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医療機関でも空間除菌用品を不適切に使用? 大手ECサイトでも流通… 研究者「得られるのは偽物の安心感」

日本において新型コロナ対策としてオゾン発生器が不適切に使用されている可能性があり、大手ECサイトで販売されている多くの製品には安全性を担保するために必要な情報が記載されていないーー。

日本において新型コロナ対策としてオゾン発生器が不適切に使用されている可能性があり、大手ECサイトで販売されている多くの製品には安全性を担保するために必要な情報が記載されていないーー。

ある研究者のグループが医学雑誌「Journal of Hospital Infection」にこのような論文を投稿した。

この研究ではどのような分析を行い、何が分かったのか。

研究グループのリーダーで、下越病院(新潟県新潟市)薬剤課に勤務する三星知さんに話を聞いた。

医療機関でも「空間除菌」グッズを不適切に使用?

Yuto Chiba / BuzzFeed

下越病院薬剤課の三星知さん

三星さんらはオゾン発生器についてだけではなく、次亜塩素酸水の空間噴霧に関する調査も昨年実施し、医学雑誌「Infection Control & Hospital Epidemiology」で研究成果を発表している。

次亜塩素酸水の空間噴霧、そしてオゾン発生器といわゆる「空間除菌」グッズについての実態調査を行なった背景について次のように説明した。

「新型コロナウイルス感染症が感染拡大した当初、次亜塩素酸水が流行り、一部で不適切な方法で使用されていることが話題となりました。そのような実態については、昨年10月に論文にまとめたのですが、今回新たにオゾン発生器が同じように不適切に使用されているのではないかと感染症の臨床教育を目的とした医療関係者のメーリングリストで話題となり、研究をはじめました」

オゾン発生器についての研究では、無記名のアンケート調査をメーリングリストで実施(2021年4月2日〜4月30日)。最終的には129名の医療従事者から取得し、そのうち103件の回答(71の病院と32の診療所)を分析した。

オゾンに晒された場合、気道の炎症などが引き起こされることがわかっている。そのため、オゾン発生器は一般的に人がいる環境では使用しないことが推奨されている。

しかし、研究の結果、13(18%)の病院と9(28%)の診療所で実際にオゾン発生器が導入されており、そのうち20(91%)の施設では患者がいるエリアに設置され、5(23%)施設では人がいる屋内スペースで使用していたことがわかった。

また、15(68%)の施設ではこうしたオゾン発生器を公的な資金援助をもとに購入していた。

今回の研究結果について、三星さんは「基本的にオゾン発生器は人がいる場所では使ってはいけない。しかし、一部の医療機関ではそうした問題のある使われ方をしていることがわかった」とコメント。

公的資金を使ってオゾン発生器を導入しているケースが確認されたことについては、「一部のコロナ関係の補助金では、オゾンをはじめ空間除菌の設備に使用することも認められている場合がある」としつつ、その問題点を指摘した。

「現在、オゾンや次亜塩素酸水などを空間噴霧するような『空間除菌』グッズを使用して感染対策をすることを推奨する流れはありません。そうした製品が人がいるエリアで使用され、人体への悪影響を及ぼす可能性がある以上、注意が必要だと思います」

前提として、「空間除菌」については多くの専門家が効果はないとする見解を示している。なかでも消毒剤などを噴霧する「空間除菌」の手法については、人体への悪影響を考慮し、世界保健機関(WHO)や厚生労働省も推奨していない。

加えて、新型コロナウイルスについては、換気やエタノールなどの消毒薬で十分に対応可能だ。

だが、今回の研究ではこのような「空間除菌」グッズが一部の医療機関で使用されており、その中には人体へ影響を及ぼしかねない方法で使用されているケースもあることがわかった。

大手ECサイトに出回るオゾン発生器、多くはオゾン濃度が不明

Runphoto / Getty Images

あわせて、研究グループは大手ECサイトにおけるオゾン発生器の取り扱い状況も調査。

販売されている商品が室内空間で利用された場合のオゾンの濃度についても分析している。

その結果、大手ECサイトでは396のオゾン関連商品が販売されており、分析が可能な345の商品のうち76%でオゾン発生率・影響を及ぼす範囲の広さ・使用時間についての情報が欠けていることもわかった。

こうした状況について、三星さんは「オゾン発生率・影響を及ぼす範囲の広さ・使用時間の情報が欠如している製品が多いことが問題です」「これらの情報がなければ、有効性も安全性も評価することはできません」と苦言を呈した。

オゾン発生率・影響を及ぼす範囲の広さ・使用時間の情報が記載されていた24%の商品については、研究グループが独自に使用した場合のオゾンの濃度を推定*。その中央値は0.47ppmとなっており、アメリカのEPA(環境保護庁)が推奨する基準値(0.05ppm)を大きく上回る。

※推定にあたっては、空気中の物質の濃度推定に使われる計算式を使用。オゾンの半減期なども考慮しながら、閉鎖空間の想定のもとに推定している。

この結果は、人体への影響が危惧されるオゾン濃度の製品が市場に出回っていることを示唆する。

また、29%のオゾン発生器が「消毒」もしくは「滅菌」という言葉をうたっている。医薬品としての効果効能を示すこれらの表現は医薬品として登録し、厚労省の審査を通過した商品にのみ使用することが認められている。薬機法に抵触している可能性が高い、と三星さんは述べた。

