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「芸能人のように自分も…」相談窓口には切実な声 7月19日と9月27日に自殺者が急増した理由

どうにか生きることに留まっていた人たちを相次ぐ自殺報道が自殺の方向へ後押ししてしまったのではないか。いのち支える自殺対策推進センターの代表理事を務める清水康之さんが、報道陣を前に驚くべきデータを発表した。

いのち支える自殺対策推進センター」代表理事の清水康之さんが11月25日、日本記者クラブで記者会見を開き、「増加が続く自殺者数に、著名人の自殺に関する報道が大きく影響している」と指摘した。

新型コロナの影響で様々な悩みや生活上の様々な問題を抱えていた人や元々自殺念慮を抱え、どうにか生きることに留まっていた人たちを、「相次ぐ自殺報道が自殺の方向へ後押ししてしまったのではないか」。

自殺対策推進センターは、こうみている。

自殺報道による後押し、科学的に実証済み


Wacharaphong / Getty Images

自殺に関する情報によって誘発される自殺は「模倣自殺」と呼ばれる。

自殺や自殺への対策に何が影響するのかその要因は完全には解明されていない。しかし、メディアの報道が自殺対策の取り組みを強めることもあれば、模倣自殺のリスクを高めることもある。

報道が模倣自殺を引き起こす現象は「ウェルテル効果」と呼ばれる。ゲーテが『若きウェルテルの悩み』という小説を出版した18世紀後半、小説の影響を受けて主人公と同様の服を身につけ、同じ手段で自殺するケースなどが多数報告されたことに端を発する。

1970年代以降は新聞の1面に自殺関連の記事が掲載された月と全く掲載されなかった月の自殺者数を比較した研究が行われ、1面で自殺関連の記事が掲載された月の自殺による死亡者数が著しく増加していることなどが確認されている。

自殺手段を伝える報道記事や自殺に関する人々の誤解を助長する報道記事も報道後の自殺増加につながることがわかっている。

WHOの「自殺予防 メディア関係者のための手引き」では「報道後の短期間に起きるような自殺の増加は、どちらにせよ起こったであろうという自殺が単に早く発生したということではない」と結論づけられており、「報道後の短期間に起きる自殺は、不適切なメディア報道が無かったら起きなかったと考えられる自殺」とされている。

特別な人が亡くなる特別な課題ではない

日本記者クラブ

「自殺というと、何か特別な人が特別な課題を抱えて突然亡くなることだと思うかもしれません。でも、決してそうではありません」

清水さんは自身が代表を務めるNPO、自殺対策支援センター・ライフリンクが実施した実態調査で自殺する人は「平均すると4つの原因や動機を抱えて亡くなっている」とし、自殺は複合的な問題で起きることだと語った。

いのち支える自殺対策推進センター

今年の自殺者数は4月から6月までは前年を下回っていた。しかし、7月以降に増加傾向へと転じ、10月には前年の同じ時期と比べて自殺者が619人増加した。

こうした増加傾向は「コロナによるものと断言ができないが、おそらくそうであろうと推測できる」と清水さんは言う。

「自殺する人の背景には様々な問題があり、背景の問題が悪化している状況がある。(そうした問題が悪化したことの)影響受けたと考えられる属性の人たちが亡くなっている。背景の原因問題を悪化させたコロナの影響で自殺が増えたのではないか」

「自分もそっちに引き込まれてしまいそうで怖い」

いのち支える自殺対策推進センター

清水さんはその上で、報道が自殺に与える影響について、警鐘を鳴らした。

7月、9月の自殺者数の推移を日別に見ると、7月の半ばと9月下旬に自殺者が急増したポイントが存在する。

人気若手俳優が自殺した翌日の7月19日と人気女優が自殺した当日の9月27日だ。

自殺報道が増える中、いのち支える自殺対策推進センターの相談窓口には様々な声が寄せられていた。

・芸能人の自殺のニュースを見て、自分もそっちに引き込まれてしまいそうで怖い(30代女性)

・新型コロナの影響で客が減り、経営が厳しくてお金が心配。芸能人のように自分も自殺して早く楽になりたい。(40代男性)

・もともと生きていたくない。自殺のニュースをみると「楽になって良いな」と、死んだ人のことがうらやましくなる。(20代女性)

・「自宅のクローゼットで、、、」とニュースで聞いて、何十年も前に亡くなった家族の姿が突然よみがえり、動悸が止まらない。(70代女性)

・有名人の自殺に関する記事が気になってネットで読み続けている内に、死にたい気持ちが再燃してしまった。(30代男性)

