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維新の躍進は予想通り? 「ポピュリズム」という評価は的外れ? 大阪で自民党が全敗した理由

関西学院大学教授の善教将大さんは「維新支持をポピュリズムとして説明することには限界があると考えています」と指摘する。なぜか。

2021年衆院選で、日本維新の会(代表・松井一郎大阪市長)は41議席を獲得し、勢力を4倍近く増やした。

候補者を立てた大阪府の15の小選挙区全てで日本維新の会は勝利。一方で自民党は全敗し、立憲民主党の大物議員も落選した。

ここまでの支持を日本維新の会はなぜ集めるのか。

著書に『維新支持の分析 --ポピュリズムか、有権者の合理性か』(有斐閣、2018年)などがあり、これまでも維新支持層の分析を行ってきた関西学院大学教授・善教将大さんに話を聞いた。

維新現象は本当に「ポピュリズム」か

「維新が関西において自民党の候補者に競り勝つ可能性が高いことは、選挙の前から調査をする中で一定の予測ができていました。ただし、維新が候補者を擁立した大阪の選挙区全てで勝ったことには驚きました」

大阪維新の会、そして日本維新の会の強さについて語られる時、セットで提示されることが多いのが「ポピュリズム」だ。

維新はわかりやすい「敵」を作り、その「敵」に立ち向かうことを呼びかける。そして大衆はこうした呼びかけに扇動されていくーー。

こうしたイメージに基づき、維新の強さが説明されることは少なくない。しかし、善教さんは「維新支持はポピュリズム政治の帰結だという結論には十分な根拠がない」と指摘する。

どういうことか?

「学術的にポピュリズムを説明するときによく用いられる枠組みとして『理念的アプローチ』というものがあります。その理論枠組みに照らし合わせて維新支持者の特徴を説明できるかと言われると、それを支持する実証的な証左はないのです」

ヨーロッパなどではポピュリズムを「反エリート主義」など、政治家や政党が特定の理念を主張し、その理念に共鳴する人が当該政党や政治家を支持する政治的な運動として捉える立場がある。

この考えに即して分析を進めると、維新支持者の間にこのようなポピュリズム的な「理念」を支持する強い傾向は見られないという。

橋下徹氏や吉村洋文氏、松井一郎氏など維新の関係者は自民党批判や野党批判をいとわない。歯に衣着せぬ言動が話題を呼び、注目を集めることも少なくないのは事実だ。

だが、善教さんは「政治家自身がポピュリストであることや、政党がポピュリズム的な動員戦略を採用することと、有権者が何を支持するかは別の問題です」と指摘する。

「橋下徹氏が、大阪維新の会の代表としてメディアに出演し、そして『ハシズム』などとさまざまな論者から批判され始めたのは2011年頃からではないでしょうか。しかし、そのような橋下氏の政治スタイルが支持を調達することにつながっていたかというと、そうではありません。むしろ逆に、彼の支持率は一貫して低下していました」

「このような事実から、維新という政党やそこに所属する政治家がポピュリストだと主張することはできても、維新支持者が政治家の戦略に動員されていると主張することはできません。この点でも、維新支持をポピュリズムとして説明することには限界があると考えています」

強まり続ける関西での「地力」。背景には大阪市と大阪府の構造的課題も

ポピュリズムでなければ、なぜ維新は関西でここまで強いのか。

善教さんは、維新は自身の政党ラベルに「大阪」の代表者という価値を付与することに成功したことが重要な要因だと説明する。

「関西圏外の人は、維新が大阪で強いのは『大阪発祥の政党だから地元の利益を第一に考えているため』と言うかもしれません。しかし、維新だけでなく自民も立憲も共産も、大阪から選出された議員は地元のことを考えます。大阪発の政党であるということは維新が支持される理由を考える上で重要ではありますが、大阪が抱える構造的な問題がどのようなもので、そこに維新がどうアプローチしてきたのかを考えないと、支持の論理は見えません」

その構造的な課題とは、大阪市と大阪府の複雑な関係性だ。

大阪市は人口270万人超の政令指定都市。

その行政区域に様々な企業や商業施設が集中している。昼間の周辺地域からの人口流入は他の政令市と比べて桁違いに多い。

多くの人が昼間は大阪市で就労し、夜になれば大阪市外の自宅へ帰る。「大阪」の都市圏は大阪市の行政区域を越えて、兵庫県の一部にまたがるほどの広大さをもつ。

このような状況を背景に、大阪市の政策は市域を超えてさまざまな地域に波及する。「大阪」という広大な都市圏を前提に都市のあり方を考えなければならない大阪府は、大阪市を無視できない。