オゾンや塩素で気道に炎症が

James Hardy / Getty Images/PhotoAlto

オゾンを不適切に使用することの危険性について、三星さんは次のように語る。

「オゾンについてはパルプ工場の従業員に関する研究が良く知られています。紙のパルプを製造する現場では、オゾンや塩素ガスが充満していることも少なくない。そのような環境では、気道の炎症を起こすリスクが高いことがわかっています」

「この研究だけではなく、オゾンや塩素にさらされることは危険だということは医療従事者の間では一般的な見解です」

オゾンをはじめ「空間除菌」グッズについては、まだまだ誤解も少なくない。一部には人体にも無害かつ消毒には有効であるとうたう製品も存在する。

しかし、三星さんは「低濃度で人体に影響がないとするのであれば、消毒効果を期待することは難しい」と指摘する。

消毒効果と人体への安全性はトレードオフの関係にある。どちらかが高ければ、どちらかは基本的に低くなるものだ。

昨年8月には、愛知県の藤田医科大学の研究グループが、オゾンガスで新型コロナウイルスを不活性化したという研究を発表した。

しかし、この研究は「基礎的な部類のもの」であるとし、実際の生活空間で使用する是非について検討するためには「追加の試験が必要」だと三星さんは強調する。

「現在、医療現場において新型コロナの患者さんが退院した後の対応としては換気とエタノール消毒が一般的です。わざわざオゾン発生器などを使用しなくても、エタノールで十分に消毒が可能であることをもっと知っていただきたいです」

「もしかすると、安心感を得るためにこうした『空間除菌』の製品を購入するケースもあるのかもしれません。ですが、それで得られるのは偽物の安心感です。基本的な感染対策が緩むことにもつながり、かえって感染拡大の防止には逆効果となる可能性もあります」

基準の設定や規制の検討は?

時事通信

オゾン発生器はじめ「空間除菌」グッズの多くは医療機器や医薬品・医薬部外品などには該当せず、法律上は「雑貨」に分類される。

人体へ悪影響を及ぼす不適切な「空間除菌」グッズの使用を防ぐためには、当局による規制の検討も必要ではないか。三星さんはこのように問題提起する。

「消毒もしくは滅菌や殺菌という表現は薬機法(医薬品医療機器等法)に抵触する可能性がありますが、除菌という表現は抵触しません。そのようなギリギリの表現でうまく消費者を誘導している事例も見受けられます」

「こうした製品の販売については、当局が有効性や安全性に関する基準を設け、その基準に該当しない製品は規制するという方法をとるべきだと思います。実際にアメリカのカリフォルニア州では0.05ppmを超えるオゾンを発生させる機械は販売してはいけないと定められています。日本ではこのような規制がないため、悪質な商品が販売されていても取り締まることができない状態です」

厚労省の監視指導・麻薬対策課の担当者は取材に対し、「個別の事例が薬機法に抵触するかどうかは各都道府県の薬務担当が判断する」とコメントした。

BuzzFeed Newsは大手ECサイトで東京都の事業者が「殺菌」という言葉を掲げオゾン発生器を販売している実態を確認している。

こうした事例について、東京都福祉保健局薬務課の監視指導担当者は「殺菌や消毒、滅菌といった言葉は医療機器や医薬部外品など薬機法の対象となる製品においてのみ使うことが認められている。雑貨にあたる商品が使用している場合には薬機法に抵触する」と回答した。

一部に人体への影響が懸念される濃度のオゾンを発生させる機器が存在することについては、「薬機法上、濃度に基づき良い・悪いを判断していない」とコメントするにとどめた。

経済産業省製品安全課の担当者はオゾン発生器の安全性に関する懸念について、「その製品の普及のされ方による部分もありますが、基本的には製品についての安全性の責任は企業が負っていると理解するのが原則です」と回答。

「健康被害などが生じた場合には調査を行い、規制や基準の検討なども必要となると認識していますが、現段階ではそうした報告も上がっていない状況です」と語った。


〈参考文献〉

(1)オゾン発生器の実態に関する調査・研究

Inappropriate use of ozone generators and their sales status: questionnaire survey of healthcare providers and investigation of online sales」(『Journal of Hospital Infection』, 2021)

(2)オゾンによる人体への影響に関する研究

The incidence of respiratory symptoms and diseases among pulp mill workers with peak exposures to ozone and other irritant gases」(『Chest』, 2005)

(3)藤田医科大学のオゾンガスによる新型コロナ不活化の研究

Reduction of severe acute respiratory syndrome coronavirus-2 infectivity by admissible concentration of ozone gas and water」(『Medical Microbiology and Immunology』, 2020)

(4)新型コロナウイルスに有効な消毒・除菌方法

新型コロナウイルスに有効な消毒・除菌方法(一覧)」(経済産業省, 2020)

(5)環境表面の清掃と消毒方法

Cleaning and disinfection of environmental surfaces in the context of COVID-19」(WHO, 2020)

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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