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Updated on 2020年4月28日. Posted on 2020年4月24日

波紋呼んだ「対策ゼロなら40万人死亡」のデータ いま必要なコミュニケーションは単なる「情報提供」ではない

40万人以上のフォロワーを抱える「新型コロナクラスター対策専門家」のTwitterアカウント。管理を行うのはリスクコミュニケーションと公衆衛生を専門とする1人の大学教授だ。

新型コロナウイルスに関する用語の解説や専門家からのメッセージを伝えるTwitterアカウント「新型コロナクラスター対策専門家」。アカウントの運用開始からおよそ3週間でフォロワー数は40万人を超えた。

北海道大学の若手スタッフ等と共にこのアカウントの管理を行うのが、リスクコミュニケーションと公衆衛生を専門とする東京理科大学教授・堀口逸子さんだ。

Yuto Chiba / BuzzFeed

東京理科大学教授・堀口逸子さん

真偽が定かでない情報も飛び交う中、適切な情報を発信するため必要な取り組みとはどのようなものなのか。話を伺った。

Twitter開設、その裏側

ーー「新型コロナクラスター対策専門家」のTwitterアカウントが開設された経緯を教えてください。

西浦先生から私のもとに、3月末の3連休が明けたタイミングで若い人に対して情報を届けることによるリスクコミュニケーションを充実させたいというご相談がありました。

その後、アカウントを開設しました。現在はSNSを使ったマーケティングを広告代理店で手がけてきた方にもアドバイスをいただいて運用しています。

前提としてお伝えしなければいけないのは、あのアカウントは「厚労省のクラスター対策班」としての発信ではないということです。

あくまで、クラスター対策に関わる専門家が、それぞれ東北大学の押谷仁教授、北海道大学の西浦博教授といった個人の立場で発信をしている状態です。

@ClusterJapan

ーー厚労省のクラスター対策班としての公式な発信ではないのですね。

はい、あくまで専門家の個人による発信という位置付けです。先生方にもクラスター対策班としての発信なのか、個人としての発信なのか使い分けをしていただくようお願いしています。

こういった説明をすると、「クラスター対策班の名前だと言いたいことが言えないから…」という理解をされてしまいがちですが、立場が違えばメッセージの表現も変わるのは当然のことだと思います。

そして、クラスター対策班の人間としてではなく、個人として言わなければいけないと思ったことを言いたくなるのも当然のことです。

タイミングをしっかりと見定めた上で、専門家が言わなければいけないと思うことを発信しています。

言いたいことが言えないから生まれたアカウントではなく、言わなければいけないことを言うために生まれたアカウントです。

ーー厚労省もこの発信については理解をしているのでしょうか?

厚労省ともコミュニケーションはとっているので、専門家が個人として発信をしていることには理解をしていただいています。右手で厚労省と固い握手をしながら、他方で言わなければいけないことを発信している。半分公式なアカウントというのが、最も実態に近いかもしれません。

乱立するチャンネル、統一されないメッセージ

ーーこのTwitterアカウント以外にも、「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」のアカウントも存在します。noteで発信していますが、チャンネルが乱立する中で戸惑いの声も上がっています。

専門家有志の会の発信は完全に行政から独立をして、運営されているので、全く異なる発信のチャンネルです。

お互いの名称が情報の受け手を混乱させてしまう一因になっているとは感じています。こちらはクラスター対策班ではなくクラスター対策専門家。あちらは専門家会議ではなく専門家有志の会。

事前にあのような動きがあることを知っていたら、名称はもう少し考慮しなければいけませんでした。

ーーnoteについては、専門家たちの独立した発信なのですね。しかし、本来は公的なところとしっかりと連携をしながら情報を伝えないといけないのではないでしょうか?

はい、そう思います。

ーー他にも、押谷先生と西浦先生、それから尾身先生とで言っていることが違うのではないかという声も上がっています。やはりスポークスパーソンは1人に絞るべきなのではないでしょうか?

基本的に、スポークスパーソンは1人であるべきです。仮に1人に絞ることができなかったとしても、発信されるメッセージは1つであるべきだと思います。

メッセージは喋り方やトーンが違うだけで変わってしまう。だから、事前に示し合わせておく必要があります。

専門家会議では、基本的なスポークスパーソンを尾身先生が務められ、科学的な裏付けに関する説明を西浦先生がされていますね。

時事通信

ーー発信する専門家の間で発せされるメッセージのニュアンスが違うこと等が専門家への信頼が失われてしまうことにつながりかねないのは、非常にもったいないことだと思うのですが…

そうですね。だからこそ、クライシスが発生した時のコミュニケーションを得意としているコンサルタントが入るべきだと私は思います。

実際に2009年の新型インフルエンザが流行した際にはコンサルタントがチームに入って、専門家たちをバックアップしていました。

新型インフルエンザが流行した当時、スポークスパーソンを担っていたのは国立感染症研究所の情報センター所長を務められていた岡部信彦先生です。岡部先生が厚労省の担当者と行っていたブリーフィングの様子は頻繁に報道されていました。

コミュニケーションに関する戦略が立てられていて、上手くいった場合、そのこと自体は基本的に誰の話題になるわけでもありません。コミュニケーションが上手くいけば、騒ぎになることはありませんから。

現在取り組んでいることはリスクコミュニケーション以前のところ。そもそもの土壌を作っていく作業を進めているところです。

リスクコミュニケーションは単なる「情報提供」ではない

Yuto Chiba / BuzzFeed

ーー現在の新型コロナに関する情報発信の課題はどのようなところにあるのでしょうか?

