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感染拡大でネットカフェで暮らす4000人が路上に?不況で「住まいを失う人が急増」の懸念も

ホームレス総合相談ネットワーク、ビッグイシュー日本をはじめとする5つの団体が4月3日、東京都福祉保健局に緊急要望書を提出。路上生活者の支援現場などでは、「住まいを失う人が急増するのではないか」という危機感が募っているという。

ホームレス総合相談ネットワーク、ビッグイシュー日本をはじめとする5つの団体が4月3日、東京都福祉保健局に緊急要望書を提出した。

5団体は新型コロナウイルスの感染が拡大する中で「不況が始まっており、住まいを失う人が急増するのではないか」という懸念を表明。東京都に対して、民間団体とも連携をしながら十分な支援体制の整備と資金投下を要望した。

ネットカフェで暮らす4000人が路上に?

今回の緊急要望書の呼びかけ人で、これまで路上生活者の調査を行ってきた北畠拓也さんは、現在すでに仕事を失っている人、新型コロナウイルスの影響でいまにも住まいを失ってしまいそうな人、すでに路上生活を送ってる人に対してそれぞれ支援を行う必要があると指摘する。

経済的なダメージが日に日に大きくなっていく中で、現在辛うじて収入を得ながらネットカフェなどで暮らす「住居喪失不安定就労者」、ネットカフェや漫画喫茶などを転々として暮らす人たちが路上生活に追いやられる可能性があるという。

現在、東京では約4000人がネットカフェ等で暮らしていると言われている。ネットカフェは業種としては飲食業に分類されるため、ロックダウンされた際には営業停止する可能性が高い。

「東京の経済活動がより一層自粛強化され、停滞した場合やロックダウンなどで飲食店の営業停止が起こった場合、こうした人々はすぐにでもホームレス、路上生活になる」

「こうした影響が出るにはタイムラグがあり、仕事を失った非正規の労働者や派遣の労働者の方たちが路上生活者になるのは今日すぐということではありません。ですが、その可能性が徐々に高まっています」

現在の生活保護に潜むリスク

「だとしたら生活保護を使えばいいと考えるかもしれません。ですが、生活保護につながった場合、多くの人が集団生活を送ることになる。部屋は相部屋です。そのため感染リスクが高くなります」

生活保護をはじめとする行政の支援プログラムの中にも無料低額宿泊所など最低限の住居を保障する仕組みも存在する。

ホームレス状態でも生活保護は申請できるが、原則として路上生活をしながら保護費を受け取ることは認められていないため、生活保護を申請したその日から、行政が紹介する施設に入所する場合が多い。

そうした施設の多くは相部屋で、中には10人部屋、20人部屋の施設も存在する。

こうした無料低額宿泊所の環境が劣悪であるという問題の指摘は以前からなされており、今年4月から厚労省は規制を始めた。だが、3年間は事業者に対して猶予期間が設けられており、まだまだ集団生活が行われているのが現状だ。

そのため「感染リスクを下げながら、しっかりとした住居に住むことはなかなか難しい」と北畠さんは言う。

つくろい東京ファンド代表の稲葉剛さんは、「生活保護は受けたいけれど、個室はないのか」という声が以前にも増して多いと語る。

ある60代の路上生活者は「生活保護は受けたいが10人部屋は怖い。相部屋なら審査は諦める」と明かしたという。

また池袋の炊き出しに訪れたある男性は生活保護で入居できる施設の3人部屋から「逃げてきた」人だったと会見で明かした。

現在、つくろい東京ファンドでは都内に28部屋の個室シェルターを確保している。数を増やすための努力は行っているが、「民間活動には限界がある」。

稲葉さんはロンドンをはじめ、世界の各都市で行政がホテルを借り上げ、ホームレスの滞在場所にしている例をあげ、東京でも同様の個室を確保するといった対応を求めた。

リーマンショック時もタイムラグが

池袋で炊き出しや夜回りを行っているNPO法人TENOHASIの清野賢司さんは、「そもそも皆さん、どんなリスクがあるのかわかっていない。志村けんさんが亡くなって初めて驚くような状態」と説明し、路上生活者や生活困窮者たちに新型コロナウイルスの危険性が周知されていないと感じていると明かした。

そのため、予防には手洗い・うがいやアルコール消毒が必要なことや相談をしたい際にはどこにアクセスすればいいのかを明記したチラシを配布している。

活動の中で新型コロナの影響で仕事を失った人にはまだ出会ったことがないとしながらも、生活困窮は段階的に進むことが予想されるため今後への警戒感を強めている。

「リーマンショックのときも、9月にリーマンブラザーズが破綻して、炊き出しに並ぶ人が1.5倍に増えたのが11月。2ヶ月のタイムラグがあった。そして年末には年越し派遣村が設置されました」

イベント業界など日雇いの仕事も減少してるため、今後相談窓口に来る人が増えるのではという見通しを示した。

ためらうことなく、生活保護を

司法書士の後閑一博さんは「現在多くの相談を受けている」と話す。そうした相談の多くは生活保護を受けるべき人であることが多いが、新型コロナウイルスの感染が拡大する中で「いままでギリギリで生活をしていた、仕事をすればなんとか生活できていた人」からの相談が増えているという。

これらは預金があったとしても数万円で、仕事がなくなったことで収入が途絶え、生活が一気に困窮状態に陥ったケースだ。そうした人には生活保護を受けるようアナウンスを進めている。

稲葉さんは生活保護を受けるのはだらしのないこと、恥ずかしいことといったスティグマがある一方で資産要件が厳しいことが必要な人がアクセスすることを妨げていると指摘する。

預金額が一定以上ある場合、たとえ収入が減少していても生活保護の給付を受けられない傾向にある。だが、その要件緩和も行政の「通知一本で解消できる」ものだと後閑さんも言う。

「資産がなくならないと利用できないとか、あるいは家族に扶養照会の連絡がいってしまうことで申請を避けるといった問題がある。これらの利用を妨げる制度を、新型コロナウイルスが終息するまででも良いので思い切って取り除いてほしい」

稲葉さんは資産要件緩和の必要性をこのように訴えた。

北畠さんは会見の最後に、生活保護を受給することをためらわないでほしいと呼びかけた。

「生活保護自体は誰にも認められているもの。こういう社会全体が不安になるときこそ、皆さんが自分もいつどうなるかわからないと考える時です。世の中の考え方が変わるタイミングでもある」

「困ったときば頼ればいい。元気な人は働けばいい。これを機に社会全体の考え方を変えていきたい。困ったときはすぐに支援につながってほしいです」

【賛同団体一覧】
・ホームレス総合相談ネットワーク
・有限会社ビッグイシュー日本
・一般社団法人つくろい東京ファンド
・新宿連絡会
・認定NPO法人ビッグイシュー基金
・NPO法人TENOHASHI

【関東甲信越地方の生活保護相談窓口】
首都圏生活保護支援法律家ネットワークの電話番号:048-866-5040