なぜ、風俗業は持続化給付金の対象外?事業者が国を提訴。 憲法学者に聞く訴訟の意義とポイント

    「持続化給付金」、「家賃支援給付金」において「性風俗業関連の事業者だけが給付の対象外とされているのは、職業差別であり、「法の下の平等」を保障する憲法に反しているとしてデリヘル経営者の女性が国を相手取り訴訟を起こした。原告の主張を整理し、この訴訟の意義を考える。

    新型コロナウイルスの影響で経済的な打撃を受けた事業者を支援するために、国が設けた「持続化給付金」や「家賃支援給付金」。

    性風俗業関連の事業者だけが給付の対象外とされているのは、職業差別であり、「法の下の平等」を保障する憲法に反しているなどとして、関西地方でデリヘルを経営する30代の女性が、国を相手取った訴訟を起こした。

    時事通信

    東京都立大学教授で憲法学者の木村草太さんは、この裁判を「意義深い」と語る。

    「性風俗関連の給付除外について、これまで公権力の側から合理的説明が行われていないので、正式な説明をさせるという1点だけでも、意味のある訴訟です」

    原告側の主張を整理し、この訴訟の意義を考える。

    国はこれまで「社会通念」「過去の政策との整合性」を理由として提示

    時事通信

    持続化給付金は、新型コロナで大きな影響を受けた事業者に対し、国が最大で200万円(個人事業主は最大100万円)を給付する制度だ。

    家賃支援給付金は、売り上げが減った事業者の地代・家賃の負担を軽減するため国が最大600万円(個人事業主は最大300万円)を給付する。

    どちらの制度においても、中小企業や小規模事業者、フリーランスを含む個人事業者などが幅広く対象とされているが、ソープランドやラブホテル、デリヘルなどをはじめとする「性風俗関連特殊営業」の事業者は、対象外とされている。

    性風俗関連の事業者が支援対象から除外される理由を国会で問われた梶山弘志・経産相は、以下のように答弁している。

    「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して国の補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し、対象外としている」

    また、今回の訴訟の原告らが6月15日に中小企業庁へ申し入れをした際には、同庁の担当者は、これまでの給付金や補助制度でも対象外としてきたため、今回対象にすると「(過去の政策との)整合性が取れない」と説明した。

    原告はこうした国の対応は「法の下の平等」を保障する憲法14条への違反であり、給付金の給付契約を締結する際に不合理かつ妥当性を欠く判断がなされたと主張している。

    不平等を訴える側にとってはハードルが上がる理由

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    原告のFU-KENさん

    木村さんはこの裁判について、「通常の平等原則の訴訟よりも、一段ハードルが高い」と言及する。なぜか。

    「法律で『給付金の受給権をこの範囲の人々に与えます』と規定されている場合には、『この法律は不平等である』と訴えることが容易です。しかし、今回対象となる持続化給付金に、直接の根拠となる法律はありません。予算が承認され、その予算に基づいて国が贈与契約を結ぶという形式をとっています。その不平等を司法に訴えるには、『あちらとは契約を結ぶのに、こちらとは結んでくれない』という契約関係の問題を問うことになります」

    「ここで壁となるのが、契約を誰と結ぶかは自由に選択できるのが原則だという点です。普通の契約であれば、『あの人とだけ契約を結ぶのは不平等だ』と訴えても、違法とは判断されません。そこで、原告側は、『今回は普通の契約とは異なり、特別な行政契約だから、平等原則が適用されるべきだ』と説明しています」

    給付金を出すという法律を作り、その中で受けられる人の範囲を設定した場合、その妥当性を、立法の段階(国会審議)で議論することができる。また、法律に不備があれば、その法律が違憲であると主張することもできる。

    しかし、契約という柔軟な形式が選ばれているため、「不平等を訴える側にとってはハードルが上がる。不当性を訴える側にとっては不利になる」と木村さんは指摘する。

    給付金の不支給、性風俗を狙い撃ち?