しかし、政令指定都市は、一定の行政・財政能力がある大都市に、都道府県に近い権限を与える制度だ。一般の市町村と比べ自治体として独立性が高い。

大阪市はあくまで大阪市のことを考える。「大阪」のことを考える大阪府と、考え方の不一致が大きくなり「府市合わせ」と揶揄されるほどの関係性が構築される。

こうした大阪市と大阪府の関係によりもたらされた「二重行政」を、維新は繰り返し指摘した。「大阪都構想」を維新は掲げていたが、同様の議論は維新の結党前からなされていた

「大阪市のことは大阪市で、大阪府のことは大阪府で、という役割分担は一見合理的に見えます。一方で、このような『役割分担』は政治的な調整を放棄しているに等しいとも言える。大阪市と府の利害を調整する主体が不在だったのです。この『政治』の機能不全という問題に切り込んだのが維新でした」

「維新の対抗馬である大阪の自民は、大阪市と府の利害調整が『できない』政党だという評価が大阪市民・府民の中では根強い。そんな中で維新は、政党という媒介を通じて府市の利害を調整し、様々なことを決める政治的なリーダーシップを発揮しました。府市を統合し、政治的なリーダーシップを発揮する広域調整主体という点において、維新は他党より優れていると評価されているのです」

誰が「維新」を支持するのか

維新支持者は「熱狂的」。そんなイメージも「間違いだ」と善教さんは言う。

調査の結果、維新支持者の多くは「弱い支持」であることがわかった。むしろ「熱狂的」なのは不支持層という。

では、維新を支持する人々とはどのような人々なのか。

このように問いかけると、善教さんは「いろんな人です」と間髪入れずに答えた。

「特定の層が支持しているという発想を持つ時点で見誤っているのです。特定の属性を持つ人が継続的に維新を支持しているという考えを持ち続ける限り、維新支持の実態を理解することはできません」

国政では自民党を支持するが大阪では維新を支持する、国レベルでは支持政党はないが大阪の政治では維新をゆるく支持する…

支持者は一枚岩ではない。

「維新支持者の内実は多様であり、彼らや彼女たちは必ずしも強固な支持態度をもたない。弱い支持であるということは変わりやすいということでもあります。その意味で維新は薄氷の上を歩き続けているような状態です」

衆院選の開票日から翌日にかけて、SNS上では維新の勝利に驚く人々の声が飛び交った。「なぜ維新が大阪(と関西)で勝つのか?」というブログの記事も拡散した。

だが、善教さんは「維新支持の理由を知りたいのであれば、思い込みを捨てて、これまで蓄積されてきた多くの知見を参考にしながら、有権者の論理と真剣に向き合う必要があります」と断言する。

「なぜ維新が支持されているのか。こうしたことをデータに基づき分析せずに、自分の頭の中で仮想の支持者像を作っているようでは、維新に利する状況が続くだけではないでしょうか」

改革政党だから支持? →根拠は不十分

維新は「改革」を強調する。そのため一説には、「維新は改革政党だから支持されている」との言説もささやかれる。

しかし、こうした「評価」も根拠が定かではないという。

こうした言説の根拠として提示されることが多いのは、早稲田大学の遠藤晶久准教授らの研究だ。

この研究は40歳以下の世代が維新を「革新」政党と認識している実態を実証的に明らかにしている。維新は改革政党と認識されている、と言われる根拠のひとつだ。

だが、実は、この研究では維新が「革新政党」であるという認識が、維新所属の政治家への支持と強く相関しないことも同時に明らかにしている点には注意する必要がある。

善教さんは次のように語った。

「維新は改革政党だから支持されているという言説にも、実は十分な根拠はありません」

「選挙戦を見ればわかりますが、立憲も『変えよう』と訴えていた。維新が何か『変える』から支持されているのなら、立憲も維新と同程度支持されるでしょう。今の政治を変えるかどうか、改革するかどうかというアピールが本当に支持の源泉なのか、冷静に分析した方がよいでしょう。少なくとも遠藤氏らの研究結果は、維新が改革政党だから支持されているという主張を強く裏付けてはいません」

維新躍進の背景に、高まる自民党への「政党拒否度」

こうした前提の上で振り返ると、今回の選挙結果を左右した要因は何だったのか。

ヒントとなるのが、関西学院大学の山田真裕教授らの研究グループが、全国の有権者を対象にオンライン上で実施した2021年7月の調査結果だ。

この調査の「政党拒否度」が鍵を握る。

実は7月時点で、自民に対する政党拒否度が立憲民主に対するものよりも高いという結果が出ていた。

「政党拒否度の高い政党の典型例は共産や公明です。コロナ禍が始まるまで、自民の政党拒否度が立憲を越えることはなかったように記憶しています。しかし、山田教授らの調査結果では、自民への拒否度が相対的に高い結果が示されました。このような結果は、これまで基本的には見たことがありません」

この結果へつながった理由として考えられるのが、コロナ対応の責任の所在を巡る議論だ。

善教さんは2021年8月に、大阪府の有権者を対象にオンライン上で実施した調査の中で、「新型コロナ感染者の急増による医療崩壊の責任は誰にあると思うのか」という質問を尋ねている。