・うつ病で常に死にたいと思っていたが、失業と芸能人の死で、死にたい気持ちが強くなりもう限界。(40代女性)

いのち支える自殺対策推進センター

こうした自殺報道によって、どれだけの影響が出たと考えられるのか。

9月27日以降の10日間で、「160人から260人くらいの人が自殺報道の影響を受けて自殺したと考えられる」「女性の方がより多く、この影響を受けて亡くなった可能性がある」という。

特に7月以降は無職の女性の自殺が増えている。また、同居人がいる女性の死亡が増える傾向が見えているとした。

センターでは自殺報道について、242媒体に向けて呼びかけ

いのち支える自殺対策推進センター

こうした中で、いのち支える自殺対策推進センターでは今年、合計82社 / 242媒体に向けて呼びかけを行ってきた。

直接メールで呼び掛けたものやTwitterでメンションをしたケースも含まれている。

その結果として、自殺報道について「確実に改善されてきている」と評価しつつ、まだ十分とは言えないと苦言を呈した。

「よりセンセーショナルな記事が読まれやすい、拡散されやすい。ほとんど全てのメディアの方たちがいくら(ガイドラインを)踏まえた報道をしていたとしても、ごく一部のそうでない人がいる場合、そちらの情報が拡散されていく。社会全体で見ると、自殺報道が改善の報道へいっているとは言い難い」

「私は元々、NHKの報道ディレクターをしておりました。ですから、報道の義務、責務についても私なりに考えがあります。いくらWHOが手段を報じるべきでないと書いていたとしても、書く必要性に迫られる場面も当然あると思います。詳しく伝えることと自殺報道の危険性、その間で各社が葛藤しながら今回はどこまで書くのか考え、自殺報道をしていくべきではないかと思います」

Rafael Elias / Getty Images

オーストリアのウィーンでは地下鉄における自殺の報道をガイドラインに沿った形で行ったところ、地下鉄の自殺死亡率が75%低下。またウィーン全体の自殺による死亡率も20%低下したことが研究の結果、明らかとなっている(Etzersdorfer E, Sonneck G , Arch Suicide Res. 1998)。

このように適切な支援先や自殺に関する正しい情報を提供することなどが自殺による死亡率を減少させることにつながることは「パパゲーノ効果」と呼ばれ、科学的にも実証されている。

こうした「パパゲーノ効果」も踏まえ、自殺に関する日常的な報道の中で、「自殺ではなく生きる道がある」「困難にありながら、生きる道を選んだ人がいる」と伝えることが重要だと清水さんは訴える。

「翌日から自殺が減るような報道を一緒に考えさせていただければと思います」

身近な思い悩む人にどう向き合う?

Yuto Chiba / BuzzFeed

国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長の松本俊彦さん

思い悩む人が周囲にいるとき、私たちはどのように接するべきか。頭を悩ませる人も少なくない。

自殺の実態調査や自殺予防の活動を行う国立精神・神経医療研究センター・薬物依存研究部長で精神科医の松本俊彦さんはBuzzFeed Newsの取材に以下のように語っている

「あれちょっといつもと違うな、塞ぎ込んでいるなと思うなら声をかけてほしい。『別に』『大丈夫』と答えが返ってくるかもしれないけど、『煩わしいかもしれないけど、もしよかったら話してね』と伝えてほしい」

「自殺を考えているんじゃないかと思うなら、『死ぬこととか考えてる?』って率直に聞くことも1つの方法です。死ぬことを考えているのかと尋ねることが自殺の呼び水になることはありません。むしろ、この人の前では自分の悩みを隠さなくても大丈夫だという安心感へとつながるんです」

「死にたい、死にたいと言っている割には死ぬ気配がないし、『死ぬと言ってる奴は案外死なないもんだ』『死にたいと言っているうちは大丈夫』と思う人もいるかもしれません。でも、言わなくなったら時はもう助ける手立てはない。手遅れなんです」

「だから、『死にたいなんて言うんじゃない』『生きていることへの感謝が足りない』と説教をするのではなく、『正直に言ってくれてありがとう』と伝えてほしいと思っています」

また、死を選ぶことが頭をかすめている人に対しては以下のようなメッセージを伝えたいと強調する。

「もしも今、死にたいぐらいしんどい気持ちの中にあるのなら、そのつらさや苦しさを自分以外の誰かにも知ってもらうことは意味があると伝えたい。一番の孤独は自分一人で悩むことですから」


「いのち支える自殺対策推進センター」が掲載している全国の相談先窓口リストはこちら

自殺予防いのちの電話:0120-83-556
よりそいホットライン:0120-279-338

Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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