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突然の解雇、家賃もう払えない…2日で5000件超の生活相談。生活保護妨げる"水際作戦"続く実態も

「あなたはうちの対象ではない」「隣の県にいたのでは」「健康ならば仕事を探して」、そんな言葉をかけ、生活保護受給を妨げる行政の対応も浮き彫りに。

路上生活者の支援団体や「反貧困ネットワーク」など全国39の団体などで構成されている「いのちとくらしを守る なんでも電話相談会実行委員会」は4月23日、厚生労働省に対し緊急要望書を提出した。

4月18日、19日の2日間午前10時から午後10時まで開催した電話相談会に寄せられた相談件数は5009件。

日本弁護士連合会の貧困問題対策本部副本部長で生活保護の問題などに長年携わってきた弁護士の猪俣正さんは「電話を置けばすぐに鳴る状態。電話が殺到した」と説明する。

新型コロナウイルスの影響が長期化する中で、生活が困窮する人が出始めている。支援の現場では、どのような危機感が募っているのか。支援団体や弁護士らが危機感を記者会見で表明した。

つながったのは1.6%、それでも5000件超え

猪俣さんによると、2日間で42万件を超える発信が確認されている。そのうち、実際に接続した割合はわずか1.6%だ。「ごく一部の方に対応できただけ、それだけで5000件を超えた」ことを強調する。

「コロナで会社を休みに。でも、休業手当が出ない」という声。「正社員で働いてきたが突然解雇。預金もなく苦しい」「バス会社で働いていた社員が全員解雇されてしまった」という声。そして「これまで従業員への補償は10割行ってきたが、もう限界」という事業者からの声も寄せられている。

「職業別の件数では特徴として自営業者、個人事業主、フリーランスからの相談が最も多かった」とした上で、他にも非正規雇用、パート/アルバイトなど「あらゆる働き方をしている方々から、多くの悲鳴のような声がたくさん寄せられた」という。最も多かったのは生活費の相談だ。

なぜ、ここまで多くの人が生活困窮の状況に追い詰められているのか。実行委員会としては外出や自粛の要請がなされる一方で生活の補償がなされていない実態を問題視する。

「安心して仕事を休むこともできない。追い詰められている状況です。ちゃんと休む、そのために補償が必要です。現金給付とセットで行われなければなりません」

「それが行われなければ、今後、数ヶ月のうちに多くの人が失業や廃業に追い込まれて生活基盤を失って、地域社会も崩壊して行く。取り返しのつかない状況になります。私は恐怖にも似た感情を持っています」

実行委員会はこうした状況を受け、以下の8項目を緊急要望した。

(1)広報・相談体制の拡充と手続の簡略化による迅速な救済を
(2)自営業者・フリーランス等の業務と生活基盤の確保を
(3)正社員・契約社員・パート等の職場と生活基盤の確保を
(4)債務・税金等の支払い負担からの一時的解放を
(5)生活の基盤である住まいの確保を
(6)生活保護の適用要件の緩和による生活の保障を
(7)すべての人に対し速やかに10万円の「特別定額給付金(仮称)」の支給を
(8)連休中の行政による支援体制の強化を

弁護士で「反貧困ネットワーク」代表世話人を務める宇都宮健児さんは国の「危機感が欠けている」と語り、「国民の感覚とかなりずれているのではないか」と、遅々として進まない政府の対応策を批判した。

「国がやるべきことは雇用を守ること、住まいや生活を守ること。そして命を守ること。この対応が十分にできていないのが問題だと思います」

「うちの対象ではない」とたらい回しになるケースも

司法書士の後閑一博さんは生活保護の現場ではこのような緊急事態でも依然として受給を妨げるための「水際作戦」が行われていると指摘する。

生活保護を受給できる条件ではないと言い渡されるケース、健康ならば仕事を探すよう追い返されるケースや管轄ではないと言われるケースが確認されており、新型コロナ以前と変わらぬ対応が続いているとした。

東京都内で生活困窮者の支援を行う「つくろい東京ファンド」の代表、稲葉剛さんも住まいのない人のたらい回しが生活保護や東京都の住まいを失った人へのビジネスホテルの宿泊場所提供などで頻発していることを問題視する。

東京都では神奈川県との県境、大田区や町田市などで「『あなたはうちの対象ではない』、『隣の県にいたのでは』とたらい回しをされるケースが確認されている」という。

こうした中で、新型コロナ以前から存在する生活保護に対するマイナスイメージが、支援へのアクセスを妨げている実態がある。

後閑さんはこれまで社会が作ってきた「生活保護バッシング」の結果として、こうした現状が生まれているのではないかと考えている。

生活保護は自立を支えるための制度であることから、「必要な人に対して適切な正しいメッセージを強く出していただきたい」とした。

大型連休、公的機関閉めないで

支援の現場からは5月2日から5月6日までの大型連休の間、公的機関の窓口が閉まってしまうことへの懸念の声も上がる。

支援団体の体制も厳しい中で、このままでは「命の危機を迎えてしまう」人もいると危機感を表明した。


【関東甲信越地方の生活保護相談窓口】
首都圏生活保護支援法律家ネットワークの電話番号:048-866-5040