例えば簡略に言えば、現場から届く数字を見ながら将来予測をしているのが北海道大学の西浦先生チームで、自治体から上がってくるデータを見ながらどこにクラスターがあるのか分析し対策を考えているのが東北大学の押谷先生チームです。

大学の広報室宛には取材依頼がどんどん届き、それが先生方に大量に転送されていますが、そのうちそれぞれの専門領域についての取材依頼だけが届くとは限りません。また、こうした先生方にきた取材依頼を一括してさばく人もいない。

結果として、公平に情報を提供することができていないという側面があります。どこに何を伝えるかが各先生方の中での取捨選択になってしまっている。

そのタイミングでは、どの情報は出し、どの情報は出さないのか。一度決めたら、それは絶対に守らなくてはいけません。ですが、そうした非常事態が起きたとき、被害を最小限に食い止めるためのコミュニケーション、クライシスコミュニケーションの基本的なところができていない状況です。

また、リスクコミュニケーションを「情報提供」と勘違いされている部分があるのかもしれません。一般の方に対して情報を示すことだけがリスクコミュニケーションではありません。厚労省や専門家、政治家との間でのコミュニケーションもまた、リスクコミュニケーションの一部です。

そうした調整ができていない部分があると感じます。表に見えない部分の合意形成についてもコミュニケーションを重ねていく必要があります。

ーーそうした調整含め、コミュニケーションの戦略を練るのは誰が担うべきなのでしょうか?

誰がやるのか、誰がやるべきか以前の問題で、そもそもそうした役割を与えられた人がいないというのが現状です。また、広報を担う人がいなければいけません。

時事通信

4月15日、意見交換会でデータを公表する北海道大学の西浦博教授

ーー堀口先生自身はこうした様々な調整など交通整理を進める中で、どのようなことをされているのですか。

先週からメディアとの意見交換会を始めました。

この用語がわからないといった報道する方々からの声がある。先日は「接触」の定義が何かという疑問が寄せられました。

そのままでは混乱が広がりますし、疑問を解消する場がないと問い合わせがそれぞれの先生に直接いってしまいます。

広くあらゆるメディアに向けた情報を提供することについては、厚労省も趣旨を理解してくれています。

今後必要になる発信は?

専門家会議

重症患者の予測と、人工呼吸器(赤いライン)の数との関係

ーー先週の意見交換会では西浦先生が「何も対策をしなかった場合」の推計として40万人以上の方が亡くなると発表しました。あのデータが波紋を呼んでいます。

あのデータをもとにしたグラフ自体は3月19日の専門家会議に提出されています。そして、データを公表したいということは早い段階からクラスター対策班の先生たちは言っていたことでした。

あのデータも、緊急事態宣言が出た後、皆さんが家にいてくれたら出すことはなかったんじゃないかと思うんです。あのメッセージは恐怖喚起コミュニケーションの1つだったと認識してます。

これだけ商店街が人で溢れているという現状があった中で、やっぱり出さなくてはいけないと思ったのではないでしょうか。「何も対策をしなかった場合」というのがポイントですね。

そのリスクを理解した上で、皆さんも一緒に考えてくださいと。

Yuto Chiba / BuzzFeed

ーーまさに西浦先生が試みている「リスク・インフォームド・ディシジョン=リスクを説明した上での決断」ですね。ですが恐怖喚起が必ずしも有効とは限らないのではないでしょうか?

タイミングとターゲットが誰かが重要です。今回は、ある一定の層には届いたのではないでしょうか。

ポイントとしては、こうした恐怖喚起のコミュニケーションは繰り返していくと通じなくなるということです。今後はコミュニケーションの方法を変えていく必要があります。

「皆さん頑張りましたね」といった発信や、「ここはできていますが、ここができていません」といった発信が求められると思います。使い分けが必要です。

ーーノーベル賞受賞者の山中伸弥さんなど感染症の専門家でない方の発信にも注目が集まっています。そうした発信が混乱に輪をかけてしまう面もあるように感じます。

でも、専門外の研究者が登場してくることも前提にしてコミュニケーションの戦略を立てるべきなんですよ。専門ではないとはいえ、発信をするなとは言えませんから。

だからこそ、戦略を立ててメッセージを伝えていく必要があるのだと思います。

ーーコロナの影響が長期化することが予想される中で、どのようなクライシスコミュニケーションとリスクコミュニケーションが必要となるのでしょうか?

専門家から一方的に情報を発信してても、咀嚼できなければ意味がありません。どのようなメッセージを出していくのか以上に、皆さんの声を吸い上げて専門家たちに届けていくことが必要だと理解しています。双方向性が必要です。

テレビを見ない人もいれば、新聞を読まない人もいますし、ネットを使わない人もいる。だからこそフラットに情報を届けて、双方向にやり取りをすることが重要ではないでしょうか。

まだまだ試行錯誤の段階ですがTwitterアカウントの運用も軌道に乗り、ようやく双方向のコミュニケーションのスタート地点に立ったと感じています。

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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