では何が起きているのですか?

新型コロナに感染すると、ほとんどの人は後遺症の問題はあるものの、1週間程度で軽快します。しかし、一部の人は1週間が経過した後も発熱が続き、肺炎が明らかになり悪化していきます。

意外に思うかもしれませんが、入院が必要なタイミングではまだ多くの患者さんは重篤には見えない状態です。大体の人は病院へ搬送された時点では意識も良いし、歩くこともできる。

喘息や間質性肺炎など、他の病気ではこれほど見た目が元気であることは考えにくい。喘息であれば、入院が必要なタイミングでは「ヒューヒュー」という呼吸音が聞こえ、「先生、苦しい、苦しい」と、肩で息をしているような状態です。

ところが、新型コロナの患者は喘息や間質性肺炎などと同じ酸素飽和度であっても、平静を保っていることが多いのです。咳をしたり、熱はあるけど肩で息をしているような人は少ない。

酸素飽和度はかなり低いので、「どうですか?苦しいですか?」と医師は聞きます。すると、大抵は「いや、そうでもないですね」と答えます。でも、実際には重篤な酸欠状態にすでになっている。

入院してからも、他の呼吸不全の患者さんのように音を立てることも少ない。ベッドサイドが静か、というのが私の新型コロナの患者さんのイメージです。

そんなに元気ならば大したことないじゃないか、と言う人がいるかもしれません。ですが、さっきまで歩いていた、苦しくないと言っていた人の様子が数時間で一変します。

突然、崖を転げ落ちるように状態が悪化する。

ご家族からすると目の前で起きていることを理解するのは、なかなか難しいかもしれません。「さっきまであんなに元気だったのに、なぜ亡くなってしまったのか‥」と感じる人も少なくないでしょう。

「コロナは風邪」でないことは明らかです。

この1年半、現場で治療に当たる中で「私が感染させたんじゃないか」と後悔するご家族の方にも出会いました。そして、隔離病棟に入院しているため、現在でも他の疾患に比べれば面会が難しい状況です。

これらの事情から、亡くなったときのインパクトが大きい病気だと感じます。

新型コロナ最前線に広がる、“普通はあり得ない”光景

Carl Court / Getty Images

ーー医療現場は必死に対応している中で、「なぜ、病床を増やすことができないのか」といった声も聞こえてきます。

病院を利用するのは新型コロナの患者さんだけではありません。心筋梗塞や脳卒中、がんや交通事故など様々な理由で受診する人がいます。

そして大学病院は高度専門化されており、それぞれの科が様々な高い専門性を持っているものの、必ずしも感染症や集中治療には精通していないのです。

3次救命の受け入れをしている当院には、他の病院では治療できない患者さんが多く運ばれてきます。

人的ゆとりがない中で、専門医を配置換えすれば、本来の守備位置に綻びができ、受け入れができなくなる。

さらに異動した守備位置には慣れていないため、効率的ではない。つまり、ほとんどの専門医は簡単に守備範囲を変えることは困難なのです。

埼玉医科大学総合医療センター全体の病床は約1000床です。

かつて私たちが受け入れてきた新型コロナ患者の合計は第3波の時点で200名であることを伝えると、「もっと受け入れないのか?」「なんで医療のキャパシティを増やせないのか?」と言う人もいますが、そんなに簡単な話ではない。

重症6床でも、いっぱいいっぱいです。

そもそも呼吸器内科の医師であっても、人工呼吸器をつける患者さんを同時にこれほど多く受け持つことはありません。

呼吸器内科の専門医でもある私の経験からは、一般的な病院の呼吸器内科であれば、研修医を含む医師3名で10人程度の患者を担当します。その中で、人工呼吸器を必要とする人は多くても1人いるかどうかです。

1人いるだけでも、「重症患者を抱えて大変だね」と言われています。

ところが、新型コロナの感染拡大時には一番重症者が多い時で7人から8人が同時に人工呼吸器をつけてそれを少ない医師で受け持っている状態です。

ICU(集中治療室)で勤務していない医師にとって、こんな状況はあり得ません。

ーー人工呼吸器を着ける人が1人いると、現場ではどのような対応が必要となるのでしょうか?