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    その上で、原告が訴状で示した2つの争点である

    1)平等原則違反

    2)行政の裁量権の逸脱、濫用があるといえるかどうか

    については「争点としては同じものになるのではないか」と、木村さんは言う。

    「平等原則は、不合理な区別をしてはいけないということ。裁量逸脱の禁止は、不合理な措置をしてはいけないということです。いずれにしても、その区別に合理性があるのかを問う訴訟になります」

    「国の判断および措置が合理的なものであるのか、それが唯一にして最大の争点です」

    今回の持続化給付金の給付規程8条1項を確認すると、以下の形で不支給の要件が明記されている。

    一 次条第2項第5号の給付通知を受け取った者

    二 国、法人税法別表第1に規定する公共法人

    三 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)に規定する「性風俗
    関連特殊営業」又は当該営業にかかる「接客業務受託営業」を行う事業者

    四 政治団体

    五 宗教上の組織若しくは団体

    六 前各号に掲げる者の他、本給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと長官が判断する者

    「一号の、既に給付された人を対象から外すのは、二重に受け取るのは不当だということだと理解できます。二号、四号、五号が示す国や政治団体、宗教団体は、そもそも営利を目的としてない団体です。六号にいう『適当でないと長官が判断する者』とは反社会的勢力が経営する会社などを指していると考えられます。いずれも不支給にすることの説明は容易に思いつきます。そんな中で、世の中には多様な業種があるにもかかわらず、性風俗業だけが不支給対象として明文化されている。これは、特異な印象を受けます。特定の産業だけを狙い撃ちにしたという印象は強まるのではないでしょうか」

    暴力団ですら条文化されていないのに‥

    時事通信

    原告は平等原則、裁量権の逸脱・濫用という争点に加えて、こうした国の決定が性風俗関連の事業者に対するスティグマを助長すると主張する。

    木村さんもこのスティグマの助長は「無視できない」「影響は非常に大きいと言わざるを得ない」と強調する。

    「給付規程を見れば明らかなように、今回の規定は、数多くの業種が除外される中の一つとして性風俗が挙げられているのではありません。性風俗業だけが明示されていることは、スティグマの助長が強く懸念されると考えます」

    (趣旨・目的)

    第2条 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴うインバウンドの急減や営業自粛等により、特に大きな影響を受けている中堅企業、中小企業その他の法人等(以下「中小法人等」という)及びフ
    リーランスを含む個人事業者(以下「個人事業者等」という)に対して、事業の継続を支え、再起の糧としていただくため、事業全般に広く使える給付金を給付することを目的とする。

    今回の持続化給付金は「事業の継続を支え、再起の糧としていただく」ことを目的として掲げている。

    こうした目的の給付金の給付対象から除外されるということは、「事業を続けなくて構わない卑しい事業、支える必要のない事業だと国が考えているように読めてしまうのではないか」と木村さんは語る。

    持続化給付金、家賃支援給付金だけでなく、厚労省が設けた子育て世代のための支援金の支援対象からも、性風俗関連業や接待飲食業に従事する人々が外された。

    新型コロナという緊急事態の中で、行政の施策が1つの発端となり、社会に根付く差別感情が浮き彫りとなる事態が繰り返されている。

    木村さんは「緊急時に特別なことが行われるということではなく、緊急時には普段行われていることが極端なかたちで出る」としたうえで、「緊急時の対応は日常で行われていることの延長にあるという視点が重要だ」と言う。

    「朝鮮学校に対してマスクを配布しないという対応が典型ですが、これまで差別の問題に甘い対応を取ってきた日本社会、日本という国家の態度が、今このような形で緊急時における差別的な措置に現れています」

    「給付金を出す、出さないという判断は政治が決めること」としながらも、「そこで不合理な区別や差別はしてはいけないということは当然のことだ」と語った。

    「社会通念」「国民感情」は理由になるのか?