その結果、最も多かったのが「内閣・首相官邸(52.15%)」、2番目が「菅義偉首相(51.58%)」、3番目が「与党の政治家(47.85%)」という回答だ。

一方、「都道府県知事」は12.03%、「市区町村長」は7.78%であった。

「この調査結果からわかるのは、一般的にコロナ対応の責任の所在は地方でなく首相、国、与党へと向かう傾向にあるということです。コロナ対応をめぐり内閣支持率は下落しましたが、大阪における吉村知事の支持率は依然として高く、維新支持も堅調でした。これらの現状は、有権者の責任帰属の論理から説明可能ということです」

善教さんは、東京、愛知、兵庫でも同様の傾向が見られると言う。

「有権者の自民党に対する政党拒否度は、少なくとも7月には高まっていました。自民党や安倍政権支持者の中には、他に選択肢がないからと消極的に支持する人が一定数いたと考えられます。しかしコロナ禍を経て、自民党にはさすがに投票できないと考えた人が自民を拒否したのです。ではその時、どの政党が『受け皿』となるのか。特に関西では維新がその役割を果たしました」

自民が拒否される傾向は、善教さんが選挙直前の10月29日~31日にかけて実施した調査でも揺らぐことはなかったようだ。

「今回の選挙結果については、もともと関西で地力のあった維新が、自民へ投票しがちな人の受け皿となり、ごっそりと票を自民から持っていたがゆえに生じたと見るのが妥当だと思います。私が選挙後に実施した調査では、小選挙区で自民に入れた人の一定数が比例では維新に入れています。選挙区に維新の候補者がいる場合、この小選挙区で自民に入れた人の票が維新に動くと考えられます。すると、自民と維新が競り合った時に、維新が軒並み勝利する構図が出来上がります」

全国区への挑戦は「難しい」

さらに今回は、小選挙区と比例区で異なる政党に票を投じる「スプリットボート(分割投票)」の傾向にも、ある特徴が出たという。

「小選挙区では自民に、比例では公明に票を投じるという分割投票のケースはよく見られました。しかし、今回は先ほど述べたように、小選挙区は自民もしくは立憲だが比例は維新というケースが一定数確認されました。この結果を見れば、全国的に維新が比例で複数の議席を獲得したことにも納得がいきます」

衆院選では吉村氏や松井氏ら維新の幹部が東京入りし、街頭演説を行った。

街頭では大阪での実績を強調し、「改革」の必要性を説いて回った。

だが、善教さんは維新が東京はじめ関西以外の都市圏で支持を集めることは「まだ難しい」と説明する。

なぜか。

「維新は複数回の離合集散を経て、大阪に特化した政党となりました。このような経緯を踏まえれば、全国的に支持を集める政党へと挑戦することには、相当慎重になるのではないでしょうか。また、有権者の側にも維新を『大阪』の政党とみなす傾向は根強い。この点でも、多くの壁があるのが現状でしょう」

「また、自民党やその他の野党から見たときに、維新が大阪はじめ関西に特化し、ここではどんな風が吹いても絶対に揺らがず一定の支持を得続けるというポジションを確立した方が怖い存在となるかもしれません。なので、現状を維持する方向へ舵を切っても不思議ではないです」

問題があるとすれば、それは…

今回の衆院選の結果をめぐって「日本の有権者はかなり愚かだ」といった声も一部で上がっている。

だが、選挙結果をもとに批判の矛先を有権者へ向けるのは適切ではない。

「大阪市民は、一方では維新を支持するが、他方では都構想に反対する冷静さをもつ・・・市民社会を嘆くのではなく、その可能性を信じる道があることを指摘したい」

(『大阪の選択:なぜ都構想は再び否決されたのか』、p.213)

善教さんは著書の中でも、このように主張する。

「現在の公職選挙法では現職が有利となりがちです。特に短期決戦となると、その傾向は強まる。有権者だけに問題があるのではなく、政治のルールそのものにも多くの問題があるのです。たとえば現在の地方の選挙制度もそうです。かつての民主党や今の立憲民主党が地方に政党としての根を張ることを難しくさせている原因の一つです」

「今回の衆院選のように準備期間が短いと、結局は地力が物を言うことになります。自民党が短期決戦に打って出た中、関西において地力のある維新は、問題なく自民党と張り合える。そのため維新の一人勝ちとなった側面もあります」

「今回の選挙結果について、近視眼的に考えるのは適切ではないと考えています。コロナ禍の様々な出来事の結果として起きたことや、選挙を取り巻くルールの重要性も考慮すべきです。政治をめぐっては印象論で語られることも少なくない。しかし、既存の理論や知見に基づきながら有権者のデータを分析し、そこから何が言えるのかを冷静に考えることが、選挙結果を理解する上では重要なのです」