看護師は基本的にマンツーマンの体制です。

血圧の変化に対応したり、人工呼吸器が外れるような命に関わることがないように、つきっきりで対応する。

寝返りをうつこともできないため、定期的に姿勢を変えなければいけません。痰が出れば、それを吸引します。排泄物の処理も必要です。

食事も取れない状態なので、点滴を外すことはできません。血圧を維持する薬を使い、モニターでずっと心電図を見ている。

看護師以外にも、質の高い治療を提供するために医師は1人の患者につきっきりで対応します。さらに人工呼吸器を扱う技師やリハビリをする技師など、医療従事者はのべ10人ほど必要です。

そして、それを3交代で24時間代わる代わる担当する。10人×3交代で30人。

単純計算ではありますが、1人の重症患者を診るということは、のべ20〜30人の医療従事者の力が必要となります。

1人だけでも大変ですが、それが多いときには7人から8人並ぶ。現場への負荷は非常に大きいです。

そんな中でも、第4波では人工呼吸器をつけた患者さんが10人ほどいましたが、最新のエビデンスを踏まえ私たちの経験を加味した治療を提供し、幸い全員の命を救うことができました。

人工呼吸器をつけた最重症患者の死亡率は報告にもよりますが2−3割であるため、現場を指揮する医師として、頑張った患者さん、懸命に治療や看護に当たったスタッフを私は非常に誇らしいと感じています。

この10人は何もしなければ、みんな亡くなっていたと予想される方々ばかりでした。

この成績をこの夏も維持するためには、医療の需要と供給の適正なバランスを守ることが重要です。

感染者が増えた結果、しっかりと治療を提供できれば救える命が救えなくなる。第5波でも、そんな「医療崩壊」の事態だけは何としても避けたいと思っています。

現在は「8回裏」。ゴールは見えてきた

Carl Court / Getty Images

ーー40代〜50代の重症者が増えつつある今、五輪が開幕しようとしています。何を思いますか?

個人的にはもう2、3ヶ月延期していれば、本当の意味で「コロナに打ち勝った証」として開催することも不可能ではなかったと思います。

現在のペースでワクチン接種が進めば、有観客での開催もできたかもしれません。

五輪の開催が、感染対策にプラスに作用することはありません。感染拡大への影響をできる限り小さくするための工夫が必要とされています。

緊急事態宣言が7月12日から発出され、その効果がようやく見え始める2週間後には五輪が開幕しています。試合が終了する前に祝勝会が開かれるようなもので、これはタイミングとしては最悪です。

実は私も野球の準決勝のチケットが当選し、購入していました。自分が住む国で五輪を経験することができる機会はなかなかありませんから、とても楽しみにしていました。

でも、現在は安全な大会運営の根拠が見えず、医療現場で新型コロナに対応する医師として不安を覚えています。

「安心安全の大会を実現する」と政府や組織委員会は繰り返し発信していますが、安全な大会運営を可能にする根拠を示すことで初めて国民は真の安心ができる。

「安心安全」という言葉を繰り返すだけでは意味がありません。

「このような対策を実施する」「このような場合にはこんな対応をします」と対策の全体像を公開し、専門家や外部のチェックを経た上で大会を開催すべきでしょう。

開幕後にはニュースは五輪一色になるかもしれません。

結局、「世論と空気だけ変えればどうにでもなる」となってしまえば、医療現場と患者だけが取り残されます。

五輪で日本選手が活躍し、世間の注目はそちらに集まる中、医療現場は大変な状況に陥る…

私はそれを一番恐れています。

Yuto Chiba / BuzzFeed

ーー7月、8月が「最大の山場」であると言われていますが、現場の医師としてどう感じますか?

この第5波を乗り越えられれば、医療逼迫を心配しなければいけない状況からは脱却できる可能性があると感じています。

最前線で治療にあたる中で、ワクチン接種による効果を実感しています。このままワクチン接種が順調に進めば、第6波が起きたとしても医療逼迫は起きないかもしれません。

今回が最後の我慢になる可能性は高い。

コロナはなくなることはないかもしれませんが、ワクチンによって病原性が落ちて、日常生活が戻ってくるというシナリオは十分に考えられると思います。

この1年半、みんなが様々なことを我慢してきました。現在、様々なところで限界を迎えていると言われています。たしかに終わりが見えなければ、我慢を続けることは難しい。

しかし、今回の緊急事態宣言が最後になる可能性があることをしっかりと伝え、この夏だけは引き続き協力をお願いできないでしょうか。そんなメッセージを政府に出していただきたい。

ゴールは見えてきています。野球で例えれば、今は8回裏。1点差の緊迫した状態です。

油断すると逆転されてしまう。しかし、勝利は目前です。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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