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    5月に開かれた参院予算委員会で「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して国の補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し、対象外としている」と語った梶山弘志・経産相

    仮に裁判で、国が「社会通念」や「国民感情」といった曖昧なものを用いて今回の不支給の理由を説明した場合、どのように受け止めることが適切なのだろうか。

    「社会通念は、どうとでも使える言葉です。社会通念とは何か、どういう社会通念が問題となっているのか。その内容を確定させていくことが必要でしょう。差別が社会通念化しているときに、裁判所の判断に社会通念を持ち出したのでは、差別は永遠に是正されません」

    「今回の件に関して、国や中小企業庁の責任者を証人尋問する手続きを取っていただきたいと、私は思っています。いかに国側に説明の場を設けさせるかが、この訴訟のポイントです」

    (1)性風俗業は「けしからん」「いかがわしい」という真っ向からの差別感情
    (2)性風俗業は女性に対する搾取によって成り立っている産業で、国が推奨するような産業ではあり得ない

    国はこうした主張をしてくることが予想されるが、(1)の差別感情を「社会通念」として用いたならば、それの判断は「差別への迎合であって、到底合理的な目的に基づくものとは言えない」と木村さんは考える。

    また、(2)の女性に対する搾取によって成り立つ産業であるとの受け答えをした場合には、「性風俗の事業者に国は営業許可を出しているわけですから、もしも国による推奨に値しない搾取があるというなら、それを法律で禁じるなり、搾取が起こらないように規制をかけるなりするのが筋であって、実際に女性に対し脅迫まがいの行いがあるなど、問題のある事業者だけを、『本給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと長官が判断する者』(給付規定8条1項6号)として、不支給にすればよいはずです。一律に給付金を支給しない理由にはならない」(木村さん)

    今回の不支給要件に基づけば、暴力団など反社会勢力とつながりのある業者や人身売買を前提とした違法な営業などを行う事業者を支援対象から除くことは、可能だ。そのため、上記2点は性風俗業の事業者を一律に排除することの理由にはならない、とみる。

    「憲法訴訟の良いところは1人でも戦えるところ」

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    裁判所合同庁舎(東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎)

    「憲法訴訟の良いところは、1人でも戦えるところ」。木村さんはこれまでも、こう発信してきた。

    「民主主義国家において、問題のある政策のほとんどは民主的なプロセスの中で改善することができると考えられています。国民の大多数がひどいと考える政策ならば、それを推し進めた勢力は次の選挙で負けるので、政治家は本気で改善するでしょう」

    「一方で、国民全体で見たとき、少数派の人たちが大きなダメージを受ける論点については民主的プロセスに訴えかけても議員を動かすことはなかなか難しい。そうした人々にとっては裁判所以外に自分たちを救ってくれる場がない。よって、少数派の人たちが大きなダメージを受ける場合こそ、裁判所は頑張らなくてはいけないと考えられています」

    だからこそ、憲法訴訟は1人でも戦うことができる。そうした基本的な原則と照らし合わせたとき、今回の訴訟は「極めて正しい訴えだ」と、木村さんは認識しているという。

    「コロナ禍において、国会が行った立法は新型インフル特措法を改正し、新型コロナにも適用できるとした1点のみです。その他の様々な給付金、マスク配布は、国会が予算を承認するにとどまり、具体的な対象の選抜などは、行政の判断で行われています」

    「もちろん、国会では行政監視の一環として質疑を受けてはいますが、法案が示され、趣旨説明がされ、立法されるという厳格な手続きを多くの場合は踏んでいません。説明不十分なまま、行政の独断で様々なことができるシステムになっています」

    「だからこそ、公式に国が理由を説明する場を作ることが重要です。訴訟になれば、国は答弁書の形式で正式な説明を求められる。そこで課される説明責任はこれまでとは違うレベルです。国の説明に、国民の皆さんも注視するべきと思います」

    同時に、今回の訴訟は「制度改革訴訟」としての意義も持ち合わせていると木村さんは言う。

    「憲法訴訟となることで争点が明確となり、国の説明責任が設定されます。また、社会の注目が集まりやすくなります。報道機関も、誰がどのようなことを求め、国がどのように反応しているのか報道しやすくなります」

    「報道がきっかけとなり、民主的プロセスが動くことにつながる場合もある。だからこそ、憲法訴訟はその判決が出たらそれで終わりというものではなく、どんな主張がなされ、どんな結論が出されたのかを踏まえて、民主的プロセスにフィードバックしていく必要があります。仮に、今回の裁判で原告側の主張が棄却されたとしても、そこで終わりではありません。それで本当にいいのか?社会で考えていく必要があります」

    Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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